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人が夜ふかしをするのは、今日という日に満足していないから

人がいない街を深夜徘徊するのが好き。 もう見飽きたはずなのに、初対面に戻れたような感覚になれるから。 あー、あー、と無線で呼びかけながら、NYの五番街を肩を切って歩く。 アイ・アム・レジェンドごっこ。 一人ランウェイで、月明かりがスポットライト、とか言っちゃえるほどもう自分に酔っぱらうことはできないけど。 世界が自分を中心に回っているとナチュラルに思い込めていた頃の、酔いの残り香に浸れる気がする。 冬になりかけ、吹く風の攻撃力にバフがかかってくる時期。 公園、人体に有害な

アルコホリック・ブルー

二日酔いで最低の気分になるたび「もう絶対に飲まない」と誓いを立てる。 でもその誓いは、染髪料が頭皮を通り抜けて脳みそまで染みてそうなパッパラパーなギャルの「ズッ友」の誓いくらい軽く、不確かで。 今日も今日とて、新しい瓶の栓を抜く。 翌日には、また守られることの無い誓いを立てることになるのに。 はじめはとにかく甘くて口当たりが良いのが好きだった。 酔いが回って初めてアルコールだったと気付くような。 次はビールをよく飲むようになった。みんな飲んでるから。 「にがい」を「うま

ポテトフライ・バタフライ・キャッチャーインザライ

ティロリ、ティロリ、ティロリ。 ポテトが揚がる。 世界でイチバン有名なあのハンバーガー屋さんのフライドポテトは、揚げる前のカットしたジャガイモを水に浸して、徹底的にイモの栄養素を外に出すことで、あのカリッカリの食感を生み出しているらしい。 食べても、何の栄養にもならないファストフード。 乗っても、どこに辿り着けるわけじゃないジェットコースター。 読む前と読んだ後で人生に何の変化ももたらさない読書。 意味がないことで、むしろ意味を持つようになるもの。 ただひたすらに今を楽

Struck by the rain

徹底的に打ちのめされたい夜がある。 体を叩く雨粒が、地球の重力の存在を教えてくれる。 目を開いていることだけに全エネルギーを使い切ってしまう物理の授業よりも直感的かつ煽情的に。 徹底的に打ちのめされたい夜がある。 どういう角度からも自己弁護なんかできず、サンドバックに転生させて一生パンチングマシンの刑に処してほしい気分。 雨に歌いたくても、歌える歌も、歌う才能も無い。 踊りたくても、踊りだせるほどの度胸も、動く体もない。 そんな人間に許される唯一の手段は、せいぜい奇人

Giant Killing

魂の重量は21gらしい。 自分の中の21gは、体から流れ出る血に混じって、全て出て行ってしまった。 人が首を括って死ぬために必要な重量は、体重の3分の1らしい。 肥え太った豚のようなコイツなら、およそ30~40kgだろう。 この体の重量は33kgらしい。 何も知らないヤツらが、訳知り顔で根掘り葉掘り聞いてくるような重量だ。 タオルを縫い付けて作ったお手製のロープを手に取る。 ようやくこの時が来た。 自分の中から21gの重量が無くなる時を、この体にコイツを一撃で倒すこと

フェイスレス

ふと、窓ガラスに映る自分の姿に違和感を覚えた。 街を行きかう人々。 その他大勢の中の一人として自分がいる。 無名の群団。 自分はその誰でもあるし、その誰でもない。 そのことに焦りや苛立ちを感じていた頃もあった。 テレビや雑誌、そこから垂れ流される広告群は「特別な誰かになろう」と絶えず投げかけてきたし、それは裏を返せば「特別な誰かでなければ無価値」というメッセージでもあったから。 でも、今は安心や安堵を感じている。 自身そのものを大勢が認知して「特別」になってしまえば、も