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洞察すること 読書記録『風土』2024.5.22


和辻哲郎の『風土』を岸見先生に最初に勧めていただいてからどのくらいたっただろう。はじめに読んだのは7年ぐらい前かもしれない。その時は、少しだけ読んですぐに閉じてしまった。それほど、この本は私には敷居が高かったのである。
なぜにこの本を私に勧めてくれたのかがずっとわからずにいたのだが、この度、やっと読了して、その意味がわかった気がする。
何も内容や、知識のために勧められたのではないことは、わかっていたが、今回、痛感したのは、和辻哲郎という人のその洞察の鋭さである。その国ごとの、全く違う自然の中で、人間が生きていく時に生まれてくる風土というもの。それは単なる自然の違いではなく、人が生きていくときに自ずと起こってくるものである。それは影響され、利用し、翻弄され、支配する。この本の最後の章は昭和23年のものだ。今から76年前の日本から見た世界は、きっと今の私たちとは全く違う感覚をもっているだろう。それぐらい、近年の日本の変化や、世界の変化は凄まじい。でも、それでも、家という形や、忍従する風土、支配する風土など、世界の性質は今も頷けるものが多い。
先にも触れたが、この本を読んでいて、常に感じていたのは、和辻哲郎という人の、鋭い洞察の視点だ。
世界の自然や景色を眺めた時に、なんと見逃していたことが多かったのかと驚かされた。
人や歴史の観察をする私の視点の、なんと浅はかなことだったかと。
洞察を深めたいと常々思っているが、洞察を深めるためには、自分より深い洞察に出会わなければならないのだ。
ここまで、深められるということを身を以て知らなければ、自分の洞察を磨くことは決してできないのだ。
それを痛感した読書だった。
日本の文化や歴史の考察には、同意できないことも多かったのと、命そのものへの洞察までにはなっていなかったことが少し物足りない感じもしたが、それは、最後の章にヘルガーからの考察があることで納得した。
その文章を少しここに抜粋しておく。

~かかる立場からしてヘルデルは、全世界を荒らし回っているヨーロッパ人に警告する。ヨーロッパ人の「幸福」の観念をもって他の国土の住民の幸福を量ってはならない。ヨーロッパ人は幸福という点において決して最も進歩しているもの、あるいは模範となるべきものではない。ただヨーロッパ特有の一つの類型を示しているに過ぎないのである。世界の各地方には、人道の見地から見て決してヨーロッパに劣らない幸福が、それぞれの土地の姿において存している。すなわち幸福は風土的なのである。~

そしてそれは、ラッツエルの「生の空間」という洞察に深まっていく。

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