未来の宗教学者が現代のなろう文化を宗教だと考えているようです
かつては八百万の神を信仰し、その後仏教や儒教、キリスト教の影響をうけ、時代ごとに様々な宗教を信仰してきました。私たちの文化、習慣の端々にその影響がみられますが、平成後期からは海外から伝わったものではない、独自の信仰を確立していきました。
平成後期から徐々に、日本人は異世界を信仰するようになります。ネット小説という文化がこれを後押しし、徐々に多数の信者を獲得するに至りました。その影響は、小説のみならず、アニメ、漫画、ゲームなど、多くにわたりました。この新たな信仰は、これまでの宗教とは全く異なる性質を持っていました。
まず注目すべきは、この信仰はかつてないほどに平和的に行われました。転生する際に現れる神は、その性格も含め様々ありましたが、異なる周波同士での対立、衝突の記録は一切ありません。既にインターネットが発達し、個人での発信、記録が可能になっていたため、それらの記録が失われたという可能性も否定することができます。
この信仰は、極めて寛容であったと考えられます。ただ一つの聖書は存在せず、死後異世界に転生し、物語のような生活を送るという点のみが重要視されていました。誰があらたな宗派を立ち上げ、教えを広めようと認められていました。むしろ、そのような活動を促すような小説投稿プラットフォームがいくつも存在していました。
以上の点から、異世界信仰はこれまでのどの宗教とも違い、ただ個人の精神的な救いのみを重視していたということができます。どのような神に転生するのか、転生後にどのような生活を送るのかは、一人ひとり違ったものを信じていても許容されていたのです。これには、教会が存在しなかったことが良い影響を与えたのかもしれません。教会が唯一の教えを広めるのではなく、信者がここに教えを広めることができ、多くの神作家と呼ばれる聖人たちが存在していました。
では最後に、異世界信仰の多様な宗派を概観していきましょう。最も基本的な信仰は、不遇な生活をしていた者が命を落としたのちに、異世界に転生しその異世界で英雄的な活躍をするというものでした。老若男女にかかわらず、どのような人でも転生することができると信じられていました。これは、様々な作品において、多種多様な人々の転生物語が出版されていたことから確認できます。例えば、サラリーマンが転生する、「転スラ」こと『転生したらスライムだった件』、ひきこもりの学生が転生する、「リゼロ」こと『Re:ゼロから始める異世界生活』、女性が転生する、「のうきん」こと『私、能力は平均値でって言ったよね!』など、様々な作品が存在しています。もちろん、それぞれの作品において転生をつかさどる神の描写も様々です。転スラにおいては人工知能のような存在が、リゼロにおいてはその存在は描写されることなく、のうきんでは大雑把な性格の神が描写されています。もちろん転生後の人生も多種多様で、王になるもの、ヒロインを救うために困難な状況での試行錯誤を繰り返すもの、気ままに世界を冒険するものなど多岐にわたっています。
これらの作品は現代においても小説投稿サイトで公開されています。かつての日本で栄えた異世界信仰に興味を持った読者の方は、ぜひ一読してみてはいかがでしょう。かくいう私も、いまではいくつもの作品を読み、一端の信者となったのでした。
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