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より良い「仕組み」は、経済学で創る(経セミ2021年6・7月号より)

『経済セミナー』2021年6・7月号の特集は、「社会の仕組みを経済学で創る」です! 

★『経セミ e-book no.30』としても発売になりました!(2021/7/15)

社会にはいろんな仕組み、制度やシステム、ルールがあります。選挙、就活、保育園への入園、学校の入学試験、モノの売買、会社でどんな部署に配属されるか、などなど、私たちの周りはいろんな決まりで溢れています。

そして、「ルールだからしょうがないな…」と思うこともあれば、「こんな決まりは絶対におかしい!」と思うこともあります。もちろん、「良いルールだなあ」と思うこともあるかもしれませんが、もしかしたらそう思っているのはワタシだけで、他のみんなはそうは思っていないかもしれません。

本号の特集では、そういった社会の仕組みを経済学の視点から改めて考えていきます。そして、既存の決まりのどこが良くてどこがイマイチなのか、どうやったら改善できるのかをじっくり考えるのですが、そこで大きな力を発揮するのが経済学、とりわけ本号でフォーカスする「マーケットデザイン」という分野です。

本号の特集は以下のようなラインナップでお送りしています。それでは早速、内容を少しずつご紹介します!

■特集:社会の仕組みを経済学で創る
・【鼎談】経済学を役立つ道具にするために……小島武仁×森脇大輔×安井翔太
より良い就活ルールをマッチング理論で創る……栗野盛光
オークション理論と不動産オークション……坂井豊貴
マッチング理論で考える望ましいワクチン配布……野田俊也
経済学で人材活用――マーケットデザインで社員の配置を考える……小田原悠朗

■経済学の「社会実装」に向けて

本特集は、「経済学を役立つ道具にするために」と題した鼎談記事からスタートします。

ご参加いただいたのは、東京大学経済学部の小島武仁先生。2020年秋にアメリカのスタンフォード大学から東京大学に移籍された、マッチング理論、マーケットデザイン研究分野の世界的なトップランナーです。帰国と同時に経済学の社会実装を目指す「東京大学マーケットデザインセンター」を設立され、センター長に就任されました。

加えて、サイバーエージェントAI Labの森脇大輔さんと安井翔太さんにご参加いただきました。お二人は、サイバーエージェントのAI技術研究開発に取り組む組織「AI Lab」の中にある「経済学チーム」に所属され、AI技術の性能を因果推論に基づく評価、経済学やマーケティングサイエンスを活用したビジネス意思決定の効率化・自動化に取り組んでおられます。

そして、2021年3月にUTMDとサイバーエージェントがマーケットデザインを応用して社会問題解決を目指す共同プロジェクトのスタートを発表しました。現在は「待機児童」問題の解決に向けて、マッチング理論に基づく仕組みの設計と導入を目指して取り組まれています。

鼎談では、同プロジェクトに関するお話はもちろん、社会やビジネスの問題に経済学を活用することのメリットから、実際の活用例などを紹介いただいきました。一方で、なぜなかなか日本では進まないのか、実装現場で難しいのはどんなところか、推進のための課題やポイントはどこになるのか、といった、実際のプロジェクトで試行錯誤されるご経験に基づく臨場感あふれるディスカッションになっています。

鼎談は、以下のように進みました。ぜひ本誌を通じて、「経済学を役立つ道具にするため」の試行錯誤を体験してください!

1 はじめに(自己紹介、プロジェクトなど)
2 いまどんな社会問題の解決に取り組んでいるか?
3 サイバーエージェントでの経済学実装
4 世界で加速する経済学実装
5 なぜサイバーエージェントは経済学を使うのか?
6 ビジネスや政策の現場で直面する困難
7 経済学実装の落とし穴
8 正論からビジネスをスタートさせる
9 おわりに:経済学を仕事にしよう!

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小島先生は、2021年・日本経済学会中原賞も受賞されましたね! 春の日本経済学会の受賞講演でも、マーケットデザインの社会実装に関する詳細なお話を伺うことができました。

■就活ルールをマッチング理論で考える

続いて、具体的な社会問題やビジネスの課題に対する経済学を使ったより良い仕組みの提案や、具体的な実装に向けたポイントを解説いただく記事が並びます。

慶應義塾大学の栗野盛光先生には、マッチング理論に基づくよりよい就活ルールを提案する記事をご紀行頂きました。現状の非効率な部分の考察や、より良い仕組みを創るためにどんなポイントが重要かといった点から丁寧に解説いただいています。

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なお、栗野先生は慶應義塾大学のマーケットデザイン研究センター長でもあります!

また、2021年4月30日付の『日本経済新聞』では、ワクチン予約の仕組みに関する提言も発表されています。

■ビジネス現場で活躍するオークション理論

続いて、慶應義塾大学の坂井豊貴先生には、ご自身が株式会社デューデリ&ディールにおいて不動産オークションの設計や導入、運営に取り組まれている経験に基づいて、オークション理論の基本的な考え方から実用化のポイントなどを解説しています!

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日本では珍しい不動産オークションに長年取り組んでこられたのが、同社取締役の今井誠さんです。今井さんは、経済学とビジネスの交流を目指すAuction Labを主催し、とても面白いイベントを定期的に開催しています。

実は、今井さんには以前に『経セミ』のインタビューにもご登場頂いています。以下で公開しているので、ぜひご覧ください!

また、同社の実践的なお話について詳しくは、『メカニズムデザインで勝つ』という本にもまとめられています。

さらに、坂井先生は慶應義塾大学の星野崇宏先生、大阪大学の安田洋祐先生、そして今井誠さんとともに経済学のビジネス活用を推進する「Economics Design Inc」を創業されました。ここでは、コンサルティングのみならず「ナイトスクール」という、豪華講師陣から「ビジネス実用を志向した経済学」を学べる機会も提供されています。注目です!

■UTMDからの実践的な発信

東京大学マーケットデザインセンター(UTMD)の皆さまからは、小島先生に続き、小田原悠朗先生(同センター特任研究員)、野田俊也先生(ブリティッシュコロンビア大学助教授)に、マッチング理論やオークション理論に基づく現実の課題解決に向けた提案をいただきました。

小田原先生は、株式会社ビザスクにてリサーチマネージャーとしてマッチングプラットフォームビジネスの改革・拡大に貢献した後に、東京大学マーケットデザインセンターにて各プロジェクトのマネジメントに従事されています。企業や自治体等との共同研究において、研究と実務の架橋的な役割を果たされています。そのご経験もふまえつつ、「マーケットデザインを使った社内の人材配置」のより良い方法をご提案いただきました。

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野田先生には、2021年6月現在急ピッチで接種が進む新型コロナワクチンの接種計画における問題点の探求と推進のためのキーポイントを非常にわかりやすく解説いただいています。

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なお、野田先生の記事の2021年3月時点版を経セミ編集部noteに先行公開させていただきました。当時は自治体によるワクチン接種が始まろうとしていた段階であり、テーマの緊急性を重視しての公開でしたが、幸いとても多くの方々にご関心をお寄せいただきました。

また、より詳しくはUTMDのレポートも公開されていますので、そちらもご覧いただければと思います。

さらに、小島先生、野田先生含む経済学者6名が、ワクチン予約の仕組みに関する緊急提言「ワクチン予約システムに関する改善提案」を、以下の東洋経済オンライン様にに発表されています。こちらでもマッチング理論のアイデアを活動した提案がなされていますので、ぜひご覧ください!

■おわりに

以上、駆け足で『経済セミナー』2021年6・7月号の特集「社会の仕組みを経済学で創る」の内容をざっとご紹介しました。特集はもちろん、今号は「経済学Ph.D.」に関する情報提供や、渡辺努先生(東京大学)による民間業務データの活用、さらには成田悠輔先生・矢田紘平先生による新連載「データで社会をデザインする 機械学習・因果推論・経済学の融合」など、面白くて学びの多い記事が満載です。ぜひ本誌をよろしくお願いします!

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なお、2020年にノーベル経済学賞対象となった分野が、まさにオークション理論でした。関連する参考文献の紹介を以下にまとめています。オークション理論だけでなくマッチング理論の参考図書やウェブサイトも紹介しているので、ぜひが覧ください。

また、大阪大学の安田洋祐先生が、同賞のノーベル財団が発表する一般向けの解説記事の翻訳を、以下で公開しています。受賞者のミルクロム教授、ウィルソン教授ともに理論研究の発展のみならず、オークション理論の実践にも大きく貢献したことが触れられています。




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