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銀行員の横領をテーマにした映画「紙の月」

銀行員の業務上横領は犯罪です。

詳細はお話できませんが、銀行員時代に私の身近で起こったこともあります。

銀行員は普段から大金を扱っています。
銀行では目の前に札束がゴロゴロころがっています。

横領という犯罪に手を染めやすいのは間違いないでしょう。

そんな銀行員の横領をテーマにした映画を今回はご紹介します。


銀行員の横領をテーマにした映画「紙の月」

その映画タイトルは「紙の月」です。

タイトル:紙の月
監督  :吉田大八
原作者 :角田光代
出演者 :宮沢りえ(梅澤梨花)
     池松壮亮(平林光太)
     大島優子(相川恵子)
     田辺誠一(梅澤正文)
     小林聡美(隅より子)
     石橋蓮司(平林孝三)
     近藤芳正(井上佑司)他  

原作は直木賞作家の角田光代さんの小説です。
小説も読みやすくて、おすすめです。


「紙の月」のあらすじ

それでは、「紙の月」のあらすじを簡単に紹介します。

「紙の月」の簡単なあらすじ

舞台は、バブルが崩壊した後の1994年。

夫と二人暮らしの主婦、梅澤梨花(宮沢りえ)は銀行の契約社員として外回りの仕事をしています。

細やかな気配りと丁寧な仕事ぶりで顧客から信頼され、上司からの評価も高い真面目な女性行員です。

同僚のベテラン行員の隈よりこ(小林聡美)や若い相川恵子(大島優子)たちの助言や小言も素直に受け入れる銀行員でした。

何不自由ない生活を送っているように見えた梨花でしたが、自分への関心が薄い夫(田辺誠一)との間には子供にも恵まれず、私生活には空虚感が漂いはじめていました。

そんな中、梨花は年下の大学生の平林光太(池松壮亮)と出会います。
いつしか若い光太に恋をしてしまい、彼を助けてあげたいと思うようになります。

そんなある日、梨花は仕事帰りに立ち寄った化粧品売り場で、財布の中の持ち合わせが足りないことに気づきます。

梨花は迷いながらもお客様から預かったお金を使ってしまいます。

すぐATMから自分のお金を引き出し、もとに戻しますが、その日から彼女の金銭感覚が少しずつ狂い始めます…。


「紙の月」の詳しいあらすじ(ネタバレ)

ここからは「紙の月」の詳細なストーリーです。

元銀行員の私目線によるサブタイトルを勝手に付けております。

※ここからネタバレが含まれます。


「紙の月」序章 ー平凡な真面目な女性銀行員ー

画像元:映画.COMより転載

舞台は、バブルが崩壊した後の1994年。

梅澤梨花(宮沢りえ)は、子供には恵まれなかったものの、夫の正文(田辺誠一)と平凡で穏やかな暮らしを送っていました。

梨花は4年前から銀行のパートとして働き始めましたが、仕事ぶりが認められ営業の契約社員となりました。上司の井上次長(近藤芳正)からの評価も高く、梨花は銀行から信頼されていました。

同じ支店の同僚には、厳しいベテラン女性行員の隈より子(小林聡美)や、若い女性行員のテラー相川恵子(大島優子)らがいます。

一見すると何不自由のない生活を送っている梨花でしたが、家庭では徐々に夫とのすれ違いが生じ始めます。

梨花が契約社員になって初めての給料で、夫にペアウォッチをプレゼントします。
しかし正文はその時計をあまり気に入っていないようでした。
後日、夫が出張土産として梨花にカルティエの時計を買ってきます。
梨花は、自分が働いていることを軽視された気分になってしまいます。

梨花の仕事は銀行の外交です。
取引先の簡単な集金業務から金融商品の提案などもできるようになりました。

銀行内で長年勤務した同僚の女性が退職することになりました。
他部署への異動を断ったとの話でした。
結果的には依願退職という形ですが、実態は辞めるよう追い込まれたようです。

年齢を重ねて給料が高くなる女性の正社員を辞職に追いやり、安くて若い契約社員を取るのが、銀行の方針でした。

梨花は退職する女性に代わり、裕福な老人の平林(石橋蓮司)を担当することになります。
平林の自宅を訪問した際に、梨花はお茶を淹れるよう平林に指示されます。これまでの担当者はやっていたようなので、引き受けます。お茶を入れる準備をしていると平林が後ろから梨花の肩に手を伸ばします。

平林からセクハラされそうになり困っている梨花を助けたのは、大学生の光太(池松壮亮)でした。


「紙の月」第二章 ーほんの些細なことがきっかけで犯罪に手を染めてしまうー

画像元:映画.COMより転載

銀行での送別会の後、梨花は光太と駅で偶然再会します。
梨花は心の隙間を埋めてくれる若い光太に次第に惹かれはじめます。

ある日、裕福な老婦人からお金を預かり、銀行へ帰る前にデパートの化粧品コーナーに立ち寄ります。化粧品のセットを買おうとした時、財布の中のお金が足りないことに気づきます。

梨花はクレジットカードを持っていません。仕方なく、化粧品購入のため梨花は集金したお金の中から1万円を使い支払いを済ませます。
一時的とはいえ、横領してしまいました。
その後ATMで自分のお金をおろし、集金袋に戻します。

その日の帰り、地下鉄の駅の向かいのホームに光太を見つけます。
梨花は光太のもとに自ら向かいます。そして梨花と光太は肉体関係を持ち、不倫が始まります。

場面は変わり、同じ支店でテラーとして働く相川恵子(大島優子)は、ベテラン女性行員の隅より子(小林聡美)にいつも勤務態度などの小言を言われています。

恵子は女性ロッカー室で梨花が少し派手なってきている印象があると指摘します。
恵子は女性行員の行動や身なりをより子がチェックしていることを梨花に忠告します。
梨花は、若い光太と不倫を始めてから、いつのまにか私服や化粧が自然と派手になっていました。


「紙の月」第三章 ー誰にもバレないので歯止めがきかなくなるー

梨花は光太が大学の学費を払うために多額の借金を抱えていることを知ります。
梨花はどうにか助けたいと思い、光太の祖父、平林からだまし取ったお金を自分が援助してあげるかのように渡し、学費に当てるように言います。

光太は、最初は受け取りを拒否しますが、やがて少しずつ梨花にお金を返すと約束して受け取ります。

梨花の横領はどんどんエスカレートします。

顧客に認知症の気配があることを知ると、老人のお金を着服します。
他行へ持っていき300万円で新規口座を開設します。

そしてこれまで持っていなかったクレジットカードを作ります。

しかし光太とのデート代やショッピングですぐにクレジットカードは限度額に達します。

お金をもっと横領するため、梨花は自宅にパソコンやプリンタを購入します。

そして銀行の定期証書を持ち帰り、証書を偽造し始めます。
そのニセの証書を使って、次々に金を横領していきます。

横領したお金は、光太とのデート代、食事や高級ホテルの宿泊に使います。また光太のためにマンションを借りるなど、横領額はますます膨らんでいきます。

しかし誰にも横領が気づかれないまま、時は過ぎていきます。
そんな中、夫の上海への転勤が決まります。
しかし梨花は一緒には行けないと夫に告げます。

場面は過去に戻ります。
子供の頃、梨花はカトリック系の学校に通っていました。
学校の教訓は「受けるより与える方が幸いである」。
そのため学校では恵まれない人への募金が行われていました。
周りのクラスメイトは、募金活動に最初は熱心でした。

時が経つにつれて、クラスメイト達は募金への興味をなくしていきました。しかし梨花だけは恵まれない国の子供から送られてくるお礼の手紙が嬉しくて募金活動を続けました。
梨花は、父親の財布から5万円を盗むことをしてまで募金を続けていました。
梨花は困っている人にお金を渡して喜んでもらうことが嬉しかったのです。

しかし、この多額の寄付が問題となり募金活動は中止になります。
しかし梨花は寄付のために、お金を盗む行為が悪いこととは思いませんでした。


「紙の月」終章 ーいつかは必ずバレるー

画像元:https://type-r.hatenablog.com/entries/2015/10/18より転載

その頃、梨花は恵子の不倫相手が、上司の井上次長(近藤芳正)だと知ります。恵子は結婚して田舎に戻るつもりと告げます。

そして光太との不倫関係が終わるときを迎えます。

光太は梨花の知らない間に大学を中退していました。
光太の態度はどんどん横柄になりました。
最初はきちんと返していたお金も、約束通りに返さないようになってきました。

ある日、マンションを訪ねた梨花は、光太が別の女性を連れ込んでいるのを知ります。そして光太は梨花と別れてしまいます。

光太と別れた梨花ですが、横領が露見するのを防ぐため証書の偽造を続けます。

そんな中、ベテラン女性行員のより子が本店異動を打診されます。
より子は若手だけでは、支店業務は危険だと井上次長に提案します。
そして、より子は支店のミスを徹底的に調べます。

より子は調べている途中に書損した証書が支店から紛失していることが発覚します。
書損処理した証書は原本を保管しておかなければいけないルールになっていました。しかし証書は見つかりません。

なくなった証書の内容から、梨花が怪しいと考えたより子は井上次長に報告します。

井上次長は梨花を呼び出し確認しますが、梨花は恵子との不倫をネタに逆に次長を脅します。結果的に、梨花へのお咎めはありませんでした。

しかし、余計に梨花が怪しいと感じたより子は、さらに徹底的に調査します。すると梨花が横領した額はとんでもない金額と分かってきます。

その横領の内容を支店長も知ることになり、梨花は呼び出されます。全額返済できれば刑事告訴は免れるという話を聞かされます。

しかし梨花の横領額は支店長の想像以上でした。さらに梨花は現時点で600万円もの借金を抱えていました。全額返済できるようなレベルではありませんでした。

支店長たちが席を外した間に、より子が梨花に話しかけます。より子は借金を肩代わりしてもらえる親族がいないのか、と梨花に優しく訊きます。

梨花を追い込んだ張本人であるより子が優しい態度で接してきたため、梨花は苛立ちます。梨花は「自分が惨めだから慈悲をかけるのだろう」と言います。

より子は、「なぜ多額の横領に手を染めたのかを少し考えてみた」と梨花に伝えます。

そして自分ならどうするかを考えた結果「自由になってもやりたいことは「徹夜」ぐらいしか思いつかなかった」と梨花に告白します。

「あなたは私が想像できないようなことをした」と、より子は梨花を少し褒めます。そして「あなたこそ、私を惨めに思っているのではないか」と梨花に問いかけます。

梨花は「自分も徹夜したことがない」と言います。
しかし、「初めて朝帰りした時、月を指でなぞると消えた」とつぶやきます。

梨花は「紙の月はニセモノだから壊したっていい」と告げます。

より子は梨花を「信頼した人を裏切って、お金を盗むことが自由なのか」と責めます。
「お金なんてただの紙だからニセモノ、だから自由にはなれない」と、より子は梨花に伝えます。

「あなたが行けるのはここまでよ」
より子がそう言うと、梨花は立ち上がります。
そしてパイプ椅子を持ち上げ、部屋の窓ガラスを叩き割ります。

そのまま逃げようとした梨花の腕を、より子が掴みます。

梨花は「一緒に行きますか?」とより子に問いかけます。
より子が呆然としているスキに、梨花は2階から飛び降りて全力疾走で逃げ出します。

画像元:https://type-r.hatenablog.com/entries/2015/10/18より転載

・・・場面は変わり、東南アジアの街角に梨花はたたずんでいます。

梨花は落ちた青リンゴを拾う少女を手伝って、1個の青リンゴを貰います。梨花の目の前に、かつて募金活動でお礼の手紙をくれた人物のような男性が現れます。

梨花が男性と見つめ合っている途中、地元警察を目にします。

そして梨花は街の雑踏に消えていきます。


「紙の月」から考える銀行員の横領

画像元:https://ameblo.jp/kanamemayo/entry-12393659974.htmlより転載

銀行員が横領という罪を犯してしまうのは、なぜでしょうか。

私は次の3つの理由があると考えます。

  • 銀行員の職場環境

  • 銀行員の勘違い

  • 銀行員の不自由さ


銀行員は「ちょっとしたきっかけ」で横領できてしまう職場環境

銀行員の場合、ある程度の収入が約束されています。

実際、お金に困って罪を犯す銀行員よりも、ちょっとしたきっかけで横領してしまうケースがほとんどではないでしょうか。

「紙の月」の主人公、梨花も平凡で真面目な銀行員で、特に生活には困っていませんでした。

しかし、ほんの小さなきっかけから、あっという間に横領額は巨額に膨れ上がっていきます。

銀行員はお金に囲まれて仕事をします。そのため、人のお金に手をつけやすい環境にあります。

ちょっとしたことで、横領ができてしまう職場環境なのです。


銀行員は「顧客の金を預かっていると勘違い」している

理由は何であれ、人のお金や財産に手を付けることは犯罪です。その原則を、銀行員はときに忘れがちです。

なぜなら銀行は顧客のお金を「預かっている」と勘違いしているからです。

実際は、銀行は顧客から「預かっている」のではなく、顧客に「預けてもらっている」のです。

つまり銀行は顧客から委託されているのです。
顧客からお願いされて預かってあげているのではありません。

信用によって委託された財産に手をつければ当然犯罪です。

その行為は業務上横領罪になります。


銀行員は「自由に生きにくい」職業である

銀行員は世間体を気にします。
もちろん気にしない人もいますが、周りは銀行員=真面目と思っています。

つまり、銀行員は自分の人生を自由に生きたくても、生きにくい職業です。

そうなると、ときにはハメを外したくなる気持ちも分かります。

映画のクライマックスシーンで、ベテラン女性行員がつぶやくセリフがあります。

休暇をもらっても自分のやりたいことが「徹夜」くらいしか思い浮かばなかった

銀行員は、自分が何をしたいのか分からなくなってしまいがちです。
特に真面目で一生懸命に仕事に取り組む人ほど、自由になりたいと憧れることは多いのではないでしょうか。
それを端的に表現したセリフです。

一方、主人公の梨花は横領に手を染めた後は、銀行員とは思えないほどノビノビと欲望のままに生きています。
世間体によって、がんじがらめされている人ほどハメを外してしまうと、元には戻れない象徴のようです。

自由に生きてみたいという欲望が、横領という犯罪に変わるのかもしれません。

あと、宮沢りえさんの演技が非常に素晴らしかったです!


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