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君へ

それは私が中3のとき。

私には好きな人がいた。
でも彼には長年付き合っていた彼女がいた。

ところがある日。

彼女と別れたという噂を聞いた。
チャンス到来だ!

とはいえ、彼に好きになってもらわなくてはならない。
むむむむ。


そんなある日の教室。
そこにいたのは私と友人、彼とその友人。
彼の友人が彼のノートをいたずらっぽく取り上げて読みだした。
それは彼が書いた詩だった。
女の子あての。
彼は好きなの人のことを「百合の花」と呼んでいた。
今思うと15才にして、なんてポエマーなの?!

そして、そんなポエムを読まれている間、彼はじっと私の方を見つめていた。
「やめろよ」と友人に言いながら。

帰宅後。
あの時なんで彼はずっと私を見ていたのだろう?
え?もしかして?もしかして彼も?
え?どうなの?
いやでも、私百合か???

という思いで玄関に立ちつくし、頭の中はぐるぐると解決しない思いが駆け巡っていた。

懐かしいな。なんて純な私。

受験を数ヶ月後に控えたある日。
想いを抱えきれなくなった私は一か八かで友達に彼を呼び出してもらった。
こういうところは今にも通じる。
(なにしろ、時期よ時期!)

最上階の階段の踊り場。
彼はにんまりしながらゆっくりと階段をのぼってきた。
そして私は言う。

「好きです。」

ほどなくして付き合うことになった。

告白した場所で当時地元の野球チームの日本シリーズを2人で聴いた。
確か掃除の時間だったと思う。
要はサボりだ。2人だけの秘密の。

イヤフォンを片方ずつ耳に入れ、試合経過を聴き入った。
コードで繋がる彼と私。
近い距離に鼓動も速くなる。

帰りも一緒に帰った。
まだ銭湯が地元にあった。
その前を通った時、お隣のおばさんに出くわした。
少し恥ずかしかったのを今でも覚えている。
照れるのよ。おばさんも何も言わないし。

そして、当時の一世一代のイベント、バレンタインがやって来る。
ところが受験生の私。
チョコレートは母に買ってきてもらった。
何しろ母と私は趣味が似ているので問題はないのだ。
「気持ち」以外は。
(要は自分で買ってこそ、なのにね。)

案の定、母が迷って2つ買ってきてくれたチョコはどちらも捨てがたく、私は両方あげることにした。
2つも渡す人いる?と思いながら。

彼をイメージした深緑のマフラーとお手紙と共に渡すと、彼は照れた顔をしながら受け取ってくれた。

お返しにはハート型の可愛い箱に入ったお菓子と指輪型をした時計をもらった。

クラスで公認となった私たち。
最後の席替えで、私は彼と遠くなってしまった。
すると、同級生の男子が、隣にならなくていいの?と席替えの席替えをしてくれた。無事彼の隣に。
今考えるとなかなかの図々しい行いにも思えなくもない。

受験後、私は第一志望へ、彼は第一志望以外へと進学することになった。

そしていよいよ卒業の日。
誰からともなく始まった「好きな人の第2ボタンをもらう」というイベント。
私はボタンと共に名札ももらった。
こんなイベント今は昔なのかな?
古風だね。

この時のものは今でもクローゼットの中にあの指輪型の時計とともにハート型の箱の中にしまわれている。

お互いがそれぞれの道に進み始めた頃、ホームの反対側。
私の前に彼が立った。
いつしかそれが日課になった。
何も語らず、目の前に立つ彼と私。
幸せだった。

そんな幸せな日々を私は壊してしまった。

ある日の改札前。

彼が向こうから歩いてきた。
私は、告白したにもかかわらず、もともと恥ずかしがり屋だったこともあり、私から声がかけられなかった。

進学してまだ日も浅い日のこと。

彼もまた私を認識していた。
私は、自分から声をかけられなかったため、声をかけてくれないかな、
と、他力本願を発揮してしまった。

彼はスッと改札に吸い込まれていった。

それ以来、彼が私の前に立つことはなくなった。
彼は男子校、私は共学。
もしかして何か誤解をさせてしまったかもしれない。
ずっと目の前に立っていてくれたのだもの。

今なら、LINEという術がある。
あの頃にあったなら、声をかけていたなら、今他の道を歩いていたかもしれない。
でも人生には「たられば」はない。

そんなリアルを超越して、タイムマシンがあったらあの頃に戻って言いたいな。

「おはよう」



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