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こんにゃく問答 〜オランダ・前編〜

ニューヨークに住んでいた頃、通りを歩いていると、中国語や韓国語で挨拶をされ声をかけられるというのがよくあった。もちろん、日本語で挨拶されることもあったが、近づいてくる中には、俺は、僕は、アジアの複数の言語で挨拶だけならできるといったヤツも少なからずいた。実は、単にフレンドリーなヤツ、ナンパなヤツ、もしかしたら差別的なヤツ、様々だった。

そこまで頻繁ではなくとも、オランダでも、同様に近づいてくるヤツはいる。そんな時、どう対応するのが正解なのかは未だわからなく、大抵は、適当にあしらうか、無視をしている。

数週間前の話だ。その日は、限られた時間に複数の用事を済ませる必要があったため、早足でアムステルダムの中心部を歩いていた。

「你好、、、中国人吗?(こんにちは、中国人ですか?)」
小さな声で、中国語で話しかけられたような気がした。

一瞬のことだったこともあり、私は、いつものように、またかと無視をした。通り過ぎ、少し振り返ったが、そのまま先を急いだ。

どうやら、話しかけてきたのは、品の良い艶のある木の杖をつき、グレーのジャケットで身なりも整ったアジア系のお爺さんだった。

私は、すぐに、無視をした自分が冷血なヤツだと感じ始めるのだった。というのも、確かに、私は中国人ではないし、中国語は話せない。一方で、彼の中国語を理解することができたのに、わからないフリをしたのだった。実は私は、短期間ではあるが、中国語を勉強していたことがある。香港に住んでいた頃には、仕事で、中国のみならず華僑の方が多い東南アジアの国々へ出張し、中国語に触れる機会も頻繁にあった。「我是日本人(私は日本人です)」くらいなら、中国語で言えたはずだった。

もしかしたら、何か困っていたのかもしれない。それか、無視をしなくても、結果として、やはり、こんにゃく問答のようになっていただけかもしれない。

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