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慶應カレンダー2021出来!

 早いことで今年も年末に差し掛かってきました。そろそろ、2021年のことを考え始める時期ではないでしょうか。

 年の変わり目に欠かせないのが、その年のカレンダーでしょう。当社では慶應義塾の貴重書を集めた「KEIO CALENDAR」を毎年刊行し、今年で20年を迎えました。

 例年であれば、連合三田会大会(慶應義塾OB・OGが集まるイベント)などで販売し、ご好評をいただいていたのですが、今年は残念ながら中止となり、大々的な販売機会が少なくなってしまいました。今回は少しでもこのカレンダーの魅力やこだわりを皆様に知っていただくべく、監修の慶應義塾大学名誉教授・関場武氏に20年を振り返り、その思いを執筆していただきました。

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監修者の目から見たKEIO CALENDAR 20年の変遷~そしてこれから

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監修者 慶應義塾大学名誉教授 関場武

 KEIO CALENDARが発刊されてから20年になる。そもそものきっかけは、1996年慶應義塾がグーテンベルク聖書を高額で購入し、海外所在のそれとの比較研究のためプロジェクトチームを起ち上げデジタル化へ向けての研究を始めたことにある。だからという訳ではないが、はじめの頃は洋物が多く、グーテンベルク聖書などは、2000~2004年、2006年、2008年と表紙を飾り、2007年、2009~11年も、表紙は洋物であった。
 判型ははじめA3、取り扱いの利便性を考え、2002年から今のA4判(見開きA3判)となった。この間写真撮影は金子桂三、岩木登氏、デザインは宮川なつみ、鈴木衛氏。解説の英訳は近年では文学部英米文学専攻教授の松田隆美氏に御願いしている。
 そして、申すまでもなく編集・制作の場で、慶應義塾大学出版会の方々――及川、奥田、野田、大石氏らに多大のご尽力を仰いでいる。歴代の経営陣が、温かく見守って下さっているのも有難いことである。また、資料掲載に当たっては慶應義塾大学図書館貴重書室担当の筒井氏、倉持氏ら、慶應義塾大学附属研究所斯道文庫の方々にも多くのご支援・ご協力を頂いている。
 掲載資料については色々な思いがあるが、印象に残るものを二、三あげると、2007年、2008年に出したC.A.ストサードの『中世イギリスの墓の彫像』――カレンダーにお墓は……と言ったのだけれど、編集部野田桜子君の強い要望で使うことにし、また、小生が一時期幼稚舎の山田文庫の目録作成を手伝っていたこともあって、2012年には同文庫から楠山正雄の『大男と一寸法師』中の「小さいプッセの話」と久保田万太郎の『一に十二をかけるのと十二に一をかけるのと』を採用、解説を幼稚舎司書教諭の白井文子氏に依頼したことも思い出深い。

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C.A.ストサード『中世イギリスの墓の彫像』2007年6月

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楠山正雄「小さいプッセの話」(画とお本の話3『大男と一寸法師』)2012年10月

 小生は当初から資料の選定・解説に関わっていたが、本格的に携るようになったのは2004年から、責任の所在を明らかにするために監修者として名前を出すことになったのは2012年からである。
 選定のコンセプトは、まず、不特定多数の方が日々目にされる暦であることを前提として、不快感・嫌悪感を催すようなものは避ける。洋の東西を分かたず残虐なもの――処刑や戦闘場面は除く。例えばそれがいくら豪華なものであっても凄惨な場面がある絵巻の「酒呑童子」などは対象から外す。また、「百鬼夜行図」なども忌避する。そして、役者絵、美人画なども好き嫌いがあるので、東洲斎写楽の有名な〔三世市川高麗蔵の志賀大七〕〔市川鰕蔵の竹村定之進〕なども対象から外した。
 となると、迫力に欠けるものの陳列と思われるかもしれないが、そこは我が慶應義塾が誇る名収蔵品の数々――本物が放つ力は絶大である。洋物もインキュナブラ(西洋初期印刷本)や中世西洋写本類といった立派なコレクションを積み上げているが、和物で言えば、元本塾名誉教授高橋誠一郎氏が永年蒐集された浮世絵コレクション、文学部図書館学科で訪問教授として教鞭をとられたGeorge S.Bonn教授の明治錦絵コレクション、それにこれも永年の蒐集にかかる歌書・物語・漢籍類、大学附属研究所斯道文庫所蔵の貴重文献その他、枚挙に暇無い。とりわけ、カレンダー制作に当たって鈴木春信の「風俗四季哥仙」や葛飾北斎の「富嶽三十六景」、歌川広重の7種もの「東海道五十三次」など、高橋コレクションから受けた恩恵は計り知れない。それらを季節に合わせて配列して行く作業は快適であった。近年外国では浮世絵がブームということもあり、カレンダーを通じて日本文化に触れる留学生も少なからずいるようである。
 洋物は松田氏に御願いして季節の移ろいに関係のある時禱書などを出して頂いているが、丸善で開催されている慶應義塾図書舘貴重書展示会に出陳のものを拝見して、僣越ながらこれとこれをといった具合に私が掲載文献を指定させて頂いてもいる。

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「ラテン語時禱書」2021年9月

 次に意識したのは、慶應義塾キャンパスとの位置関係である。資料との関係で、どうしても三田キャンパスが中心となってしまうが、2017年7月、広重の「名所江戸百景・高輪うしまち」、同2019年2月の「名所江戸百景:愛宕下藪小路」、2020年2月の「〈東都名所〉芝赤羽根之雪」、2013年1月四代歌川国政の「〈東京新橋〉鉄道繁栄并高輪遠景」などがそれであり、2011年5月「名所江戸百景・広尾ふる川」は勿論幼稚舎を意識してのこと、さらに2014年8月の保永堂版「東海道五拾三次・白須賀:汐見坂」の解説では、三田キャンパス近くにある潮見坂に言及、2020年11月では、慶應義塾女子高等学校の敷地が田安徳川家の邸跡である関係から、同家から寄託の「庶物類纂」を掲載している。

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歌川広重「〈東都名所〉芝赤羽根之雪」2020年2月

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歌川広重「東海道五拾三次・白須賀:汐見坂」(保永堂版)2014年8月

 解説は字数の関係もありどうしても説明不足になったり、解釈の違い、誤記・誤植なども生じているが、何卒ご寛恕の程を御願いしたい。また状態の良いものは、時に慶應関係者所蔵のものを使用したりしているが、これもお許し願いたい。2016年12月用に図書館所蔵の『星学初歩』を閲覧した際、同書に「関場」の三文判が捺されていたのには驚愕した。決して小生がなせる業ではなく、祖父が蘭学・本草関係の文献を蒐めていたことに起因するものであることを申し述べておく。
 頭光(つむりのひかる)という小生にとって親近感のある撰者名にひかれてではないが、2016年3月に採用の喜多川歌麿の絵入り狂歌本「『普賢像』吉原仲の町」の遊女たちが茶屋の二階から満開の桜越しに花魁道中を見物している図、同10月「〈木曽御料林〉伐材絵巻」の大きなやかんを囲み木こり達が車座になって弁当を使っている光景(ちゃんとウーバーイーツならぬ弁当運びの少年も描かれている)、同4月の「東京上野髙崎街真景」の鮮明な俯瞰図、2010年3月の広重・保永堂版五拾三次の「土山・春之雨」(広重描く大名行列は暗く重苦しいものが多い)等々、見れども飽かぬ図も多いが紹介はこれまでとする。2021年版も、新型コロナでオンライン授業が大はやりの教育現場を憂うる関係図などを含め、精一杯良品を選んであるので乞うご期待である。カレンダー向きの慶應義塾所蔵の文献はまだまだ沢山ある。制作意欲があれば、このカレンダーもずっと続いて行くことであろう。

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喜多川歌麿の絵入り狂歌本「『普賢像』吉原仲の町」2016年3月

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歌川広重「東海道五拾三次之内・土山・春之雨」(保永堂版)2010年3月

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見開きA3判の壁掛けタイプ、定価1000円(税込み)。
使い勝手も良いです!

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