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☆『三田文學』最新号こぼれ話――2024年夏季号(158号)☆

こんにちは!編集部員Aです。9月に入り、そして終わりに差しかかってきました。夕方にふと窓の外を見やると、いつの間にかしっかり暗くなっていて、毎日驚いています。
今回は、現在発売中の2024年夏季号(158号)こぼれ話をご紹介します。

今号の特集は「台湾現代詩——輝ける海洋の花」。2023年1月に台湾・高雄市で4日間にわたり開催された国際詩祭「高雄世界詩歌節」の中核を担った高雄の青年詩人6名の詩作品をご紹介しております。この詩歌イベントでは日本からの参加詩人も多くいらっしゃり、その1人、柏木麻里さんの「黒鍵の虹、宝石の液」というエッセーも掲載しております。

こちらの原稿、私が担当させていただいたのですが、漢字だけの詩の朗読が、「宝石のぶつかり」や「ピアノで飛び飛びにある黒鍵」というイメージで、それをつなぐ白鍵がひらがなだと表現されていて、その朗読を聞いたことがない私の目の前にもとても美しい光景として広がり、うっとりと引き込まれました。(ちなみに遣唐使が最初に漢詩に出会った時のときめきもこのようなものだろう、と仰られており、その時代にまで遡って思いを馳せる空気感にもロマンとときめきを感じました……!)

この本誌掲載原稿のやり取り後、柏木さんから編集部宛てに、詩祭の余談として素敵なメッセージをいただきました。その内容が編集部内だけに留めておくにはもったいなく感じましたので、先日、三田文学会会員のみなさまに最新号と共に同封している会報誌にてお知らせしました。

せっかくですので、noteでもご紹介させていただきます。(柏木さん、ご快諾ありがとうございました!)

高雄世界詩歌節・余話――「台湾詩人たちとの遭遇小記」柏木麻里
 
私は昨年11月に、台湾の高雄で開催された国際的な詩のフェスティバル、高雄世界詩歌節に参加し、そこで台湾の詩人たちの朗読を聴いた時のことを、エッセイ「黒鍵の虹、宝石の液」として『三田文學』158号に書きました。ここでは、エッセイに書ききれなかった零れ話を少々ご披露したいと思います。

台湾の詩の状況については、事前に日本の雑誌で、ネットや SNSの活用などにおいて、ベテランと若手が二つに分かれ、まるで二つの詩壇が存在しているようだ、と読んでいました。私自身、高雄を訪問する以前から交流があったのは、ベテラン詩人の方々でした。若手詩人については、日本語に翻訳された詩を、同じ雑誌の特集で数篇読んだのみ。詩祭には参加されていませんでしたが、楊佳嫻ヤン・ジアシエンさんの詩「天の川のほとり」の中の「あなたの肺腑を泳ぎ回る龍」(及川茜訳『現代詩手帖』2019年5月号)というような、生き生きと魅力的な詩句が目を惹きました。

事前に感じていたもう一つのことは、中国との関係を土台とした、台湾の独立性を世界へ訴えたい、支持を得たいという意思です。これは何人かの、ベテラン世代の詩人の作品やSNSへの投稿などから受け取った印象です。
世界の詩祭は、多く、何らかの意味で危機や分断をはらんだ場所で行われます。言語という民族や地域のアイデンティティと密接に結びついたものが光を放つのは、そのアイデンティティが不安定な状況に置かれた人々の暮らす場所である、というのが、複雑な気持ちにはなりますが、真実なのでしょう。

高雄の詩祭は、他国のそれらと比較しても、背景に多くの企業の協賛があり、多言語詩祭を成功に導いた、複数の優れた通訳者やボランティアの存在にも、主催の高雄市政府文化局の並々ならぬ情熱が伺えました。

では実際に詩祭に行ってみたところ、どうだったのか。政治色が全体を覆っている、ということはありませんでした。むしろ多民族国家である台湾の、様々な民族と言語の存在に光を当て(文字通り、開会式の舞台に上がった尼布恩ニブン合唱団は、スポットライトを浴びて先住民族の古謡を披露してくれました)、詩人たちの中には台湾華語とは異なる台湾語の自作を歌うように朗読する人もいました。多様さと、どこかのんびりとした大らかさが、全体を包む雰囲気への感想でした。

また政治に関する点も、日本で想像していたのとは、ちょっと事情が違いました。若い世代の詩人の多くは、詩の中で政治を直接的には語っていません。一方で、話をしてみると、現・高雄市長に対する自身の賛否をしっかり語り、国民が為政者を監視するのは当然のことであり、「人間が暮らすどのような場面も、政治と無関係なものはない」と爽やかに話す姿に感銘を受けました。なるほど、このような形で市民に、そして一人の市民である詩人に、政治意識が根づいているのかと実感したものです。
さて、私にとって詩祭全体でもっとも印象深かったのは、エッセイ「黒鍵の虹、宝石の液」にも書いた、本誌にも登場する、40歳前後の比較的若い世代の詩人たちとの出会いでした。

日本の現代詩と比較して、極端な難解さは少ない一方で、誰にでもわかる言葉を組み合わせて、新鮮で洗練された世界を作り出していること。そして、これは日本の現代詩にも時折顔を覗かせる要素だと思いますが、自然と人間が、何食わぬ顔で、すっと一つになるような感覚に、現代を生きるリアルな抒情が表現されていること。本誌の特集に登場する任明信レン・ミンシンさんの詩のような、おそらく台湾の読者にとっても、その意味のすべてを明らかにすることは難しい、しかし優れて美しい詩が、非常に多くの読者から、ほとんど熱狂的に支持されていること。どの詩人も、自身の創作について語ることに習熟していることなど、多くの発見に恵まれました。

後で知ったところでは、台湾では「朗読サロン」というイベントが、かなり頻繁に開催され、若い読者層を中心に人気を博しているようです。詩祭の私達の朗読会も、チケットが発売10分で完売となった、という驚くべき話を聞きました。こうしたことは、端的に、詩が、日本よりも多くの読者を得ていることを示唆していると思います。

魅力あふれる、最新の台湾詩。詳しくは『三田文學』台湾詩人特集の、各詩人のみなさんの作品、そして私のエッセイも、どうぞお楽しみ下さい!

ちなみに今回の会報誌では、三田文学会会員限定で参加できる「三田文学会総会」と「三田文學新人賞授賞式」、読書会「三つの顔を持つ作家 瀬戸内寂聴」のイベントレポートも掲載しました。

会報誌は、三田文学会会員に各号の雑誌と共にお送りしています。
ちなみに会員特典は……
・年会費10,000円(学生会員は5,000円)
・年4回の雑誌をお届け
・会員限定の情報として、雑誌と共に会報誌を送付
・三田文學メールマガジンの配信(主催イベントやその他催し物のご案内)
・三田文学会総会、三田文學新人賞授賞式、会員限定企画、懇親会へのご参加が可能
・『三田文學』本誌の随筆欄「ろばの耳」、会報誌への寄稿
・『三田文学名作選』やオリジナルグッズの進呈

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ぜひ入会もご検討ください♪

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