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連載「保育の経済学」から、『子育て支援の経済学』へ!

保育の経済学」という連載を、東京大学の山口慎太郎先生に、本誌『経済セミナー』2019年4・5月号から2020年8・9月号まで、全9回にわたって連載いただきました。このnoteでは、連載の内容をざっと振り返るとともに、新しいお知らせをお届けしたいと思います。

■連載の概要

この連載は、以下のラインナップで、保育サービスの拡充や育休制度の充実化、子育て世帯に対する給付や税制面での優遇措置などを通じた金銭面の支援など、保育と子育てに関わる政策を取り上げてきました。

1 保育は次世代への投資である
2 子も母も育てる保育園
3 保育政策で母親就業は増える? 増えない?
4 保育所利用枠は「正しく」割り当てられていない
5 育休は母と子をどう助けるか?
6 育休3年は長すぎる:構造推定による政策の事前評価
7 待機児童解消で出生率は上がるのか?
8 お金で子どもは増やせるか?
9 結局、保育が最善の少子化対策

本連載の最も重要な特徴は、経済学の理論と実証分析に基づいて政策を効果を評価した研究から得られた示唆や、今後の政策を考えるためのヒントを、分析の考え方や手法とともに紹介する、というものです。山口先生ご自身の研究とともに、日本や世界各国の保育政策、および子育て支援のための政策に関する研究を幅広く解説し、最新のエビデンスがつかめる内容となっています。

なおこの連載は、たとえば以下のような新聞等のメディアにも取り上げていただきました。保育・子育ての問題は、政策課題としてはもちろん、社会的にも関心の高いテーマであることがうかがえます。

(論×論×論)安田洋祐 政策にデータ活用、保育にも」朝日新聞、2019年6月30日(第2回 子も母も育てる保育園)
(私の3編)中室牧子 女性活躍・教育格差 データ分析」読売新聞、2019年8月27日(「第3回 保育政策で母親就業は増える?増えない?」を紹介)

安倍晋三政権では幼児教育・保育の無償化が実施されました。また、アベノミクスの「新・三本の矢」の第二の矢として「夢をつむぐ子育て支援」が掲げられ、希望出生率1.8を目標にさまざまな政策が実施されてきました。課題はまだまだありつつも、保育所の拡充が進みましたし、女性の就業率なども上向きました。今後も、引き続き重要な政策課題として位置づけられるべき問題です。

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■各回の内容を振り返る

ここでは、上記のようなテーマでお送りしてきた本連載の流れを、ざっと振り返ります。

第1回 保育は次世代への投資である

第1回ではまず、政策の「効果を測る」とはどういうことか、といった実証分析の基本的な考え方を導入。政策の効果を測るための理想的な環境を限られた人々を対象に設定した「社会実験プログラム」や、より一般的な環境で実証的に効果を検証するための因果推論アプローチとして、差の差分析回帰不連続デザイン操作変数法の考え方が丁寧に解説されています。

第2回 子も母も育てる保育園

第2回は、「子どもの発達」に着目します。「21世紀出生時縦断調査」という厚生労働省による詳細な調査データを使って、日本の保育サービスの拡充が、子どもの発達や親のしつけの質・ストレス・幸福度などにどう影響したかを実証した、山口先生たちご自身の研究を紹介します。
保育が拡充され保育所に通えるようになることでさまざまな効果が見られますが、ここでは特に「社会・経済的に恵まれない家庭の親子に対して、保育所通いのポジティブな効果が高い」と指摘します。一方で、現在の日本の認可保育所の入所選考の実態をふまえると、課題が見えてきました。

第3回 保育政策で母親就業は増える? 増えない?

第3回では、「母親を働きやすくする」ことに着目します。以下の図のように各国の母親の就業率を概観したうえで、母親の働くか否かについての意思決定を描写した経済学の理論モデルを紹介。
続いて、さまざまな実証分析の考え方と手法を解説したうえで、諸外国で行われた保育改革の効果を整理します。母親の就業率を向上させる効果が見られる場合もあれば、保育所以外の代替的な手段(祖父母に預けるなど)から保育所へ置き換わるだけで、就業率向上に効果が見れない場合もあることを指摘し、その原因などを考察します。

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第4回 保育所利用枠は「正しく」割り当てられていない

第4回も引き続き、保育所利用と母親の就業率の関係を取り上げます。ここでは「限界介入効果」と呼ばれるものに着目します。お金持ちの家庭や社会・経済的に恵まれない家庭など、各家庭はそれぞれ異なる環境に置かれています。そこで、家庭の特徴の違いによる政策介入の効果の違いを見いだすために行われるのが、限界介入効果の推定です。ここでは、山口先生ご自身たちが実際に日本の保育改革について限界介入効果を推定して分析した研究を紹介しつつ、推定方法なども解説します。
そこで明らかになるのは、保育所利用による母親の就業率向上効果は家庭によって大きくことなること、そして、必ずしも保育所利用の効果の大きな社会・経済的に恵まれない家庭が保育所を利用できていないのではないかという点です。これに基づき、「利用調整」という日本の保育所割り当て制度の問題点も指摘します。

第5回 育休は母と子をどう助けるか?

第5回は、「育児休業(育休)」に着目します。育休制度の目的や現状を国際比較しながら整理したうえで、育休制度が、母親の就業や出産行動にどのような影響があるのか、また、子どもの発達にはどんな影響があるのかを経済学の理論に基づいて考えます。そして、それらを実証的に検証した世界各国のさまざまなエビデンスを紹介し、政策的な含意をまとめていきます。

第6回 育休3年は長すぎる:構造推定による政策の事前評価

第6回も、引き続き育休に着目します。ここでは、当時の安倍晋三首相が「成長戦略スピーチ」で触れた「育休3年」の是非を考えます。現在の日本の育休制度では、子が満1歳になるまで、雇用保障と給付のある育休が適用されることになります(場合により2歳まで)。ここでは、「もし育休が3年に伸びたら」と考えて、経済理論に基づいて政策効果を予測するシミュレーションを紹介します。こちらも、山口先生ご自身の研究です。「構造推定」と呼ばれる、ここまで紹介してきた実証手法とは異なるアプローチの研究で、未実施の政策効果を検証できるパワフルな手法です。
その結果、1年間の育休制度を整備することは母親の就業などに効果が大きいけれど、3年に伸ばしてもほとんど効果はない、という分析がなされます。その手順や方法、含意を丁寧に解説します。

第7回 待機児童解消で出生率は上がるのか?

第7回からは少し視点を変えて、「出生率の向上」に着目していきます。以下の図のように日本の出生率が低水準になっており、その向上がかねてより政策課題とされてきました。
まず第7回では、保育所の充実化など保育サービスを利用しやすくすること、つまり待機児童を解消させるような政策が、出生率の向上に結び付くのかを、世界各国の実証研究をふまえて考えていきます。

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第8回 お金で子どもは増やせるか?

第8回では、政府が行う子育て支援、家族政策への金銭的な支出である「家族関係社会支出」に着目します。この支出については、日本はOECD諸国の中でも低いことが指摘されています。特に「現金給付」の政策効果に注目して、世界各国を対象とした実証研究を概観し、それの出生率向上への効果を吟味していきます。ここで登場する分析手法も、差の差分析、回帰不連続デザイン、構造指定と多岐にわたります。

なお、最近の山口先生へのインタビュー記事でも、子育て支援はきわめて重要な「次世代への投資」であると強調されています。あわせてぜひご覧ください!

第9回 結局、保育が最善の少子化対策

いよいよ、第9回は最終回です! まずここでは、「なぜ少子化対策が必要なのか?」という問いを、経済理論に基づいて整理していきます。「外部性」や「市場の不完備性」を鍵として問題のメカニズムを探り、最適な出生率を実現するための政策を考えます。
続いて、出生率の向上には女性に重くのしかかる家事・育児負担を軽減するような政策が有効であることを示唆する経済理論を紹介します。つまり、「ジェンダー平等」が重要ということです。この点をふまえて、どんな政策がより有効かを実証分析を踏まえて検討していきます。

■最終回を終えて

さて、最終回の結びには以下のようなメッセージがありました。

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有言実行!ということで、2021年の1月発売予定で、本連載をベースに再構成し、大幅に加筆修正をいただいたうえで、山口慎太郎(著)『子育て支援の経済学』として出版されます。

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本連載で紹介した保育や育休、給付等の政策を大きく「子育て支援のための政策」と位置づけ、その役割を、(1) 出生率の向上、(2) 幼児教育、(3) 女性活躍支援の3つに整理して解説します。もちろん、それぞれに関する経済学の研究を踏まえ、日本を中心に世界各国の研究成果に基づいて、効果的な政策を見極め、よりよい社会を創るための指針を示す一冊としてまとめあげていただきました。

経セミ連載では、実証分析のややテクニカルな解説も交えて議論していましたが、本書では1章~11章の本体は専門知識なしで読み進められるように直観的な解説に徹底し、章末で経済理論の詳細を、巻末付録「実証分析の理論と作法」で、実際に実証研究の論文を読んだり、実証分析を進めたりするうえで必要となる知識をまとめて提供する形としています。幅広読者の方々のご関心にお応えできる内容となっています!

なお、第1部(1章~4章)の内容は、山口先生の以下の【講演スライド(リンク)】でも紹介されていますので、ぜひご覧ください!

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今回は、連載「保育の経済学」の内容をまとめて紹介したうえで、書籍『子育て支援の経済学』の概要のお知らせをお届けしました。また随時、本書の内容などを紹介していきますので、ぜひお楽しみに!

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