反論: 日本人だけが今もマスクを外せない 欧米との差を生んだ理由は「言語」にあった
オレゴン大学の出丸先生から連絡があり、ネット上に掲載された記事が音声学的な観点から明らかに間違っている議論に基づいていることから、連名で反論させて頂きます。当該記事はこちら:
https://news.yahoo.co.jp/articles/5459bfe1222cfca308cfc69b4dd56437a8462c2a?page=3
日本人がマスクを取らないのは日本語の音声学的特徴に起因するとしています。
最も問題の箇所を引用します。イタリアに長く住むオペラ歌手の意見として: 「日本語は口先をわずかに動かすだけで、ほとんどの意思疎通が可能ですが、それは発語する位置が口先だから。一方、欧米の言語は舌の付け根のほうで発語し、口内をかなり動かして言葉にします」 と主張されています。
この主張は、音声学的には明らかに間違いです。 舌の奥(舌背)を使う音:[k], [g], [u], [o] 舌の根元を使う音:[a] 口蓋垂付近:[N] 喉頭・咽頭付近:[h] 唇を使う音:[p], [b], [m], [w] など、「舌先以外」を使って出す音は日本語にも多く存在します。
また以下のような主張もなされています: 「一方、日本語は表情筋をほとんど動かさずに喋れて、それで十分に意思疎通ができてしまう。韓国語や中国語と比較しても、圧倒的に表情筋を必要としません。」 我々は、この主張に対する科学的な根拠を存じておりません。
当該記事は、日本人がマスクを取らない原因を「言語の構造に起因している」と結論づけています。 この結論は、①日本語は舌先しか使わないという間違った論理②日本人は表情筋を使わないで意思疎通をしているという科学的根拠のない論理に依拠しているという点を指摘いたします。
出丸 香 (オレゴン大学)
川原繁人(慶應義塾大学)