幼馴染と僕 2

昨日の続きを書いていこう。正直長すぎて執筆者自身飽きてしまった事を詫びたい。

 僕たちは無事第一志望に合格し、初めて別々の学校に通うこととなった。中学の頃のように学校で毎日顔をあわせることはなくなったものの、ほぼ毎週渡日のうちのどちらかをうちで過ごしたり、買い物に行ったり、平日の帰りを合わせたりしながら関係を続けていた。

 一年の夏、僕は海外研修へ行き、帰国してすぐ彼に会いに行った。お土産を渡しに寄るだけで、すぐ帰る予定だった。それなのに、二人とも見ていない甲子園の録画、久しぶりの日本だろ?と行って作ってくれたオムライス、開いた窓から吹く風、僕の膝に頭を乗せて寝てしまった彼の揺れる前髪、よく覚えている。ただの日常の一コマ、一コマになるはずだったもの?

 二年生になり、僕たちはそれなりに高校を満喫していた。この学年の秋といえばそう、修学旅行がある。彼は散々僕にお土産を買ってくると言っていたから、僕は美味しいお菓子を買ってくるようにお願いしたが、結局何もくれなかった。彼はごめん、全部食べちゃったとかいうわけのわからない言い訳をしてきた。ここで、もう一人僕には仲の良い幼稚園からの友人がいたことを思い出してほしい(彼もまた幼馴染だが、名前を公表しておらずわかりにくくなるため友人と表記する)。前回の記事で僕には幼稚園の頃仲の良い友達がもう一人いて、幼馴染にいたずらばかりしていた話を書いたと思う。その彼だ。実は彼とは幼稚園以来同じ学校には通ったことがない。しかし、幼馴染と彼は偶然にも同じ高校に通っていた。その彼の方は僕にお土産を持ってきた。この頃の僕らの関係はイベントごとでプレゼントを交換するが一緒に遊ぶことは無く、家が近いため会ったら話すぐらい。彼には特に何も言っていなかったが(そもそも連絡先を知らない)僕が欲しかったものをピンポイントで買ってきたことに驚いた。幼馴染とつい比べてしまって、そのことを彼に話すと、少し照れたような顔をして俺の方が幼稚園の頃からお前のこと知ってるから、なんていうから、僕も照れてしまった。久しぶりに長く話し盛り上がっていた。

 そんなタイミングで幼馴染が帰ってきたものだから意図せず久しぶりに三人揃った。なんと無く気まずいのが正直なところだ。僕は双方と仲が良いが、彼らはそこまで仲良くはない。幼馴染は彼にいたずらをされていたところで時が止まっているし、友人からすれば僕と幼馴染が仲良くしていることは想定外なのだ。僕が幼馴染とたわいもない会話をすると、友人はただ、お前ら仲良くなったんだな、と少し驚いたように言った。幼馴染は、お前らこそまだそんなに仲良くしてるとは知らなかった、それもらったの?と僕に聞いた。僕は頷いて、その場の雰囲気をなんとかしようと幼馴染と違って友人はこういうのちゃんとしてんだよ笑、と努めて明るく言った。そのあとの会話はあまり覚えていないが、楽しく会話して解散した。後日フォローが下手すぎると苦情が双方から入ったのはいうまでもない、もちろん謝罪も一緒に頂いた。

 そんな僕らも受験生になった。幼馴染は夢に見合った大学を地元で見つけていたため引越しなどの予定も特になかったし、それに向けて黙々と勉強していた。僕はといえば、自分が本当に行きたい大学を言い出せなかった。幼馴染に絶対反対されると思ったし、引き止められたら、それを振り払えず夢を諦めてしまいそうで怖かった。

 そのまま夏が来た。高校も最後になるし、一緒に花火大会に行こうよと誘った。僕はこの日、志望大学や将来のことについて打ち明けるつもりだった。僕を迎えに来た幼馴染は、浴衣を着た僕を見て少し驚いた顔をした。言ってくれれば僕も浴衣を着たのに、久しぶりだね、綺麗。流石に照れくさくなって、早く行こうよ、と慌てて家を出た。まだ早すぎる時間だった。まだ日が沈む様子はないが、屋台などで時間を潰した。なんだか、久しぶりに二人でこんなに話をしたんじゃないかと思った。いつもは同じ空間にいてもそれぞれ違うことをしているか、一緒に勉強していることが多かったから。日が沈んで、辺りは暗くなってきた。僕たちは屋台で腹ごしらえを済ませ、草むらの上で花火が上がるのを待っていた。あと一時間で花火が始まるくらいの時間だったと思う。僕は話を切り出した。

 将来やりたいこと、そのために日本を出る決断をしたこと、もちろん君と離れるのは辛く怖いことだけど、応援してほしいこと、離れても、帰ってきたときはまたこうして二人他愛ない時間を過ごしたいと言うこと。今まで黙っていた分、溢れるように言葉が出てきた。幼馴染は時折リアクションを挟んだが、静かに最後まで聞いていてくれた。僕が一通り話し終わって幼馴染が口を開こうとしたとき、花火が始まった。声がよく聞こえない。聞き返すと、彼は僕を押し倒した。彼も横になって、花火きれいだね、寝転んだほうがよく見えるよ、と言った。ここからは僕が覚えている限りの彼の言葉だ。

 「僕は、高校に上がる時、別々の学校に行くことを怖がる君を知っているよ。結局僕らは関係をやめなかったし、年々仲は良くなった。何も怖がることはなかったね。それでもあの家にもう君がいないことは想像し難いな。正直、なぜ国を出ないといけないのかはわからない。前に言っていた関東の大学ではいけないのか、僕にはわからないけど君がそうだと言うのだからそうなんだろう。まだ想像できないけど、話してくれてありがとう。お互い合格できるように頑張ろう…君ともっと昔から、こうして仲が良ければ今頃もっとたくさんの思い出があったのかな。」多分こんな感じだった。しばらく黙ったあと、彼は昔の話を切り出した。二人の過ごした時間を振り返るように、今までの時間について話した。くだらないことを思い出しては顔を見合わせて笑った。

 花火は本当に綺麗で、こんなにも鮮やかだったのか、ああ、終わらなければいいのにと何度も思った。最後の一つが上がる前に彼は少し歩こうと言って会場を向け出した。少し早めに出ないと僕が人混みにやられると思ったらしい。正直その通りになってしまうと思うのでありがたかった。彼は僕に大切だ、と言ってくれた。普段見慣れない真剣な顔から、僕は目が離せなかった。

 秋に、僕は手紙を渡して、幼馴染はお守りと言って腕輪をくれた。手紙には、幼馴染として大切に思っていることを書いた。これによって僕らの関係は修復されたように感じた。僕は腕輪を毎日つけたままにしていた。

  相変わらす僕たちの関係はだらだらと続く。一緒に勉強するだけの日々が過ぎる。年を越して、よく一緒に行っていた神社まで散歩に行った。幼馴染に、会えなくなっても忘れないでね、というと、忘れるわけないでしょ、と子供をあやすように言われた。僕は思い出していた。クリスマスにもここに二人できていたことを。その時は何も言えなかったが、僕は離れることが怖かった。中学生の頃よりずっと。

 しばらくして、彼は一足先に合格した。僕も第二志望に受かって、第一志望のもほぼ合格確定のところまで来ていた。僕は確実に迫る別れの時を待っていた。高校を卒業すると、お互い旅行に行くことが多く忙しくなった。電話をすることは稀にあったが、テキストでのやり取りはほぼ残っていない。僕が出国する日、彼は空港まで送ってくれた。この時の電車はひどく早く感じた。本当に一瞬でついてしまった。彼に今までありがとう、というと、ただ頑張ってね、と言われた。

 小説のようにはいかないもので、オチもなく終わってしまった僕たちの話をここまで読んでくれた方、ありがとうございました。

それではまた明日。

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