君はSteamのAIエロゲを知っているか

文責:みん

注意

  • 本記事はセンシティブな内容と軽微な皮肉を含んでいます。

  • 本記事ではSteamでAI使用作品の配信が許可される前に、無断でリリースされたAIゲーム群について言及しています。

はじめに

「AI」という言葉が、近未来的な魅力を失ったのはいつ頃からだろうか。ヒトとロボットの違いなどを問いかけてきたSF的ガジェットとしての「AI」は、今やパターン学習に基づくコンテンツ生成ツールの代名詞として、意識の高い人々の空虚な合言葉となってしまった。その一方で「AI」が、今この瞬間にも目まぐるしい成長を続け、最先端テクノロジーとしての確かな実用性を示し続けているのも、また事実である。

アダルトコンテンツも、血脈を絶たんとする者達の血と涙と粘液を吸い上げ発展し続けている。インターネット上での交流とエロイラストの共有、仮想現実での性交渉、ドラゴンと自動車の性行為など、伝統と技術の交点には常にアダルトコンテンツが存在していた。もはや必然とも言える巡り合わせによりAIとアダルトコンテンツが結びついた現在では、インターネットはAIが生成した無数のエッチイラストで満たされている。

そこで本記事では、最先端技術たる生成AIとアダルトコンテンツの交点にしてインディーゲーム業界の底辺、AIエロゲの現状について、Steamでの現状を紹介する。
最初の方は大まかにSteamの現状を説明しているので、Steamにある程度詳しい方は「低価格エロゲを支えるもの」あたりから読み始めてもらえると良いかと思う。


Steamのエロゲについて

Valveの方針とデベロッパーの対応

Steamは、アメリカのValve Corporationが開発・運営を行う、世界最大のPCゲーム配信プラットフォームである。誤解を恐れずに例えるなら、超巨大なインターネット上のゲーム屋さん、といった印象だろうか。あらゆるジャンルのゲームが配信されており、現在PCゲームを遊ぶ上でなくてはならない存在である。

Steamでは様々なゲームが配信されているが、運営するValveは当初、アダルトコンテンツを含むゲーム、いわゆる「エロゲ」の販売に否定的だった。しかし、PCゲーム業界においてエロゲは一大ジャンルであり、多くのユーザーがSteamでのエロゲ配信を希望した。
そこでメーカーは「エロゲの配信は本来規約違反なので、Steam上ではアダルト要素を除いたゲームを販売し、Steamとは関係のない外部Webサイトでエロシーン用の無料パッチを配布する」という抜け道を用いた。抜け道を利用しなければエロには触れられない状況は、2017年頃まで続いた。

風向きが変わったのは2018年のことだ。Valveは方針を転換し、「違法なコンテンツ」および「明確な荒らし行為」を除いて、あらゆる種類のコンテンツの配信を許可する考えを示した。かねてよりアダルトコンテンツを理由にした配信規制には、「ゲームジャンルごとに対応に差がある」「明確な基準やガイドラインが存在しない」などの批判意見が寄せられており、これらが方針転換の理由とされている。

以降は、Steam上でもデフォルトでアダルトコンテンツを含むゲームが多数配信されるようになった。もちろん、他のゲームと完全に同列に配信されている訳ではなく、成人向けコンテンツに特有の年齢確認は行われている。

Steamの低価格エロゲの例

創作において、あらゆる名作は無数の駄作の上に成立する。ストーリーやゲーム性に優れた多くの名作エロゲが配信されている一方で、Steam上では大雑把な作りの低価格エロゲも次々と生み出されていた。既存アセットを流用しただけの簡素なステージを裸の女の子が走り回る3Dアクションや、申し訳程度のミニゲームをクリアするとご褒美エロイラストが拝めるパズルゲームなどだ。
以下に幾つか例を紹介しよう。成人向け指定の影響でプレビューがErrorになっている場合もあるが、気にしないで欲しい。

Adorable Witch」では、地形に突き刺されたピンを抜いて目的達成を目指すという、謎スマホゲームの広告で何百回も見たであろうパズルゲームを遊ぶことになる。パズル自体は見た目通りの面白さだが、Live2D的にぬるぬる動くHシーンのクオリティがとても高く、「非常に好評」の評価を受けている。

キンキラロリの犬舐め」は、光り輝く全裸の美少女を操作し、襲いくる犬の大群から逃げ回りつつ迎撃するアクションゲームである。迎撃システムが全自動なのでただただ逃げ回るだけなのだが、絵面は結構面白い。でも犬が可哀想な気はする。

Hentai Killer」は、ゾンビみたいな動きの美少女を下着美少女を操作して撃ち⚪︎していくゲームだ。TPSなので、自機の美少女のお尻をずっと眺めていられる。ちなみに敵の美少女を撃っても血は出ないので安心して欲しい。

低価格エロゲを支えるもの

Steamは数多くの「ゲーム」が販売される場所だが、低価格エロゲにおいてはゲーム要素は「おまけ」扱いされた。例えるなら、食品玩具のラムネや、ライブハウスのワンドリンクや、握手会チケット付きのCDのようなものだ。当然、購入者の多くはそれを了解した上で購入していた。おまけのラムネが妙に美味いなどの「嬉しい誤算」も稀にあるだろうが、それを目当てにエロゲを買う物好きは少ない。

本来、作り込みの甘いゲームは売れない。大量のゲームが配信されている現在のSteamでは、個人制作ゲームが一定以上の利益を得るのは丁寧に作り込まれた秀作であっても難しい。ゲーム性を「おまけ」とする低価格エロゲにおいては尚更だ。
しかしその困難さが、メインディッシュたるエロ要素に一定以上のクオリティを担保させることに繋がり、低価格エロゲが時間と欲を余らせた紳士たちに強く支持される結果に繋がった。また、アセット流用の3Dゲームも、大雑把な作りだからこその面白さがあり、一部の愛好家に高く評価されていた。
このように、画像生成AIが猛威を振るう以前からSteamでは低価格エロゲが多数販売され、一定数のファンを獲得していた。

AIイラストの猛威

イギリスのStability AIが2022年にリリースしたStable Diffusionを契機に、画像生成AIは一大ムーブメントを引き起こした。生成された画像のクオリティの高さは目を見張るものがある一方で、多くの写真・イラストを著作者の許可なく学習に利用したのではないかという点が物議をかもすことになった。議論・問題を抱えつつも、生成AIは多数の創作物に影響を与えていったが、エロゲもまた例外ではなかった。

ゲームはシナリオ・イラスト・音楽・プログラム等の複合芸術であり、「とりあえず完成させる」上でのハードルが高い。だが、生成AIを活用すれば、知識・スキルの無い人でも見栄えの良いイラストや音楽を簡単に用意できる。生成AIは確かに権利上の懸念点を孕んでいるが、素材確保のハードルを下げられる点では、ゲーム制作向きの非常に有用なツールと言えた。そのため、生成AIを活用したゲーム制作は、インディーゲーム業界、そして低価格エロゲ界の更なる発展に繋がると思われていた。

しかし、実際に低価格エロゲ界に現れたのは、生成AIによるエロイラストにおまけ程度のゲームを付け足した、恐るべき虚像の群れであった。ラムネ付きラムネを玩具の値段で売りつけるが如き所業だ。Steamを運営するValveは権利関係の不透明さを理由にAI使用作品に否定的な見解を示していたが、残念ながら多くのAIエロゲは「AIイラストを使用していることを伏せて」販売された。
それでもエロイラストを用意してくれるゲームはまだ良い。実際には、AIイラストの見栄えの良さで釣った上で「R15にも届かないくらいのセクシーイラストが手に入るゲーム」をアダルトゲームと称して配信するパターンが非常に多かった。

エロの質が下がれば、「おまけ」と言えどゲーム性に目を向けるしか無くなる。しかしAIエロゲ界はゲーム性においては、ゲーム業界が3000年前に通過した場所で反復横跳びを繰り返している状態だ。一般ゲーマーはもちろん、多くの紳士ゲーマーにとっても、これらのゲームは邪魔な存在だった。

値札の付いたゴミの氾濫に対し、Valveも質の低いゲームをSteamストア上からまとめて削除するなどの対策を取ったようだが、残念ながら多くのAIエロゲは死滅せずに生き残っている。

SteamのAIエロゲたち

低価格エロゲに第一に要求されるのは「エロ」である。しかし、おまけのラムネに期待するような物好きも少ないだけで存在はしている。例えば私である。
以下に、現在Steamで配信されているAIエロゲからいくつかを抜粋して紹介しよう。記事公開後に配信停止されるかもしれないが、その点についてはご了承願いたい。

具体例1:絵あわせパズル

AI生成のエロイラストを利用したゲームの中では、パネルに分割されたイラストを並べ替えて元の形を目指す絵合わせパズルが主流ジャンルである。

上記の「Hentai CatMaid」などをリリースしているHentai Worksさんは、SteamにおけるAI絵合わせパズルゲームの老舗と言える販売元だ。ゲームシステムはもちろん、ストアページのPVに至るまで全く同じスタイルのゲームを、使用イラストとBGMを変えながら大量にリリースしている。いずれも質が高いAI生成R18絵を拝むことができ、AIエロゲの中では非常に善良な類と言える。
最近ではタイトルにHyperが付いた「Hyper Hentai Sister Nun」などを新シリーズとしてリリースし始めたが、Hyperがタイトルに付いたこと以外に大きな変化はない。恐るべき胆力である。

「いくらエロのおまけと言えども、パネルを並べ替えるだけのパズルは退屈すぎる」という声に呼応するかのように現れたのがこちらの「回転木馬」である。なんとパズルのパーツが六角形になり、さらに揃えるためには回転させて適切な向きに合わせる必要ができたのだ。ゲーム性の面で驚くべき進歩と言える。ちなみに、BGMが鳴らない、イラストがR15程度であるなど、他の部分では著しく劣化している。

具体例2:新たなるゲーム性

「ゲーム中でエロイラストが使われている」「特定の条件を満たすことでイラストが解放される」というスタイルのAIエロゲも多い。

Hentai Blackjack」は、CPUとブラックジャックで延々対戦するだけのトランプゲームだ。トランプの絵柄がAI生成のエロイラストで、条件を満たせばギャラリーモードでイラストを拡大して鑑賞できる。ただ、イラストは一応R18らしい内容ながら、似たような構図が多くバリエーションに欠ける。ちなみに、ブラックジャック中は何故か勝利のたびに喘ぎ声が聞こえる。

数独交響」は、数独をクリアするたびにAIイラストが解放されるゲームだ。だが、数独を名乗っておいて回答が一意に定まらないという衝撃の作品である。最初に提示された数字に矛盾しない範囲で、自分で考えて数字を入れていくスタイルはこれまでの数独にはない新たな緊張感を味わえる。イラストは残念ながらR15程度である。

具体例3:驚くべき商法

通常のゲームではあり得ない驚きの商法を用いるAIエロゲもある。「Crazy Sprint」と「Running Crazy」だ。ストアページが削除済みなので、タイトルだけ記載させてもらう。ゲーム性は、スマホゲームでラン&ジャンプ系と呼ばれているゲームに近い。合計獲得スコアに応じてAIエロイラストが解放されていく。

なぜ2つのゲームを同時に紹介したかと言うと、両者がゲームシステムにBGM、SE、UIやゲーム画面の使用素材に至るまで完全に一致しているからだ。「タイトル画面のデザインが違うだけの全く同じゲームが2つある」のを想像してもらえるとわかりやすいだろう。解放されるAIイラストは異なるが、R18どころかR15にも満たないレベルの美少女イラストであり、"実用性" は低い。
同じゲームシステムでイラストだけ変えたものを多数販売するのは、先述のHentai Worksさんもやっていることではある。しかし、イラストがR18では無い点と、両作が異なる販売元から配信されている点が異なる。つまり制作者は、使用するAIイラストを変えただけの全く同じゲームを大量に用意し、エロ要素は無いのに成人向けであると詐称した上で、毎回販売元を変えつつゲームを売り捌いているのである。「そんなの調べればすぐにわかるのでは?」と思われるかもしれないが、ストアページでは一部AIイラストとメニュー画面だけがプレイ中のスクショとして紹介されており、肝心のゲーム画面は伏せられている(紹介前にストアページが消えてしまったのが残念でならない)。

ちなみに、僕の把握している限りでは、そっくりなゲームを販売元を変えながら販売している輩が他にもう2つほどSteamに存在している。特段アダルトではないAIイラスト集を成人向けと詐称し、ゲーム内容はそのままに販売元を変えながら売り逃げしていくスタイルは、やはり驚くべき商法と言わざるを得ない。

まとめ:SteamのAIエロゲの現状

Steamでは、エロイラストにゲームを添えた低価格エロゲが多数販売されていた。しかし、生成AIの発達によって本体たるエロイラストを安上がりに大量生産できるようになり、簡単に見栄えの良いエロゲが作れるようになった。その結果、エロもゲーム性も薄い虚像のようなゲームが乱立し、ゲーム性や販売元を偽ってまで金を獲ろうとする集団も現れた。以上がSteamにおけるAIエロゲの足跡である。

このようにまとめると、AIエロゲがSteamを汚しまくる公害集団のように思われるかもしれない。それは間違いではないのだが、実のところAIエロゲがSteamに与える悪影響は非常に小さい。
生成AIの一大ムーブメントを経た現在、大半の人は見た目でなんとなく「AIイラストらしさ」を判断できるようになり、AIエロゲは「AIだとわかった上で買う」という人が大半になった。また、AI未使用のエロゲは現在でも精力的に制作され続けており、界隈全体が大きく衰退したわけでは無い。
そもそも、名もなき販売元から突然発売されたゲームがSteam上で話題になることは非常に少ない。多くのSteamユーザーは売り逃げAIエロゲなどとは縁のないところで生活できていることだろう(同様の理由で真っ当な無名インディーゲーム制作者も話題性不足に苦労しているのだが……)。

現状のSteamのAIエロゲ界は、売り逃げを狙う外道たちが跋扈する魔境ではあるものの、購入する側は一部の物好きを除き既に立ち去っている状態だ。かつてはAIエロゲ発売直後に怒りのレビューが爆速投下されることも多かったが、最近のレビュー欄は私が投じた高評価レビュー1件だけが残る過疎地と化すことが多い。過疎化が続き利益が得られなくなれば、AIエロゲ制作者達もゲーム性を磨く方針へと転換していくかもしれない。

また「何故か回答が一意に定まらない数独」のように、予想外の面白さを提示してくれる作品に出会えることも稀にある。物好きの1人としては「AIエロゲも中々捨てたもんじゃないな」と考えている。

終わりに

本記事の執筆中、ValveからAI使用作品についての方針が発表された。「AI使用作品であることを明示する」などの条件を満たせば、AIが生成したコンテンツを利用したゲームや、作中でAIを活用するゲームの販売を認めるという内容だ。

SNS上では「AI使用を認めてしまうと、Steam上に質の低いゲームが急増するのではないか」と危惧する声が上がっている。しかし、私の考えは逆だ。そもそも、質の低いゲームで購入者を騙して利益を得ようとする輩は、AIを利用していること自体を隠す。AIをValveが認める前から、底辺以下のゲームは既に蔓延しているので、悪化の心配は不要だろう。むしろ、AI使用を公言しても問題ない、AIを適切に活用した良いゲーム群の開発促進に繋がるのではないだろうか。以上の理由から、私は今回のValveの対応は高く評価している。

真にAIが活用される日々を夢見つつ、今も私は虚像の中で暮らしている。

参照記事

Steamとアダルトコンテンツ

質の低いゲームの削除

AI使用作品についての方針


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