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「新型コロナウイルスのマクロ経済学(1)」関連情報の紹介:経セミ2020年8・9月号掲載

このnoteでは、『経済セミナー』2020年8・9月号掲載の 田中聡史 「新型コロナウイルスのマクロ経済学 ⑴ 感染症拡大防止政策のトレードオフ」で紹介した研究および関連情報を、リンク付きでご紹介します。

分析のシミュレーションをビジュアルに確認できるサイトや、論文で使われた分析コードが公開されているものも紹介していきますので、ぜひご利用ください。

本稿は、以下の節立てで構成されています。

1. はじめに
2. SIRマクロモデルの基本的な枠組み
3. 世代間の対立の問題
4. 検査と個別隔離政策
5. まとめと展望

以下、このnoteでは、上記の枠組みに沿って関連情報をリストアップしていきたいと思います。

なお、紹介している論文にはすべてリンクが付いています。下線部分をクリックいただくとリンク先へ飛びますので、適宜ご利用ください。

■感染症拡大防止政策のトレードオフに関する研究

2019年末に中国湖北省武漢を発生源とし、その後急速に世界中に拡大した「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)」への対策として、治療薬やワクチンが未開発の中、都市封鎖(ロックダウン)、社会的距離の保持(ソーシャル・ディスタンシング)、学校閉鎖などの「非薬学的介入政策(Non-Pharmaceutical Intervention)」を多くの国が採用しています。しかし、感染拡大を防止する裏で、その実行には多大な経済的コストがかかっています。

本稿では、そうした経済的コストと感染拡大による被害のトレードオフを考慮し、社会厚生を最大化するような政策がどのようなものかを検討する「SIRマクロモデル」を中心に、世界の最先端の議論を紹介します。

■基本モデル

まず、本稿で「SIRマクロモデル」の基礎として紹介したのは以下の論文です。

Eichenbaum, M. S., Rebelo, S. and Trabandt, M. (2020a) "The Macroeconomics of Epidemics," NBER Working Paper, No.26882.

この論文は、著者の一人であるMathias Trabandt氏のホームページから、分析コード(MATLAB)、スライド、ノンテクニカルサマリー記事等をダウンロードすることができます。

その他、本稿ではSIRマクロモデルによる研究非薬学的介入政策による経済活動と感染被害のトレードオフを分析したものとして、以下を挙げています。

Atkeson, A. (2020)What Will be the Economic Impact of COVID-19 in the US? Rough Estimates of Disease Scenarios,” NBER Working Paper, No.26867.
Alvarez, F. E., Argente, D. and Lippi, F. (2020) “A Simple Planning Problem for Covid-19 Lockdown,” NBER Working Paper, No.26981.
Hall, R. E., Jones, C. I. and Klenow, P. J. (2020)Trading off Consumption and COVID-19 Deaths,” NBER Working Paper, No.27340.
Krueger, D., Uhlig, H. and Xie, T.(2020) Macroeconomic Dynamics and Reallocation in an Epidemic,” NBER Working Paper, No.27047.
Jones, C. J., Philippon, T. and Venkateswaran, V. (2020) “Optimal Mitigation Policies in a Pandemic: Social Distancing and Working from Home,” NBER Working Paper, No.26984.
Aum, S., Lee, S. Y. T. and Shin, Y. (2020)Inequality of Fear and Self-Quarantine: Is There a Trade-Off between GDP and Public Health?” NBER Working Paper, No.27100.
Kaplan, G., Moll, B. and Violante, G. (2020) “Pandemics According to HANK,” mimeo.(スライドYouTube

■世代間の対立の問題

Eichenbaum, Rebelo and Trabandt (2020a) では、人々の属性の違いなどは考慮せず一様に感染リスクにさらされると仮定されていましたが、実際には、以下の研究が報告しているように、年齢等の個人の属性によって感染後の回復状況等に差があることが指摘されています。

Ferguson, N. et al. (2020) Impact of Non-Pharmaceutical Interventions(NPIs)to Reduce COVID19 Mortality and Healthcare Demand,” Imperial College COVID-19 Response Team.(要約は日本語訳も公開されています)

この文脈で、本稿では以下の研究を紹介しながら議論をまとめています。

Glover, A., Heathcote, J., Krueger, D. and RÍos-Rull, J. (2020) “Controlling a Pandemic,” NBER Working Paper, No.27046.
Rampini, A. A. (2020)Sequential Lifting of Covid-19 Interventions with Population Heterogeneity,” NBER Working Paper, No.27063.
Favero, C. A., Ichino, A. and Rustichini, A. (2020) “Restarting the Economy while Saving Lives under Covid-19,” Working Paper.
Acemoglu, D., Chernozhukov, V., Werning, I. and Whinston, M. D. (2020) “Optimal Targeted Lockdowns in a Multi-Group SIR Model,” NBER Working Paper, No.27102.

なお、上記のAcemogluらの研究では、シミュレーション結果を簡易にビジュアライズされた形で確認できるウェブサイトが開設されています。

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■検査と個別隔離政策

次に本稿では、非薬学的介入政策の経済的コストが計り知れないものになることを指摘し、経済活動と感染被害のトレードオフを緩和する方策として、検査と個別隔離を行う政策を有効とする最先端の研究を紹介しつつまとめています。

ただし、注意しなければならないのは、以下の研究で指摘されているような検査の精度と医療機関のキャパシティなど検査コストにも十分注意すべきであるとしています。

Kucirka, L. M. et al. (2020) “Variation in False-Negative Rate of Reverse Transcriptase Polymerase Chain Reaction-Based SARS-CoV-2 Tests by Time since Exposure,” Annals of Internal Medicine, 13 May 2020.

この文脈では、先ほど基本モデルとして紹介したEichenbaum, Rebelo and Trabandt (2020a)を拡張した同著者らによる論文を含め、以下のものが紹介されています。

Eichenbaum, M. S., Rebelo, S. and Trabandt, M. (2020b)The Macroeconomics of Testing and Quarantining,” NBER Working Paper, No.27104.(分析コードなどは、先ほどと同じく【Trabandt氏のウェブサイト】からダウンロード可能)
Berger, D. W., Herkenhoff, K. F. and Mongey, S. (2020)An SEIR Infectious Disease Model with Testing and Conditional Quarantine,” NBER Working Paper, No. 26901.
Piguillem, F. and Shi, L. (2020)Optimal COVID-19 Quarantine and Testing Policies,” Working Paper.
Brotherhood, L., Kircher, P. Santos, C. and Tertilt, M. (2020) “An Economic Model of the Covid-19 Epidemic: The Importance of Testing and Age-Specific Policies,” Working Paper.
Bethune, Z., and Korinek, A. (2020) “COVID-19 Infection Externalities: Pursuing Herd Immunity or Containment?” Working Paper.(VoxEUでの紹介記事
Chari, V. V., Kirpalani, R. and Phelan, C. (2020)The Hammer and the Scalpel: On the Economics of Indiscriminate versus Targeted Isolation Policies during Pandemics,” NBER Working Paper, No.27232.
Hornstein, A. (2020)Social Distancing, Quarantine, Contact Tracing, and Testing: Implications of an Augmented SEIR Model,” Working Paper.
Hamano, M., Katayama, M. and Kubota, S. (2020) “A Macroeconomic Analysis of COVID-19: Imperfect Information and Testing,” mimeo.

■その他の研究

本稿の最後の節では、メインで紹介できなかった研究を以下のような分類でまとめて紹介しています。

【人々の意思決定や行動をより精緻に記述してSIRモデルを拡張】
Farboodi, M., Jarosch, G. and Shimer, R. (2020)Internal and External Effects of Social Distancing in a Pandemic,” NBER Working Paper, No.27059.
Garibaldi, P., Moen, E. R. and Pissarides, C. A. (2020)Modelling Contacts and Transitions in the SIR Epidemics Model,” Working Paper.
Toxvaerd, F. (2020)Equilibrium Social Distancing,” Working Paper.
【人々のネットワークをより詳細に記述し、政策の効果を分析】
Gutin, G., Hirano, T., Hwang, S.-H. Neary, P. R. and Toda, A. A. (2020) "The Effect of Social Distancing on the Reach of an Epidemic in Social Networks," Working Paper.
Akbarpour, M., Cook, C., Marzuoli, A., Mongey, S., Nagaraj, A., Saccarola, M., Tebaldi, P., Vasserman, S. and Yang H. (2020)Socioeconomic Network Heterogeneity and Pandemic Policy Response,” NBER Working Paper, No.27374.
【政府が感染症に対して不確実な情報のみ保有する状況下での非薬学的介入政策】
Barnett, M., Buchak, G. and Yannelis, C. (2020) “Epidemic Responses Under Uncertainty,” NBER Working Paper, No.27289.
【失業を組み入れたSIRマクロモデルによる非薬学的介入政策と労働市場政策の分析】
Kapicka, M. and Rupert, P. (2020)Labor Markets during Pandemics,” Working Paper.
Karahan, F., Birinci, S., Mercan, Y. and See, K. (2020) “Labor Market Policies during an Epidemic,” mimeo.(YouTube

■関連リンク集

新型コロナウイルス関連の経済学研究は、たとえば以下のサイトなどでまとめて紹介されています(他にもよいものがあればご教示いただけたら幸いです)。本稿とあわせて、ぜひ利用ください。

東京大学政策評価研究教育センターホームページ
新型コロナウイルス感染症関連の研究について、ディスカッションペーパーや日本語の一般向けコラムを発信しています。

RIETIホームページ「特別コラム:新型コロナウイルス-課題と分析」
日本語の関連コラムなどが多数公開されています。ほか、RIETIのディスカッションペーパーやSpecial Reportなどでも関連情報が公開されています。

The Core Project(core econ)「CORE COVID-19 Collection」
経済学のオンラインテキストを提供するプロジェクトですが、COVID-19関連のさまざまな情報や研究、データなどが公開されています。

VoxEU「Covid-19 Page」
さまざま研究紹介コラムや報告書などが公開されています。

NBERホームページ
テーマ別に、COVID-19関連の研究がリストアップされています。

HELP! (HEaLth and Pandemics) Econ Working Group
ミネソタ大学の経済学者が中心となって活動する、経済学と疫学の横断的な研究会。Zoomで毎週のセミナーを視聴可能です。過去のセミナーの録画も公開してます。

Virtual Macro Seminars: VMACS
COVID-19関連も含め、マクロ経済学の最新の研究が議論されているオンラインセミナーです。以下のURLでは過去の議論がリストアップされており、YouTubeで閲覧することができます【YouTubeチャンネル】。

VMACSのオンラインセミナー中でも、田中先生が「マクロ経済学者がSIRモデルを改造して何やっているのか知るには、例えばこの動画とかもおすすめ」と紹介するのは以下です。

VMACS - Economic Activity and COVID-19: Evidence from an Estimated Economic-Epidemiological Model

また、東京財団政策研究所の猪野明生先生・千葉安佐子先生による論攷、「『疫学』と『マクロ経済学』の視点から:最新論文に見る感染症対策と経済活動維持の最適解とは」もオススメです。本稿とあわせて、ぜひご覧になってみてください!

以上、色々な情報源をご紹介してきましたが、このような短期間で急速に進んだ膨大な最新研究を、田中聡史先生がわかりやすく解説してくださる記事が、『経済セミナー』8・9月号に掲載の「新型コロナウイルスのマクロ経済学 (1):感染症拡大防止政策のトレードオフ」です。経済学の最前線で、まさに喫緊の課題に正面から取り組んでいる研究者たちの成果がご覧いただけます。ぜひお手に取っていただけたらうれしいです!

■おわりに:10・11月号は各国の政策対応を分析

田中聡史先生には、ご執筆いただく本稿の続編、「新型コロナウイルスのマクロ経済学(2) 実体経済への影響と日本を含むG20先進国の政策対応」『経済セミナー』2020年10・11月号に掲載いただいています!

今回と同様、付録も以下のnoteで公開しています。

こちらもあわせて、ぜひご覧ください!!

■日本の新型コロナ関連の経済学研究まとめ

日本経済学会のウェブサイトでは、日本人の経済学研究者による新型コロナを対象としたさまざまな研究が一覧で見られるように整備されています。

一般向け」「専門論文」の2つのブロックでトピック別にさまざまな論考が紹介されていて探しやすいので、ぜひこちらもご利用ください!

サポートに限らず、どんなリアクションでも大変ありがたく思います。リクエスト等々もぜひお送りいただけたら幸いです。本誌とあわあせて、今後もコンテンツ充実に努めて参りますので、どうぞよろしくお願い申し上げます。