自分の価値に名前をつけること1

十二

僕の価値はなんだろう。空白の時間がもたらした思考の時間に浸る。

最近複数の友人から電話越しに相談を受けることが増えた。ウイルスの影響で空白の時間が生まれ、その時間が無駄に人間に思考する時間を与えている。普段忙しなさに身をまかせ、考えることをスキップしている部分がうざったく主張を強めてきた。今回はそのうちの1人の話を聞いて僕自身も悩み始めてしまったので、このゴチャついた頭の整理をしていこうと思う。

彼女の名前を、ここでは春とする。小中学校を僕と同じところに通っていた。友人関係を築くのは上手くなかったが、僕にとって悪い人間ではなかった。小学生の時、僕の何かが彼女の気に触れてしまって、首を閉められるような喧嘩もしたが、高校を卒業し、彼女の浪人が終わってからは更に良好な関係である。春はそういう人間で、僕も然りだ。ここからは彼女の人生を、僕の記憶に基づいて少し振り返る必要がある。このnoteは僕の思考の吐きダメになっているので、まず僕の彼女に関する記憶で大きな部分を紹介しておきたい。

小学生の時、春は天使(学年1可愛い女子)の真似をしていると噂されていた。天使は細くて病弱。体育で、本来僕の学校に長ズボンはないが、彼女のみ長袖長ズボンが年中許されていた。ある時から、春も天使と同じスタイルで体育に出ていた。これは悪い方向に噂された。言われていた主な台詞としては「天使扱いされたいわけ?」という感じだ。春は天使と仲良くしたがっているように見えたが、どうだったのか僕は天使サイドだったので分からない。ちなみに天使はその時他のことで手一杯で春のことはそこまで覚えていないというのだから、皮肉なものだ。

中学生の時、僕は春とかなり仲が良い方だったと思うが、その時期の記憶が僕の都合ですっかり抜けてしまっている。ただ、かなり頭がよかったのは覚えている。女子の間ではトップ3に入っていたと思う。そしてそれ相応の努力をしていた。僕の学校の生徒の大半が通う塾で最上位のクラスに在籍し続け、遊びもほどほどに勉強していた。

彼女は無事地区内で一番偏差値の高い高校に入学した。しかしこの高校は僕の中学からほとんどの生徒が通う。春が関わる人間は中学からほぼ変わらない。なんとかこの閉鎖的空間で彼女がみつけた友人も、卒業後には失われた。これが要因で今の彼女が出来上がってしまったように僕は感じている。

前置きがかなり長くなってしまったが、ここからが彼女が今抱えている悩みと、それに付随する僕自身の悩みだ。

私は、これまでの人生でまともな人間と友人関係を築けた試しがない。これから大学生になるけど、私にとって初めてあの狭い世界の人間以外と関わることになる。あんな狭い世界ですら上手く人間と関われなかったのに、今更どうしたら良いんだろう。そもそも友達になりたいと人に思わせる価値が私にはない。

悩ましい。彼女はこれまでの人生から自信を失っているのは明白だ。挙句外の世界を何も知らない。知らないことは恐怖と直結する。彼女は人間関係を構築する行為自体に恐怖を覚えているようだ。知らないだけだ、と伝えることしか僕にはできない。”知らないこと”を僕が教えてあげることはこの場合難しい。春に必要な経験は僕じゃ役足らずなのだ。僕は話を聞いて、ただ言うことしかできない。

大学という外の世界で出会う人間が、違う価値を春に教えてくれるよ。だから大丈夫。僕は君の価値を知っているから君の話を聞いているのに。

僕は高校であの狭い世界から逃げた。そして全く違う価値観を持った人間たちとの素晴らしい時間を過ごした。だから僕は僕になった。僕には僕の価値ができたのだ。小中学生だった頃の狭い世界の人たちは、学力で人をみる。誰かが円からはじき出されても、所詮ルーティーンなのだから、保身のために見て見ぬ振りが賢い選択。いかに”正しい”選択をするかが価値を決める。外に出ると、全部が違って見えた。人によって価値は様々なのだ。学力、歌唱力、運動能力、文章力、トーク力、いくらでもあった。誰のどこを価値と見なすか、これも個人の価値観次第で人と合わせる必要はない。このことに気がつくのにどれだけ時間がかかったことか。僕は運よく良い友人に恵まれたから知ることができたが、これを学ぶ方法は経験でしかない。

つまり、僕の自分語りはこの場合効果がない。僕がたとえこの経験を話したとしても、彼女には理解することができない。知らないのだから理解できるはずがない。経験談はあくまで経験談であり、経験ではない。例えば僕の身に起きたことは、僕だったから起こったことであり、春には春の経験がある。だから、彼女の価値は彼女にしか見つけられないのだ。この相談を受けて泣いている彼女に僕がしてあげられることはただ、話を聞いて、僕は君に価値を見出していると伝えること。


次は僕がこの話を受けて考えた僕自身の価値について。

それでは、また明日。


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