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詩人・瀧口修造の足跡をたどる ヨーロッパを旅する眼差しとは

知る人ぞ知る激レア本

少し前(注1)にInstagramでとある本を紹介しました。

『瀧口修造1958――旅する眼差し』(慶應義塾大学アート・センター 編 2009年刊行)といいます。税込55000円(2021年現在)、限定400部の貴重本(注2)となっております。

瀧口修造(1903-1979)とは、シュルレアリスムを含めヨーロッパの前衛美術に関する文献を日本に多く紹介し、戦前戦後にわたり日本の前衛芸術の理論的支柱となった人物です。西脇順三郎(1894-1982)の教えを受けるなど慶應義塾大学とも縁のある人物といえます。

1958年、瀧口はヴェネツィア ・ビエンナーレ代表としてヨーロッパを旅しました。フランス出身の美術家マルセル・デュシャンや、シュルレアリスムの指導者アンドレ・ブルトンと会見を果たすなど、瀧口の旅は4ヶ月以上に及びました。

『瀧口修造1958――旅する眼差し』は、この旅路の中で遺した写真や、妻・瀧口綾子に宛てた絵葉書などの旅の記録を収録し、瀧口の活動の転回点と目される1958年の「旅する眼差し」を再現しました。

コレクションが導く1958年の旅路

瀧口の活動の転機ともいえるヨーロッパでの旅については、「解説書」にて記録が克明に残されています。細部まで書き出すと大変な量になるので、大まかな旅程を抜粋します。

瀧口がたどった大まかな旅程(「解説書」より構成
5月25日
 日本出国
5月26日~ イタリア(ローマ、ヴェネツィア、フィレンツェ、ミラノ)
7月9日~ フランス(パリ、ヴィルフランシュ=ド=ルエルグ、セレ)
8月6日~ スペイン(バルセロナ、ポルト・リガト、フィゲラス、カダケス、マドリッド)
8月21日~ フランス(パリ)
8月27日~ ベルギー(ブリュッセル、ブルッヘ/ブリュージ、ヘント/ガン、シャルルロワ、アントウェルペン)
9月10日~ オランダ(スヘルトヘンボス、デン・ハーグ、デルフト、ロッテルダム、アムステルダム、エデ、オッテルロ)
9月20日~ スイス(チューリヒ、ベルン、フリブール、バーゼル)
10月5日~ フランス(コルマール、パリ)
10月12日 帰国 

4か月に及ぶ長い旅の中では、作家たちへの訪問のほか、美術館巡りや書店巡りなどをしていたとされています。いつ、どの都市にどの交通手段で行き、誰に会い、どのホテルに泊まったかなど、「解説書」では豊富な情報量で掲載されており、これを見るだけでも想像が膨らみます。

また、自ら撮影した写真、日記、妻・綾子にあてた封書・絵葉書のみならず、切符やレシート、お菓子の包み紙まで、あらゆるモノを瀧口はコレクションしていました(慶應義塾大学アート・センター「瀧口修造アーカイブ」も参照)。こうした資料も、旅を追想する手がかりを私たちにもたらしています。

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旅行中の写真は1200点にも及ぶ。瀧口自らがシャッターを切った写真はこの旅行中を除くとほとんど存在していないとされる。その点で、彼の眼差しをうかがい知るのに貴重である。

費用面についてもある程度の推測がなされています。「文献を買い集めるのが唯一の贅沢と言ってもよい、むしろつつましい旅であるが、日本人の収入に基づいて考えれば初任給1カ月分を2日で消費したという計算になる」(解説書p161)。原稿料を前借りするなど、旅費の工面に苦心した様子もうかがい知れます。

瀧口にとってターニングポイントともいえるこの旅を追体験する『瀧口修造1958――旅する眼差し』。一つの展覧会を箱の中に収めたような作品となっていますので、ぜひお手に取ってみていただきたいと思います。

開封動画!!(注3)

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注1:少し前と言ってもインスタの投稿は7月、この記事は11月と相当な時間の開きがあります。これは筆者が他の業務にかまけて、延期に延期を重ねてごまかし続けた結果です(言い訳)。反省しています。ちなみに7月頃はインスタ運営のために機材を新しく購入し、運営メンバーがはしゃいでいた時期でした。

注2:貴重本なのに在庫があるって矛盾してないか?と思った貴方、実は在庫があるにはあるのですが、倉庫の保管コストの問題から、ずっと在庫を抱え続けるわけにいかず……という事情もあります(汗)。ちなみに、シリアルナンバーは編集担当が心を込めて手押ししました。

注3:弊社のインスタは新刊が出るたびコンスタントに更新し、モノとしての本のカッコよさをお伝えできればと思っています。ぜひ覗いていただき、よかったらフォローをお願いいたします。→ https://www.instagram.com/keioup/

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