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経済2016年

【別解(Bのみ)】

 次世代のためのコストは、リベラルな自由と矛盾しない。確かに、リベラルな自由においては自らの利益となるもののみを個人の目的とすると考えるかもしれない。しかし実際はそうではない。すなわち、他者の利益を自らの目的であると認識する例は無数にあるのだ。
 その例として、行動経済学における利他性の概念がある。古典的経済学は、市場における全ての人間を、自らの利益のみを追求する合理的人間としていた。しかし、近年の行動経済学による利他性の概念は、必ずしも人間は自らの利益のみから意思決定をしているのではないことを証明した。例えば、募金活動がその一例だ。
 以上より、次世代のためのコストは、リベラルな自由と矛盾しない。(300字)

【別解の意図】


今回の別解においては、自己統治の延長として他者の利益を追い求める人間の傾向について行動経済学からの考えを転用しました。

行動経済学とは、簡単に言えば、「人の意思決定って意外と感情に流されているんじゃない?」ということを解明した学問で、その定義としては、

行動経済学とは、ホモ・エコノミクスを前提とせず、人間の心理的、感情的側面の現実に即した分析を行う経済学のことをいう。


とされている学問です。2017年にノーベル賞をとったことでも有名ですね。

とはいえ、どんな学問なのか実感がわかないと思うので、そのわかりやすい事例を4つほど書いていこうと思います。


1.プロスペクト理論


まず質問ですが、

A:確率80%で4万円が得られる
B:100%確実に3万円が得られる


の二つの選択肢があるとしたら、あなたはどちらを選びますか?

また、もう一つ質問ですが、

C:確率20%で4万円が得られる
D:確率25%で3万円が得られる


ならどうでしょう?

実は多くの実験から、Bの「100%確実に3万円が得られる」とCの「確率20%で4万円が得られる」と答えた人が多いことがわかっています。

しかし、古典的経済学が人間は合理的な意思決定(その場でもっとも高確率に利得を増やせる選択肢を取る意思決定)をすると想定していたのに対して、これらの実験結果は矛盾していることがわかります。

どうしてかというと、x万円のクジに当たった時に感じる満足度を「満足度(x万円)」とした時、最初の選択でBのクジを選ぶ人は、

満足度(3万円)>満足度(4万円)×0.8

と古典的経済学で表すことができるからです。CとDの話でも同じで、古典的経済学と理屈が矛盾していることがわかります。

つまりこれらから言えることは、リスクのある選択を選ぶ時に、人は確実なものを好んで選ぶということなんです。

行動経済学的に言えば、

客観的確率が高くなればなるほど、主観的確率は低くなり、客観的確率が低くなればなるほど、主観的確率が高くなる


ということがわかります。

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2.現在バイアス

これは簡単に言えば、現在得ることができる利得を最優先にして人は意思決定してしまうという理論です。

これについても少し質問をします。

A:今1万円もらう
B:一週間後に1万100円もらう。


と、

C:1年後に1万円もらう                       D:1年と1週間後に1万100円もらう。


だんだんわかってきたかと思うんですが、この質問は、

AとDと答える人が多いことが実験でわかっています。

この実験結果は、人間が現在地点を基準に得る利得を選択しているということになります。

というのも、古典的経済学によれば、Aの選択肢は1週間で1%利得が増えているのにその選択肢を選ばないのに対して、Dでは同じ条件で利得が増えるのにもかかわらず、この選択肢を選んでいないのです。

イメージ的にはこんな感じでしょうか?(マジで下手ですみません。w)

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3.互恵性と利他性

この考え方こそ、今回の別解において書いた考え方になります。

利他性には、他人の満足度が上がると自分の満足度が上がるとする純粋な利他性と自分が他人のために行動をしたという事実そのものから満足を感じるウォーム・グローと呼ばれているものがあります。

その定義について説明すると、

純粋な利他性は、募金をすることによって誰かが幸せになるという感覚から満足度を得ること、
ウォーム・グローは、募金をしたという事実そのものから満足を得ることを言います。

ウォーム・グローの具体的な話としては、例えば、あなたがあるNPOに一万円募金したとしますね。その後にあるニュースが入ってきました。それは、そのNPOに対して国が1億円支援したというニュースです。それを聞いてあなたは「なんかもやもやするなあ。。」とか「俺の募金役に立ったのか??」みたいに思いませんか?

普通に考えれば、自分が一万円寄付したのは事実ですから、純粋な利他性に立って募金しているなら満足度は下がらないはずです。それなのに、あなたの満足度は下がっていく。。これこそが、ウォーム・グローなのです。

4.ヒューリスティクス


これは、合理的な意思決定をすることが難しかった場合に、直感的な意思決定を頼りにしてしまうことを言います。

これについては、事例がかなり多いのでなんとも言えませんが、代表的な事例としては、サンクコストの誤謬(ごびゅう)と呼ばれるものがあります。

サンクコストとは、一言で言うと既に支払ってしまってもう戻ってこないコストのことを言います。

例えば、あなたはある旅行代理店で7万円の北海道旅行パックを買ったとしましょう。また別の日に、5万円の沖縄旅行のパックを購入した。しかし、よく見てみると北海道旅行と沖縄旅行の日程が被っていることにあなたは気づきました。あなたは、北海道よりも沖縄に行くことが好きだ。さて、あなたはどちらを選ぶでしょうか。

この例において、沖縄の方が好きだけれども、北海道旅行のパックに多くの料金を払ってしまったから北海道のツアーに参加するという人が多いのではないだろうか。しかし、北海道に払った7万円も、沖縄に払った5万円もどちらも帰ってこないのです。それなのに、金額によって旅行先を決めてしまう。これこそがサンクコストの誤謬なのです。

行動経済学のまとめ


行動経済学は以上のように、

人間は合理的にすべての意思決定をしているのではなく、その場のバイアスだったり、感情に流されて意思決定しているということ

を証明して見せたのです。

どうして行動経済学なのか


最後に、どうしてここにきて僕が行動経済学を交えて小論文を書いたのかというと、それは2017年に行動経済学がノーベル賞をとったまさに1年後の2018年に行動経済学をテーマとした小論文が出ているからなのです。

つまり、慶應経済はいわゆる赤本に乗っている解法を使うことはもちろん大事だし、予備校で教えてくれる現代文的な力も大事なのですが、それと並んで経済学の知識も必要だということなんです。

だからこそ、僕は今回のように予備校では教えてくれない背景知識について話してみました。