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【経セミ・読者コメント vol.2】 元橋一輝先生(一橋大特任講師) 2024年4・5月号特集「経済学で格差を読み解く」

はじめに(編集部より)

経済セミナー編集部です。
『経済セミナー』2024年4・5月号(特集:経済学で格差を読み解く)から読者モニターの皆様からのコメントを本格的にご紹介していきます! いただいたコメントの中から、批判的な考察や具体性のある議論などを含み、他の読者の皆様にとっても有益な内容と思われるものを3~4つほど選定し『経済セミナー』本誌や経セミnoteでご紹介させていただきます。

※頂戴したコメントは本誌やnoteで公開していないものも含めすべて拝見しております。コメントは今後の企画・制作の参考とさせていただいております。

もちろん、ご執筆者のご了解をいただいたうえで、掲載内容をご相談して進めています(記名でも匿名でもOKとさせていただいております)。

今回は元橋一輝もとはしかずき先生(一橋大学社会科学高等研究院特任講師)によるコメントをご紹介します!

【以下、コメントです👇】



他分野や海外における格差問題にも目線を

◯特集:経済学で格差を読み解く

特集鼎談について

 今回の特集で、働き方・スキル・男女に基づく格差について、研究の潮流や、特に日本での状況について包括的に知ることができて、大変勉強になった。ただ、分野が近くない私としては、鼎談にしては研究の細かい部分に入りすぎている印象(図や表も多い)を受けて、もう少し大きな視点から、他分野へのインプリケーションも含めて広く議論いただけると良かったと思った。その点で特に山重先生の議論のレベル感がちょうどよく分かりやすい印象だった。

貧困の罠・さまざまな「格差」

 また、今回は、労働経済学にフォーカスした記事が並んでいたが、格差というテーマは他の研究分野でも取り上げられる。例えば、私の研究分野の開発経済学で研究対象となる貧困は、格差の象徴であろう。貧困層がなぜ貧困層で居続けるかという「貧困の罠」の研究がなされている(例:Balboni et al. 2022)。また、環境経済学では、環境正義(Environmental Justice)という人種や所得水準による環境負荷の面での格差に着目した研究が流行している。例えば、排出権取引の市場ベースの環境政策は、排出削減費用を最小化しながら排出削減するという効率性の観点からは良いとされるが、その政策実施によって、環境汚染がマイノリティグループのいる場所により集中するか、それとも分散するのか、という公平性の問題が研究されている(例:Hernandez-Cortes and Meng 2023)。

 さらに、今回の特集では日本の話題が中心だったためかあまり紹介されていなかったが、他の国に目を向けると、アメリカでは人種等の間の格差、途上国では民族カースト等の間の格差に着目した研究が色々と行われていて、これらも重要な格差問題の1つである。


途上国における社会保障

◯社会保障のこれまでとこれから/安藤道人

アプローチ・制度の違い──発展途上国と先進国の比較

社会保障のカバレッジとしては、対象者の人々、範囲、給付水準という3軸があって、実証経済学ではそのカバレッジ変動の効果検証をしているという整理はとてもクリアで分かりやすかった。

 今回は福祉国家が対象であるため先進国の事例の紹介が中心となるだろうが、そのため、カバレッジ変動を使った実証研究として準実験的アプローチが多くなるだろう(政策が既に実施されている中での実験は実施しにくいため)。他方、発展途上国(特に中進国)ではこれから社会保障を実装していく段階にあって、実験的なアプローチ(RCT)で各種社会保障プログラムの評価が行われている。例えば、現金給付の研究としては、ケニアで大規模なRCTが行われて、その給付世帯以外への影響やインフレーションへの一般均衡効果を見たものがある(Egger et al. 2022)。このような研究アプローチによる違いや、社会保障実装計画段階にある発展途上国と社会保障改良段階にある先進国での違いを検討するのも面白そうである

意図せざる効果

 また、実証経済学で着目されている社会的アウトカムの偏りについて指摘されているが、それに関連して、社会保障プログラム(広くは政策変更・法改正)の本来の目的以外への意図せざる効果の研究も最近増えており、その研究に個人的に関心を持っている。例えば、発展途上国の例で恐縮だが、メキシコへの現金給付プログラムによって、給付を受けた世帯の食べ物がより土地収奪的なもの(牛肉・牛乳など)にシフトして、それによって森林伐採が進んだという環境に対する意図せざる効果を見た研究がある(Alix-Garcia et al. 2013)。また、本来のアウトカムを達成せず、そのアウトカムが逆に悪くなるという意図せざる効果も考えられる。私個人として現在色々な場面における意図せざる効果を構造化して整理していきたいと考えているが、今回の連載でも社会保障政策における例を知ることができれば嬉しい。


読者の皆様からコメントをいただいた『経済セミナー』2024年4・5月号(特集:経済学で格差を読み解く)の詳細情報は、以下のリンクよりご覧いただけます!(電子版も発売中)

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