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#3 「百冨花園」 利他の心で巡る地産地消の考え方


 グラミネ(graminée)とはフランス語で、「イネ科に属する植物」の総称です。
その解釈は拡大していき、細長い軸と穂の形を持つ花材は「グラミネ」や「グラス」と呼ばれるようなりました。

⚫︎ 未知の植物グラミネを少量多品目で生産する『百冨花園』

4000以上の種類があるとされるグラミネ(イネ科の植物たち)。
繁殖率や増殖率も高くどんどん未知の姿を見せてくれるその複雑さから、市場でも「イネ」「その他」と一言で表記されてしまい、なかなか深く知ることが難しかった。

そこで今回、福岡県飯塚市にて少量多品目でグラミネや草花の生産をしている『百冨花園』さんへ伺ってきました。

▲ 百富花園のご主人、百冨 竜さんにご案内いただきました。

農家としては若い40代という百冨さんは東京都練馬区出身。17年ほど前にお祖父さまの田んぼを改装し花農家に。

100種類以上のグラミネと草花を中心に生産をしていると同時に地産地消での地域活性を目指し、同じ志を持つ農家のおふたりと共にPodcast『radin radim radio』を配信。
生産だけじゃない新しいアプローチで農家としての役割を常に模索し続けています。

⚫︎ 「普通に作っていたら敵わない環境なので、とにかく変わったものやチャレンジをやっていく。」

「東京都出身の百冨さんがなぜ福岡県の飯塚市で、それもグラミネでやっていこうと決められたんでしょうか?とにかくとても珍しいですよね。」

百冨さん「うちは元々リシアンサス農家として始まりました。
けれど研修時代とは違い現場でやっていくには、納得できる物を生産出来ない時期が長くありました。
福岡県飯塚市は、花生産にはワーストと言っていいくらい作りづらい土地なんです。
冬は寒く夏は暑く、日射量は少なくて西日ばかり。日の出も遅い。

追い討ちをかけるように数年前からここら辺の環境も大きく変わってしまって、毎年大雨の通り道になるようになりました。」

▲ 畝を高く水の溜まる通路を広く作っているのは、大雨の被害が多いため

「環境が理由で、栽培できる植物が限られていたんですね。」

百冨さん「それで思い切って扱う品目を変えてみようと決心しました。
いろんな植物をとにかく植えては枯らして実験して、合ってる物を選んで行った結果、グラミネをやっていくことにしたんです。」

百冨さん「グラミネのあの雰囲気って僕自身好きなんです。
好きな物に対してって得意になれるでしょう?だから意欲も湧いたし、これで頑張っていこうと思えました。

そんな環境だから近所の農家さんも皆んな変わってますよ。
普通に作っていたら敵わないんで、変わったものやチャレンジをやっていこうという方が多いんです。うちもその一人ですね。」

▲ 挑戦中のエディブルフラワー。
今でもどんな植物に適応があるか実験は欠かさない

百冨さん「とにかくなんでもやってみる。
発芽率0.1%の品種や、この地域では作れないと言われている『秋明菊』も今年から挑戦しています。
続けていると失敗だけじゃなくて、一季咲きの植物が環境に適応して二季咲きに変化するという嬉しい誤算があったり。教科書通りにいかないこの土地ならではの面白さや発見があります。」

⚫︎ 生命線である『収穫』。気の遠くなる手作業を加えて価値を上げていく

「イングリッシュガーデンの植え付けに使うヨーロッパの大型品種が多くて、全て見るだけでも大変ですね。これをおひとりで管理されてるんですか?」

百冨さん「はい、従業員は雇わず、たまに奥さんに手伝ってもらいながら基本的にはひとりで管理しています。

納品も業者に頼んで終わり、じゃなくて自ら市場に足を運ぶので。そこで仲卸の人にいろんな植物の提案が出来たり、業者じゃ送れない(2-3m超えのパンパスなど)大きな植物を納品できたり。
自分が動くことで出来ることも増えるので、なるべく全部に関わっていきたいんです。」

百冨さん「一番大変なのが、収穫。
そこが自分の生命線で、他の生産者では出来ない部分なんですが、普通は鎌で一気に刈り取って、使えない部分や若い部分も含めて全部まとめてしまうんです。
自分は70cmという規格だったらその長さで、良い開き具合(切り前)で、見極めながら一本ずつ一本ずつ収穫しています。」

「一本ずつ!!」

▲ 真ん中に生える一本を目指して刃を入れる。
試させてもらったけど全然出来なかった。

百冨さん「それだけじゃないですよ。
グラミネって上から咲いていくので、下まで全部開いた時には上の方がボサボサになっていたり、色が褪せてしまったりします。
なのでうちでは、この段階(収穫の少し前)に一手間加えて剥いておくんです。細かいしコツも要りますけどね。
そうするとお客さんの手元に来た瞬間に丁度全て開き切る。
これも一本ずつ、手作業でやっていきます。気が遠くなりますよ。でもそれが価値になるんです。」

▲ 上の方から段々と開いていくグラミネに
最適なタイミングで手を加えていく

⚫︎ 生産者と地域のお店、そしてお客さんがトライアングルになるような『地産地消』を目指す

「Instagramを拝見していると、PodcastやPop up eventなどに自ら出て行き活動されている様子が、従来の農家さんの印象と違うなと感じました。
そのモチベーションというか、やっていこうというビジョンは前からあったんでしょうか?」

百冨さん「元々この地元に貢献していきたい気持ちはありました。
だけど農家に出来ることと言えば、地元の花屋さんに卸していくことくらいしか思い付かなかった時に出会ったのが、今のPodcast『radin radim radio』のメンバーです。」

百冨さん「それから花農家に限らないコミュニティが広がっていき、地元のシェフやパン屋さん、米、野菜農家など様々な生業の面白い人たちが集まってくるようになって、今後はそんな人たちと『村』みたいになっていきたいと考えるようになりました。」

「ひとりきりでは進んでいかないこと、私も身に沁みます。素敵な繋がりですね。」

百冨さん「こうして励んでいる人たちと、地元で循環していきたい。それが自分の考える『地産地消』です。

地元のレストランに、うちのグラミネを飾らせていただいているんですけど、目的は『百冨花園のショップカードを置いてください』ではないんです。
代わりに近所の花屋さんを紹介してもらって、『ここで百冨花園の植物を買ってください』と言ってもらうようにしているんですよ。

そうしたら生産者と地域のお店、そしてお客さんでトライアングルが出来るでしょう。植物を通じて誰もが嬉しいという出来事になるんです。
自分だけが豊かであれば良いというのは違うんです。」

この日は6月の蒸し暑い日で、見学していると奥さまが冷たいお茶を買って出してくださった。
(しかも人数より多い種類で、好みを選べるようにとの気遣いも)
そして帰りは博多駅まで出ている列車の駅まで、車で送り届けてくださった。

『初対面なのに、ここまでして頂けるなんて…』と恐縮していたら、百冨さんはあっけらかんとした様子でこう仰いました。

百冨さん「自分たちもよそ者(東京出身者)で、たくさんの人に助けてもらって、支えられてきたんです。
だからキリンさんもいつかどこかでこうしてみてください。そう循環してもらえたらそれでいいんです。」

全ては利他の心で巡っていく。


百冨花園 (momotomi kaen)  /  instagram : @momotomi_ryo
keine.  /  instagram : @ja.kirin


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