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開発経済学会(JADE)若手会議2019:若手による若手のための研究会(学会・研究会レビューNo,29)


本稿では、2019年3月1日に設立された開発経済学会(JADE)に所属する若手研究者有志によって立ち上げられ、「JADE若手会議」の紹介と、2019年11月30日に早稲田大学で開催された第1回会議の模様をご紹介します。(『経済セミナー』2020年2・3月号掲載。記事内の記述は掲載時点のものです)。

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■著者紹介

高橋遼(たかはし・りょう)
2013年、東京大学大学院新領域創成科学研究科博士課程修了、博士(国際協力学)。学習院大学経済学部准教授等を経て、2018年より早稲田大学政治経済学術院准教授。
主著:『開発途上国における森林保全──経済学と空間情報科学を融合した学際的研究』(勁草書房、2016年)など。


■JADEとJADE若手会議の設立

2019年3月、開発経済学会(Japanese Association for Development Economics、略称JADE)が設立された。JADE設立の目的は主に3点ある。第1に日本における開発経済学の発展、第2に研究成果の発信である。そして第3の目的として、若手研究者の育成を掲げている。特に近年、国内外の大学において学位を取得し、ミクロ計量経済学をベースとした若手の開発経済学者が増えつつある。JADEでは、学会大会や定期的なセミナーでの報告機会の提供に加え、若手を対象とした速水佑次郎賞を創設するなど、若手研究者の育成を試みている。JADE設立の詳細については、本誌2019年10・11月号掲載の「学会・研究会レビュー」において、島田剛・黒崎卓・戸堂康之による第1回大会の紹介記事で紹介されているので、参照いただきたい。

JADE設立を契機に、開発経済学を専門とする若手研究者の有志によって、若手による若手のための研究会の企画が立ち上がった。6月にJADE理事会からの承認を得て、JADE若手会議(以下、若手会議)という名称で2019年11月に第1回目の会議開催が決定された。

■JADE若手会議の趣旨

若手会議は、JADEに所属する若手研究者によって構成されたJADE若手会議委員会によって企画、運営される研究会である(委員会メンバーは、會田剛史〔アジア経済研究所〕、後藤潤〔神戸大学〕、高橋遼〔早稲田大学〕、樋口裕城〔名古屋市立大学〕、村岡里恵〔国際農林水産業研究センター〕)。若手会議の目的は、主に以下の3点である。

(1) 研究発表を通じた若手研究者の育成と交流。
(2) 開発経済学を学ぶ学部生や大学院生への勉強の機会の提供。
(3) 関連する他分野の若手研究者との交流。

JADEが掲げる若手育成の趣旨に則り、若手会議での報告者は若手研究者に限定している。若手会議の開催にあたり、一番の課題となったのが「若手」の定義である。本会議では、「博士号取得後、10年程度以内の研究者、もしくは学生」と定め、研究者としてのキャリアによる若手の定義を採用した。なお、開発経済学の分野では、実務経験を積んでから学術界に来られる方も多数いらっしゃることから、年齢による制限は行わなかった。

若手会議では、「予備成果報告」と「研究の種」という2つの報告セッションを設けている。まず、予備成果報告は、JADE大会など学会で報告する前段階のPreliminaryな研究成果の報告を行うセッションである。報告者には30分の報告時間に加え、15分の質疑応答の時間が与えられる。次に、研究の種は、実験デザインや調査計画など研究計画について中心的に報告を行うセッションである。報告者には、15分の報告時間に加え、15分の質疑応答時間が与えられる。

なお、どちらのセッションにおいても、発表内容は以下の条件 (1) を満たし、条件 (2) もしくは条件 (3) のどちらか1つを満たす必要がある。

(1) 計量分析を含む実証研究であること。
(2) 研究対象が開発途上国、もしくは新興国であること。
(3) 研究対象が先進国の場合、開発経済学への貢献や途上国への政策的含意が大きいこと。

若手会議は、若手研究者を主体とした研究会という側面以外に、2つの特徴を有している。1つ目は、学会や学問分野にとらわれないオープンさである。一般的に、学会主催の大会やセミナーでは、特に発表は主催学会の会員に限定されている。

一方、若手会議では、参加はもちろん発表する場合であってもJADEに加入する必要はなく、非会員に対しても広く開かれた場となっている。また、3点目の目的でも挙げているように、開発経済学以外の他分野の研究者に対して、報告機会を提供しているのも特筆すべき点である。

2つ目の特徴は、完成前の予備成果、もしくは研究計画の発表という点である。通常、完成された研究内容を報告するのが学会という場であるが、若手会議では、ある意味で未完成の内容について報告する場となっている。その一番の目的は、本会議が若手研究者の研究の質の向上を目指しているからである。本会議で報告を行い、参加者からのコメントを受けることで、研究の質の向上が期待される。

■JADE若手会議2019

JADE若手会議2019は、早稲田大学現代政治経済研究所(Waseda Institute of Political Economy:WINPEC)および環境経済・経営研究所(Research Institute for Environmental Economics and Management:RIEEM)との共催で、2019年11月30日に早稲田大学で開催された。

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より多くの若手研究者に報告機会を提供するため、予備成果報告のみパラレルセッションとした。予備成果報告では12名、研究の種で⚔名が報告を行い、当日は40名を超える参加者による活発な議論が行われた。各セッションの報告テーマも多様であり、農業や教育、保健など一般的なテーマに加え、環境や災害、労働、行動、公共財などの報告も行われた。若手会議2019の特徴を2点に絞って述べたい。

1点目は、参加者の大半が若手の研究者であった点である。本会議では、参加者を若手研究者に限定していなかったが、参加者の大半が博士号取得後10年以内の研究者や博士課程の学生であったのが印象的であった。これはひとえに、若手研究者が委縮せずに発言しやすい環境を作るため、大御所の先生方が出席を見送られたためであると勝手に解釈している。

2点目が、発表に対する質の高いコメントと建設的な議論である。参加者の多くが若手研究者である場合、発表に対するコメントの質が低下することを懸念される方もいるかと思う。もちろん、大御所の先生方のような大局を見据えたコメントを若手研究者が行うのは困難である。しかし、本会議で発せられたコメントは、どうすれば研究が良くなるのかという観点によるものばかりで、分析や研究計画の質の向上につながる総じて良質なものであった。

このような建設的な議論が展開できたのも、討論者として経験豊かな参加者の存在が大きい。前述の島田たちによる「学会レビュー」でも記されているように、開発経済学会の討論者のコメントの水準は以前より高く評価されており、多くの若手研究者も討論者として起用されている。実際、2019年のJADE大会において、15名の討論者のうち8名がJADE若手会議の定義に基づく若手研究者であった。そのうち7名が若手会議にも出席し、彼らを中心に全体を巻き込んだ議論が展開されていた。

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■今後の予定と課題

次回のJADE若手会議は2020年9月下旬、もしくは10月上旬に開催を予定している。詳細は決まり次第、JADEホームページなどで告知する予定である(★注:JADE若手会議2020は、2020年11月15日〔日〕にオンラインで開催される予定)。若手会議2019を通して、言語設定の明確化と他分野の研究者・実務家の巻き込みという課題も明らかとなったため、この経験を次回に生かしたい。

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なお、次回の開催時期を10月上旬までに設定したのは、科研費の申請を見越してのことである。一般的に、開発経済学者は開発途上国において調査などの研究活動を行うことが多く、その場合、一定規模の研究費が必要となる。研究の種セッションの最大の目的は、発表を通じて研究計画の質を高め、科研費の採択率を上げることである。科研費の申請期限を10月中旬から下旬に設定している研究機関が多いため、科研費申請に間に合う時期での開催を決定した。

最後に、若手会議2019を通じて認識した若手育成にかかる課題について論じたい。前述のように、途上国での研究活動を前提とした開発経済学者は多い。一方、出産や育児、介護などの個人的事情により、研究活動に制約を受ける若手研究者が一部存在する。とりわけ、出産については男性が代わることができない以上、女性研究者は自身の研究を中断せざるをえない状況である。上記の事情によって国外での活動が制限される場合、若手研究者がキャリアを形成する上で大きな障害となることが懸念される。この課題に対して、研究の種セッションを共同研究のマッチングの場として有効活用できないかと考えている。

ただし、制約がある研究者が、さまざまな条件がある中で自ら共同研究を募集するのはハードルが高い。そこで、研究の種において研究計画を報告する際、共同研究実施の可能性を示唆することはできないだろうか。もちろん、共同研究を行うことで、追加的な調整コストは生じる。しかし、調査にかかる経費は固定費用の側面が強く、調査の質問数が多少増えたとしても、全体の調査費用に大きな影響はない。共同研究によって研究成果が上がるのであれば、双方にとって実施のメリットは大きいのではないだろうか。

もちろん、このような取り組みによって、課題が完全に解決できるとは考えていない。しかし、課題を認識し、多様な対策を検討することが重要だと考えている。若手会議のさらなる発展を考える中で、制約による影響を軽減させる枠組み等についても検討していきたい。



『経済セミナー』2020年2・3月号より転載。

同号の特集は、経済セミナーe-book no.17『貧困削減のこれまでとこれから』にてご覧頂けます! 本e-bookでは、2019年ノーベル経済学賞受賞で実験アプローチに注目が集まる中で、より幅広い視点で、過去から現在までの経済学が貧困問題どう向き合ってきたかを改めて議論した内容となっています!  目次は以下で豪華なラインナップとなっています。

・【インタビュー】グローバル化する世界における経済学者の役割とは…ジョセフ・スティグリッツ、聞き手:島田剛
・開発経済学の中で貧困はどのように捉えられてきたか?…絵所秀紀
・開発経済学者は当事者か、評価者か?:開発経済学の変遷…山形辰史
・よりよい政策評価に向けて:研究の質を高めるための近年の取り組み…高橋和志
・貧困問題と開発経済学…大塚啓二郎
・貧困と雇用:アフリカにおける産業政策と経済学の役割…島田剛
・貧困の計測手法:よりよい尺度を求めて…黒崎卓
・RCT革命は開発政策の現場をどう変えたのか?…青柳恵太郎・小林庸平
・研究と実践のサイクルを変えた技術革新:バナジー、デュフロ、クレマーのRCTアプローチ…手島健介

手島健介先生による、2019年ノーベル経済学賞解説に関する追加情報満載のウェブサイトも、あわせてぜひご利用ください!

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青柳恵太郎先生による、メトリクスワークコンサルタンツホームページ内でのガイドも大変有用です! 

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