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開発経済学会(JADE)第1回大会:Hayami Conferenceからの新たな展開(学会・研究会レビュー No.27)

本稿では、2019年3月1日に設立された開発経済学会と、その第1回大会(2019年8月1日~2日開催)の様子を紹介します(『経済セミナー』2019年10・11月号掲載)。

島田剛(しまだ・ごう)明治大学情報コミュニケーション学部准教授。開発経済学会常任理事。

黒崎卓(くろさき・たかし)一橋大学経済研究所教授。開発経済学会常任理事。

戸堂康之(とどう・やすゆき)早稲田大学政治経済学術院教授。開発経済学会副会長。

■学会設立の経緯とその役割

2019年8月1~2日、一橋大学において開発経済学会(Japanese Association for Development Economics、略称JADE)の第1回の記念すべき大会が開催された。本学会は、これまでも日本の主要な開発経済学のコンファレンスとして機能してきたHayami Conferenceを発展させて、2019年3月に設立されたものである(会長:大塚啓二郎〈神戸大学〉、副会長:戸堂康之〈早稲田大学〉)。研究者の層が厚くなり、特に若手の研究者の数が増加する中、よりオープンな会議を開催するため有志が集まってJADEの発足に至った。

Hayami Conferenceは、日本における開発経済学の中心的な役割を果たして来られた故・速水佑次郎先生が2001年に始められた研究会であった。開始当時は国際協力事業団(現在の国際協力機構〈JICA〉)の箱根研修所において開催されていたことから、開催場所の名前をとって「箱根会議」と呼ばれていた。当時の研究の様子については、木島陽子教授(政策研究大学院大学〈GRIPS〉)が『経済セミナー』2017年4・5月号で歴史的経緯から雰囲気まで詳細に報告されているが、インターネットのつながらない箱根の研修所に缶詰になり、ほぼ合宿のような状態で濃密な議論がなされていた。

しかし、民主党政権下の「事業仕分け」の影響でJICAが箱根研修所を売却したため、2011年からは都内に場所を移して行われるようになった。さらに速水先生が亡くなられた後、2013年からは箱根会議を改称しHayami Conferenceとして運営されてきた。これらの研究会がきわめて生産的であったことは、次の5冊の本が出版され、そのうち2冊が政策研究や環太平洋研究に関する賞を受けたことからもよくわかる。

・大塚啓二郎・黒崎卓編著『教育と経済発展──途上国における貧困削減に向けて』(東洋経済新報社、2003年。第5回NIRA大来政策研究賞受賞)
・澤田康幸・園部哲史編著『市場と経済発展──途上国における貧困削減に向けて』(同、2006年。第23回大平正芳記念賞受賞)
・大塚啓二郎・櫻井武司編著『貧困と経済発展──アジアの経験とアフリカの現状』(同、2007年)
・園部哲史・藤田昌久編著『立地と経済発展──貧困削減の地理的アプローチ』(同、2010年)
・大塚啓二郎・白石隆編著『国家と経済発展──望ましい国家の姿を求めて』 (同、2010年)

また、そこでの議論の特徴は理論だけではなく、「現場」を大切にし、「丁寧な分析」を通じて「真実の追究を目指す」というものであったことは特筆すべきであると思う。本稿筆者のうち、島田は箱根会議が開催されていた頃は実務家としてJICAでアフリカなどの産業開発に関わっていた。そうした実務家であった頃にも、上に挙げた5つの本はわかりやすく、分析的におもしろいだけではなく、政策に対するさまざまな示唆に満ちていて、特に『市場と経済発展』などは実務へのヒントを求めて貪るように読んだものであった。

JADEは、これまでの研究会における濃密かつ活発な研究を継続し、さらに多くの研究者を巻き込んでオープンな議論をしていくことを通じ、次の3つの目的を持って設立された。第1に、日本の開発経済学者が交流し、切磋琢磨するための場を提供し、日本の開発経済学研究の質を高めること。第2に、日本の開発経済学研究の成果を広く学界や社会に対して発信していくこと。第3には、若手研究者の育成。JADEは、このようにして研究の質を高め、それを社会に発信することで、途上国の経済発展に関わる政策形成や経済・社会活動に対して貢献することを目指している。

■速水佑次郎賞の設立

JADE第1回大会においては会員総会も開催され、速水佑次郎賞の設立が決定された。ぜひこの賞を周知し、多くの研究者に応募していただきたいので、この賞についても紹介しておきたい。

この賞は、日本を代表する開発経済学者・農業経済学者であられた故・速水佑次郎先生の功績を称えるとともに日本を拠点とする若手開発経済学者を育成することを目的として設立されたもので、授賞対象者は以下のすべての条件を満たす者である。

(1) 授賞時点で40歳以下のJADE正会員または学生会員である者。
(2) 授賞決定時において、日本における大学または研究機関等に所属しているか、所属した経験があって開発経済学を研究する者。
(3) 授賞時のJADE大会において論文を発表した者。

本賞の選考は、報告論文の質のみを基準とし、アイデアの独創性、分析手法の先端性、分析結果の政策的含意の重要性などを判断して、将来的にはトップレベルの英文査読付き国際学術誌に掲載される可能性が高い論文の主たる著者である者を授賞者としている。なお、選考は大会のプログラム委員により行われ、理事会の承認を得て授賞者が決定される。

次の第2回大会において最初の授賞者が決定されるので、多くの研究者の応募を期待したい(日程・場所等については後述の「今後に向けて」参照)。

■JADE第1回大会

JADE第1回大会(プログラム委員は黒崎卓〈一橋大学〉、真野裕吉〈一橋大学〉、後藤潤〈神戸大学〉)は、一橋大学社会科学高等研究院(Hitotsubashi Institute for Advanced Study:HIAS)との共催で2019年8月1~2日に開催された(HIASが7月29日~8月4日に開催したHSI2019:The5th Hitotsubashi Summer Instituteのうち2日間がJADE大会に充てられた)。酷暑にもかかわらず100名ほどが大会に参加して、外気に負けない熱い議論を繰り広げた。プログラムはすべて英語で、パラレルセッションは設けずに、すべての報告を全参加者が聞けるスタイルをとった。次の5つのセッションにそれぞれ3名ずつ、計15名が報告した。

・セッション1:技術採択と情報ネットワーク
・セッション2:ガバナンス、財政と紛争
・セッション3:農業組織・産業組織
・セッション4:移民、人的資本と経済発展
・セッション5:健康と多次元福祉指標

第1回大会での議論には3つの特徴があったように思われる。これらはみな、これまでのHayami Conferenceの流れを受け継ぐものである。

第1に、ミクロ実証研究においては、RCT(Randomized Controlled Trial)を中心に、フィールドでのラボ実験や自然実験も多様に組み合わせて、緻密な計量経済学的識別を目指す研究が今回も引き続き多かった。

このこととも関係するが、第2は、丹念な現地踏査に基づく観察と、それにより得られたミクロのデータをもとに分析した論文が多かったことである。これらの特徴は、現在の開発経済学における主流であるとともに、速水先生以来、「現場」を大切にするという伝統の流れを汲んでいると言える。

そして第3は、討論者によるコメントの質の高さであった。これまでのHayami Conferenceでも討論者のコメントは水準の高いものであったが、今回はこれまで継続して参加している者の多くも驚くほどで、各討論者はペーパーの中で改善すべき点を指摘するだけではなく、「こうした分析をしたらさらにおもしろくなるのではないか」とかなり具体的な提案をしていた。数名の討論者は、さらに自ら相当な時間をかけて独自のデータ分析をしているほどで、討論だけでも別の論文になりそうであった。このように、発表者が討論者から大いに学べるということを、今後もJADE大会の特徴としていきたい。

■今後に向けて

JADE第2回大会は、東京大学本郷キャンパスにおいて2020年4月18~19日に開催される予定である(大会委員長:高崎善人〈東京大学〉*注:第2回大会は11月14~15日開催に変更された。詳細は)。また、海外からはOriana Bandiera、Carol Newman、Robin Burgessなど世界的に著名な開発経済学者をLondon School of Economics(LSE)から多く招聘して実施する予定である。発表応募の時期などについては学会のホームページなどにおいて今後、アナウンスしていく予定である。

また、学会では定期的なセミナーとしてJADE/GRIPS Development Economics Workshop高橋和志教授(政策研究大学院大学〈GRIPS〉)が中心となりGRIPSにおいて毎月1回行っている。2019年5月には東京大学のTokyo Workshop on International and Development Economics(TWID)と共催でセミナーを実施した。

さらに2019年11月30日には高橋遼准教授(早稲田大学)が中心となり若手の研究者によって構成された委員会であるJADE若手会議が開催される予定である。この若手会議では、本大会と異なり、学会報告する前段階のPreliminaryな研究成果の報告や今後の研究計画についての報告者を募集し、本会議での報告を通して、報告者の研究の質の向上を目指している。

また、学会員向けに「JADE Letter」を発行し、最先端の研究動向とともに会員の研究を紹介し、進行中の現地調査や調査のノウハウなどを披露していく予定である。

JADEへの入会案内や学会主催の各種セミナー実施予定などの詳細については、学会のホームページをご覧いただきたい。

■追記:第2回大会(2020年開催)について

なお、第2回開発経済学会大会は2020年11月14日(土)~15日(日)にオンライン開催予定の予定です。詳細は以下をご覧下さい。

■著者紹介

島田剛(しまだ・ごう)明治大学情報コミュニケーション学部准教授。開発経済学会常任理事。
開発経済学会常任理事。早稲田大学アジア太平洋研究科博士課程修了、博士(学術)。主著:Workers, Managers, Productivity:Kaizen in Developing Countries(共編、Palgrave Macmillan、forthcoming)など。

黒崎卓(くろさき・たかし)一橋大学経済研究所教授。開発経済学会常任理事。
フォード大学食糧研究所博士課程修了、Ph.D.。主著:『開発経済学──貧困削減へのアプローチ(増補改訂版)』(共著、日本評論社、2017年)など。

戸堂康之(とどう・やすゆき)早稲田大学政治経済学術院教授。開発経済学会副会長。スタンフォード大学経済学部博士課程修了、Ph.D.。主著:『開発経済学入門』(新生社、2015年)など。


『経済セミナー』2019年10・11月号より転載。

*同号の特集は経済セミナーe-book no.12『経済学でみる新しい決済と金融』にてご覧頂けます!



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