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経済を読み解くカギは「つながり」にあり?:経セミ特集「ネットワーク科学と経済学」

『経済セミナー』2020年12月・2021年1月号が、2020年11月27日に発売になりました! また、「経セミe-book ネットワーク科学と経済学としても発売中です(2020年12月28日)。

今号は、「ネットワーク科学」という分野に着目した特集です。私たちの社会・経済などはミクロのつながりが無数に、かつ複雑に絡み合うことで成り立っています。

ネットワーク科学では、そのつながりをモデル化し、ミクロからマクロの現象までを理解しようというアプローチをとります。「『つながりの構造』そのものがシステム全体を理解するうえでカギになる」のです(小林照義「経済分析に活かすネットワーク科学」本誌23ページ)。

この投稿では、特集の主な内容と、参考になる書籍やウェブサイトなどの関連情報をあわせてお伝えしたいと思います。

特集タイトルは「ネットワーク科学と経済学」です!

■鼎談:ネットワーク科学はどのように経済を読み解けるのか?

まずは特集の概要からご紹介します。特集タイトルの通り、ネットワークを軸に、社会や経済をどのように分析できるのかを紹介していく内容で、構成は以下のとおりです。

【特集= ネットワーク科学と経済学】
鼎談:ネットワーク科学はどのように経済を読み解けるのか?
  ……鬼頭朋見×小林照義×増田直紀
経済分析に活かすネットワーク科学……小林照義
企業間ネットワークと地理空間……齊藤有希子
SNSが明らかにする人々のつながり……鳥海不二夫
中心性を使った感染症の制御……小蔵正輝
ネットワーク科学が切り拓くビジネスの可能性……西田貴紀

巻頭は、それぞれご専門の異なる、鬼頭先生、小林先生、増田先生による鼎談です。

鬼頭朋見先生:ネットワーク科学で経営の問題やシステム設計・評価などを研究。
小林照義先生:マクロ経済学、特に金融政策の理論研究とネットワーク科学による金融・経済分析がご専門。
増田直紀先生:ネットワーク科学と数理生物学の理論から応用までがご専門。

鼎談は、それぞれのネットワーク科学との出会いから始まります。もともと、鬼頭先生はロボティクス、小林先生はマクロ経済学、増田先生は脳の理論研究をされていたところでネットワーク科学に魅せられ、研究に取り組んでいくようになります。その背景や、ネットワーク科学の魅力などを語りつつ、ディスカッションしています。

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そして、データドリブンに発展してきたネットワーク科学の流れや特徴に話が進みます。それぞれのご専門の立場から見たネットワーク科学にはどんな特徴があるか? 研究と実践にどう向き合うか? さまざまな分野からネットワーク科学に参入する研究者がいる中での学際的な研究分野の難しさとは? などなど、応用例や実例を交えて議論していきます。工学的な側面と理学的な側面の違いなども垣間見えて面白いです。

また、もちろん経済学とネットワーク科学の研究の交差点についても議論が深められます。MITのアセモグルや、最近翻訳書も出たスタンフォード大学のジャクソンの研究などが触れられ、経済学の特徴も踏まえて議論を深めていきます。特に、マクロ経済学のミクロ的基礎付けのお話、マクロとミクロのつながりをどう考えるべきかといった重要な論点も上がってきます。ぜひご注目ください!

また、日本経済学会が発行する学術雑誌である『Japanese Economic Review』でも、小林先生と増田先生の編集でネットワーク科学と経済学の特集が組まれます。詳しくは鼎談で語っていただきましたが、今回はネットワーク科学のアプローチで経済データを分析した研究もウェルカムする方針にしている点が新しい特徴とのことです。

鼎談はその後、今後より重要となる社会的な課題に対して解決策を出していくためには、学際的な協力や論文というアウトプットにかぎらず、さまざまな活動が必要となるだろいうという点や、教育面についても議論が進み、今後の展望を考えていきます。読み応えのあるディスカッションとなっておりますので、ぜひご覧いください!

■ネットワーク科学はどう学ぶ?

鼎談の後半では、ネットワーク科学をどう学ぶか、どう教えるかについても、それぞれのバックグラウンドを踏まえてディスカッションしていただきました。さまざまなワークショップへの参加、データを扱うためにプログラミングの学習も必要であること、学んでいくためには大学1年生レベルくらいの数学(確率や線形代数など)をきっちり身につけるのが大事であること、社会・経済など自身が関心のある分析対象の背景知識も重要などが指摘されます。

プログラミングは、Pythonから入門するのが、便利なモジュールも整備されていて良いようです。もちろん、Rやその他の環境でも便利なツールは多々あります。ただし、ソフトのモジュールやパッケージの背後で何が起きているかを理解し、問題が起きた時に対処したり、正確に解釈したりするためにも、理論の理解が重要となります。

また、小林先生に寄稿いただいた「経済分析に活かすネットワーク科学」の後半でも、参考になるテキスト解析ツールやデータが得られるウェブサイトなどが紹介されています。以下では、そこでご紹介いただいた情報をリンク付きでまとめています。

■ネットワーク科学の入門テキスト

ここでは、本誌でご紹介いただいたテキストに加えて、鼎談にご参加いただいた先生方の読み物やテキストをご紹介します!

Easley, D. and Kleinberg, J.(2010)Networks, Crowds, and Markets, Cambridge University Press.

Newman, M.(2018)Networks, 2nd ed. Oxford University Press.

Barabási, A.-L.(2019)『ネットワーク科学』池田裕一・井上寛康・谷澤俊弘監訳、京都大学ネットワーク社会研究会訳、共立出版。

同書の英語版は、なんと以下のサイトで閲覧できます! 日本語版含む各国版へのリンクもあり、付属資料なども公開されているので、このウェブサイトは必見です!!

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村田剛志(2019)『Pythonで学ぶネットワーク分析──ColaboratoryとNetworkXを使った実践入門』オーム社。

また、鼎談にご登場いただいた増田直紀先生は、ネットワーク科学に関する読み物や教科書を幅広くご執筆されているので、ぜひご参照ください!(たとえば以下などがあります)

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また、鬼頭朋見先生がご執筆に参加されたテキストもあります。こちらは、実際にPythonを動かしながら学べる一冊です。

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■ネットワーク解析のツール

以下では、ネットワーク科学のデータ解析に使えるツールをご紹介。

 NetworkX:Pythonモジュール。Anacondaにも標準で組み込まれている。

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igraph:機能はNetworkXと似ているがR、Python、Cなどの各言語のバージョンがある。ネットワークの可視化機能はNetworkXよりも優れている。ただし描画にはcairoの追加インストールが必要。

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graph-tool:Pythonモジュール。一般的なネットワーク解析ツールも提供するが、特にコミュニティ検出法であるSBMモデルのベイズ推定に関しては唯一無二。

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pathpy:データから高次構造の次数を推定することができる。

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■ネットワーク分析に使えるデータ提供サイト

The Colorado Index of Complex Networks(ICON)

Network Repository

Stanford Large Network Dataset Collection(SNAP)

Netzschleuder

■寄稿記事の冒頭を紹介

鼎談に続いてご寄稿いただいた記事は、ネットワーク科学へのイントロダクションと経済分析への応用(小林照義先生)、企業間の取引ネットワーク(齊藤有希子先生)、SNSのコミュニティ構造や人々のつながり(鳥海不二夫先生)、感染症の制御(小蔵正輝先生)、ビジネス現場での応用(西田貴紀先生)です。

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なお、Sansanの西田先生による記事は、以下のnoteでも紹介しています。あわせてぜひ、ご覧ください!

★追記(2020年12月3日)
西田貴紀先生の新しい『DSOC Data Science Report』(no.11) 、「ビジネスネットワークで鍵となる市区町村はどこか」では、本誌でご紹介いただいた市区町村ネットワークから経済活動を支えるキープレイヤーを特定するご研究について、データや分析手法、推定結果などテクニカルな側面も含めて丁寧に解説されています。ぜひこちらもあわせてご覧ください!

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『DSOC Data Science Report』のウェブサイトはこちら:

■おわりに

以上、『経セミ』2020年12月・2021年1月号では、「ネットワーク科学」に着目し、その分析アプローチの特徴や、さまざまな分析事例を通じてその考え方が学べるような特集を組んでみました。

経済学とはアプローチの異なる学問分野ですが、ネットワーク科学は経済学でも応用は進んでいますし、リアル、サイバー問わず、経済における「つながり」が重要になってきている現代の社会・経済を読み解くヒントになるのではないかと思います。新型コロナウイルスの影響でつながりが保ちにくいシーンも指摘されますが、社会・経済のつながりを可視化・定量化して分析するネットワーク科学の貢献も、重要になってくるかもしれません。

また、経済学者によるネットワーク科学を扱った書籍も、偶然2020年11月に発売されています。以下の2冊もぜひ、あわせてチェックしてみてください! 早稲田大学の戸堂康之先生、スタンフォード大学のマシュー・ジャクソン先生による著書です。



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