自分を見つけるブックカフェ店主

愛知県田原市にあるお一人様用の席しかないブックカフェ「自分を見つけるブックカフェ」の店…

自分を見つけるブックカフェ店主

愛知県田原市にあるお一人様用の席しかないブックカフェ「自分を見つけるブックカフェ」の店主。 ネットという電子世界の海に自分の考えを漂流させていきます。 僕の考えや言葉が誰かに流れつき、またその誰かがうちのブックカフェに流れ着くことが目標。

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ぜひ観て欲しい映画『サウンド・オブ・フリーダム』

今、劇場で公開されている映画『サウンド・オブ・フリーダム』は、世界で問題になっている児童人身売買についての実話を基にした映画で、一人でも多くの人に観てもらいたいと思えるような作品だったので、この場を借りて紹介させていただく。 一人の少女が「あなたならスターになれるわ」と見知らぬ女性にタレントオーディションの誘いを受ける。父親の了承を得て、少女は弟と一緒にオーディションの会場へ行く。見送りに来た父親は「夜に迎えに来るように」と言い伝えられたので一度家に帰ると、無事にオーディシ

    • 強制収容所を生き抜いた精神科医、V.E.フランクルの名著『夜と霧』

      言わずと知れた名著『夜と霧』、ご存知の方も多いとは思われるが、知らない方やまだ読んだことのない人が本書を手に取るきっかけになれば幸いである。 本書は、ユダヤ人の精神学者V.E.フランクルが、強制収容所での実際の体験を赤裸々に語ったものであるが、フランクルの何がすごいかと言えば、収容所の悲惨さや人間の残酷さ、極限とまで言える絶望的な状況を実際に体験しても、人間それ自体を否定しきらなかったところだ。 自分なら、人を恨んでやまないだろう。 自分や家族を収容所送りにし、自分以外の

      • 本を読む人の姿は美しい。本を読んで涙を流す人の姿はなお美しい。

        うちは1人席しかないブックカフェなので、お客様の99%は本を読んでいます。 本を読むお客様の姿をカウンターから眺めながら、本を読む人の姿は本当に美しいなぁと、常々思っています。 本を読んでいる人が自分一人の世界に没入している様子は、凛とした姿で咲いている一輪の花を思わせるような、健気な美しさがあり、それを見ているだけでこちらも嬉しい気持ちになります。 先日、来られたお客様も、一人で本の世界に没頭していました。偶然、他にお客様がいなかったので、店内には店主とその人だけでし

        • 哲学者池田晶子の全著作を読破したので、ざっくりと紹介

          まず池田晶子という人について。 池田晶子は、哲学用語を使わない文章のスタイルで、本質を考える「哲学エッセイ」を多く書いた哲学者である。 日本で哲学者というと、99%が大学やアカデミックな場所で教授をしていたり研究をしていたりする人になるが、池田晶子はどこにも所属せずに生涯を通して哲学エッセイを書き続けた「在野の哲学者」とも言える。 僕は全著作を全て所持しており、また読破したが、ここに全部を載せていくとあまりに長い文章になってしまうので、全著作のなかから特徴的なものを抜粋

        ぜひ観て欲しい映画『サウンド・オブ・フリーダム』

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        • 本の紹介
          11本
        • カナダ滞在記
          9本
        • 消え行くまでのせめてもの間に
          1本

        記事

          詩の紹介 宮沢賢治『雨ニモマケズ』

          宮沢賢治の代表的な詩。 この詩を書く少し前に宮沢賢治は高熱で倒れ、死を覚悟し家族に遺書を書いている。その背景を知ると、この詩は生涯を通じて病弱で若くして亡くなった宮沢賢治が「こうなりたい」「こうありたかった」という説なる願いのようにも思えてくる。 そういった背景を知った上で読んで見て欲しい。一部、仮名遣いを現代語に訳して引用。

          詩の紹介 宮沢賢治『雨ニモマケズ』

          カナダ滞在記#9 1週間ぶりに浴びるシャワーに感動して「足るを知る」

          ヒッチハイクの旅を終えアートフェスティバルから帰ってきた僕は、語学学校の学生としての生活を再び始めることとなったが、1週間ほどキャンプ生活をしていたため色々な当たり前のことがありがたく思えてならなかった。 まず、キャンプから帰ってきてから1週間ぶりに浴びるシャワーの気持ちよさと言ったら、気も狂わんばかりだった。 山の中の村のキャンプ場には当然、シャワーなどないので1週間身体を洗わずに過ごしていた。1週間も洗わないと逆にそれに慣れてくるというか、元の綺麗な状態を忘れるので何

          カナダ滞在記#9 1週間ぶりに浴びるシャワーに感動して「足るを知る」

          詩集の紹介 『吉野弘詩集』

          吉野弘の代表的な作品である『奈々子に』を引用する。この詩は吉野さんが自身の娘に書いた詩で、父親が子を心から大切に思う気持ちが込められている。

          詩集の紹介 『吉野弘詩集』

          カナダ滞在記#8 旅の終わり

          5日間のフェスティバルが終わり、テントの中で朝を迎えた。テントを片付けてバンクーバーまでヒッチハイクで戻らなければならないが、とりあえずいつものようにウェルズの村の中に行き、目覚めるためのコーヒーを求めた。 村の真ん中に芝生の生えた小さな丘があり、みんな不思議とその丘に集まってくる。コーヒーの入ったマグカップを片手に、一人また一人と眠たげな顔をした人たちが集まってきて自然と会話が始まる。 このアーツウェルズで出会った人が僕の隣に座り、会話をし始めた。僕が「今日、ヒッチハイ

          カナダ滞在記#8 旅の終わり

          お金を手放し、テクノロジーまで手放したアイルランド人の本 マーク・ボイル『ぼくはお金を使わずに生きることにした』他

          本書はとあるアイルランドの男性の本だ。 著者のマーク・ボイルは、大学で経済学を学んだ後に、オーガニック商品を扱う会社に勤める。現代の経済社会のあり方(大量生産・消費社会)に対して疑問を持っていたために、社会をよくしようと思いオーガニック商品を扱う会社に勤め精力的に働いたが、結局のところ、人にとって良い商品を扱おうが、この経済の流れにのってしまうことは社会を悪い方向へと導いているのではないか、と自問し、ついにはお金を手放す生活を始めることとなった。 『ぼくはお金を使わずに生

          お金を手放し、テクノロジーまで手放したアイルランド人の本 マーク・ボイル『ぼくはお金を使わずに生きることにした』他

          カナダ滞在記#7 日本という現実を変えるために現実に帰る

          アーツウェルズは全5日間ほどで、前の記事でも書いたが、昼間から夜にかけてライブがあり、夜遅くになればみんなキャンプサイトにある自分のテントに帰って床に就く。 1日、また1日と楽しい時間はあっという間に過ぎていき、すぐに最終日がやってきた。 最終日の夜遅く、各ステージで最後のライブが行われている中、体育館の地下の小さなステージでは出演者や見物人を問わず誰でも参加できるオープンマイクがあり、一人ずつ交代で自分の曲を披露していた。 「ああ、これで本当に終わってしまうんだ……」

          カナダ滞在記#7 日本という現実を変えるために現実に帰る

          カナダ滞在記#6 "Be good just for being good"(ただよくあるためによくあれ)の精神

          人生初のヒッチハイクでカナディアンの3人組に拾ってもらい、山の奥の村Wells(ウェルズ)にたどり着いた。日本語版のGoogle Mapだとウェルスとあるが、ウェルズが正しい。 ウェルズは人口僅か200人を超える程度の本当に小さな村で、記憶を思い返してみても村全体を楽に思い出せるくらいの大きさしかない。 施設的にも必要なものが全部一つずつあるだけだ。学校が一つ、協会が一つ、バーが一つ、宿が一つ、みたいな感じでさながらRPGに出てくる村のようでもあった。 それはさておき、

          カナダ滞在記#6 "Be good just for being good"(ただよくあるためによくあれ)の精神

          自由という名の翼をくれる小説 リチャード・バック『かもめのジョナサン』

          この本は僕にとって一冊の本ではなく、一対の翼だ。 1970年にアメリカの作家、リチャード・バックによって書かれた小説。ジョナサン・リビングストンという名前の一羽のカモメについての作品。 ちなみに作者のリチャード・バックは飛行士でもあり、そこが『星の王子さま』の作者のサン=テグジュペリと被る。空を飛びながら地上を見下ろす時、人が縛られている諸々の考えから解き放たれ、このような小説が出来上がるのだろうと思った。 あらすじ ジョナサン・リビングストンという名前のカモメがいた。

          自由という名の翼をくれる小説 リチャード・バック『かもめのジョナサン』

          忙しない現代社会に必要な小説 ミヒャエル・エンデ『モモ』

          ドイツの作家、ミヒャエル・エンデによって、今からおよそ50年ほど前に書かれた児童文学作品。半世紀前に書かれた児童文学作品だが、現代の忙しない社会を予見するかのように風刺しており、今の時代だからこそ読まれるべき作品である。 『モモ』のあらすじ 孤児の少女のモモには不思議な力があった。それは人の話を「聞く」力で、モモが何をしなくてもモモに話をしていると、みんなよいことを思いついたり悩みがなくなったりするのだ。そんなある日、モモの周りで灰色の男たちが人々の時間を盗んでいることが知

          忙しない現代社会に必要な小説 ミヒャエル・エンデ『モモ』

          「小説なんてわざわざ読まずに映画で観ればいい」派の人たちが気づいていないこと

          読書や本の話をしていたりすると、本を読まない人たちから、 「小説なんて読まずに映画で観ればいい」 と言われたことはないだろうか。 僕は映画も好きなので、小説を読まずに映画で楽しむのもいいことだと思っているが、映画を観てもその小説を読んだことにはなり得ないのだ。 基本的に映画は、情報の形式が多岐にわたり、かつ情報量の多いものである。 映像、音、セリフ、字幕、役者の演技。 カメラワークやモーションエフェクトといった演出の数々。 挙げていけばきりがないほどに映画とは実に多数

          「小説なんてわざわざ読まずに映画で観ればいい」派の人たちが気づいていないこと

          カナダ滞在記#5 今、僕は旅をしていて、誰よりも自由なんだ

          クイネルで出会った親切なインド人男性サムに見送られ、ウェルズに向かうY字道を進むこととなった。Y字道から数百メートル歩いたところで、早速ヒッチハイクをすることにした。 ヒッチハイクなどしたことがなかったが、とりあえず見よう見まねで親指を立てて道路沿いに立っていればどうにかなるような気がした。というよりは、「ヒッチハイク」に関して知っている全情報はそれしかなかった。 しばらくの間、車が通りかかるたびに僕は親指を立てて道路沿いに立っていたが、車は減速することさえなく通り過ぎて

          カナダ滞在記#5 今、僕は旅をしていて、誰よりも自由なんだ

          カナダ滞在記#4 人の優しさに触れるヒッチハイク編 

          語学学校に休暇申請を出し、英語もままならない状態でヒッチハイクをすることにした。目指すはWells(ウェルズ)というカナダの山奥の小さな村だった。ウェルズで行われるアート・ミュージックフェスティバル、通称"Artswells"に参加することが目的だった。 ヒッチハイクをしようと決めたものの、この745kmの全行程をヒッチハイクするのはさすがに難しいと考えた。英語が未熟であったのと、土地勘のない僕ではカナダという広い国で迷子になる可能性があった。 そこで最寄りの街まで、長距

          カナダ滞在記#4 人の優しさに触れるヒッチハイク編