記事に「#ネタバレ」タグがついています
記事の中で映画、ゲーム、漫画などのネタバレが含まれているかもしれません。気になるかたは注意してお読みください。

Book072『マチネの終わりに』平野啓一郎

(以下、ネタバレ含む感想)




↓↓↓
小説を読むのが苦手な私が最近一気読みした一冊。
主題と作者の主張が明白なビジネス本と違い、一冊通じて読まないと感じられない、感情が湧き上がる本だった。

個人的に様々な問いが生じたのが以下3点。
①生と死
作中を通じて、テロや震災などによる社会問題・災害に起因する死から、個人の悩みに起因する死まで幅広い死が扱われていた。また、同時に子の誕生から自身の再生(新しい音楽家の誕生)まで多くの生も同時に描かれていた。この生と死が入り乱れた世界で、生きることを自分はどう定義するか?

②過去と未来
過去は変質しうるということ。
未来は過去をも変えていけると同時に変えてしまう可能性を持つ。これは作中でも何度も直接的に語られていた、作品全体の主題の1つ。『過去は及ばず、未来は知らず、ただ現在のみに力を注ぐ』がモットーだったが、たしかに過去とはいうのは非常に繊細で、未来次第でいくらでも意味づけが変わる、希望になると同時に一種の脆さもあるものだと再解釈できた。個人的には未来の行動は過去をも変えうる、というのは希望に感じた。

③2人の関係性
序盤の軽やかな展開から一点、2人の関係性を変えた日本での出来事については、正直はじめ少し興醒めしそうになった。浅はかながら、『さすがにそんな簡単なミスコミでこうはならない』と思ってしまったのだが、さらに読み進めると洋子の『生きる資格』・『幸せになる資格』にまつわる深い葛藤があったからこそ、二人の仲を切り裂いたのかと理解した。きっかけは何であろうと、そこからの反応にあるのは人間の抱える複雑な感情が作用することを改めて感じた。

人間ドラマが美しすぎて、なかなか得られない余韻と感情が湧き上がった。小説とはこのような楽しみ方もできるのか、と感じることができたこの本に感謝。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?