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10.ホットケーキ【沖家室】思い出備忘録

沖家室での朝ごはんは洋食だ。

卵の入った野菜炒めに食パン、
そしてインスタントコーヒーが定番メニューだ。従兄弟たちの家族も帰っていると食パンの消費スピードに拍車がかかる。いつもよりたくさん買っていても、思ったより早く無くなってしまうこともある。次の入荷まで、島で売っているところは無い。

そんな時、祖母は特製のホットケーキを焼いてくれる。

ホットプレートで焼くような、いわゆるパンケーキと呼ばれる薄めの上品なサイズのホットケーキではなく、丸く分厚いまるで座布団のような骨太のホットケーキだ。

祖母がホットケーキミックスをボウルに開け、卵を割り入れ、使い込まれたお玉で混ぜていく。生地をつくるのと並行して、ガスコンロに無水鍋を乗せ、火をつけておく。サラダ油をひいておくのも忘れない。

この無水鍋はとても厚みがあり、じんわりと火が入るというので祖母の大のお気に入りだ。使い込まれて小さな傷が無数にあるが、それもいい味になっている。

無水鍋が十分に温まったのを手のひらをかざして確認すると、祖母は生地を無水鍋いっぱいに流し込む。そして表面がプツプツとしてくるまで他の用事を片付けながら待つのだ。

しばらくして、フライ返しを生地の端から滑り込ませ、少しめくって様子をうかがうと、
グッと力を入れて、生地を返す。何回かひっくり返して分厚い生地の中まで火を通すと、
祖母は大きなお皿を用意する。
そして、焼きあがった分厚いホットケーキをフライ返しでよいしょと重たそうに引っ張り出し、まな板の上にぼんと乗せると、ケーキを切り分けるように包丁で放射状に切っていく。

ほかほかと焼きあがったホットケーキは焦げる寸前の濃い茶色をしている。分厚さも2センチはくだらないようなすごいボリュームだ。それがテーブルの上にでんと鎮座している。

その迫力に圧倒されながら、私はできるだけ小さそうなホットケーキを選んで自分の取り皿に移動させると、できるだけ熱いうちにマーガリンを塗り、はちみつを大きな瓶から掬い取る。はちみつが白濁して固まっているせいでなかなかうまくいかない。
苦労してはちみつをホットケーキに乗せると、その分厚い生地にぎゅっとフォークを押し当てる。
生地に染み込んだマーガリンと苦労して掬ったはちみつがフォークの下で混じり合っているのが見える。下になっている方の生地がなかなか切れない。きっと焦げかけているに違いない。

祖母も祖父も、このホットケーキには
なにもつけずに食べている。食パンの代わり、という位置付けなのだろう。家ではメイプルシロップをかけて食べたりしている父も、今日はなにもつけずに食べている。

私は大きくなってきたお腹と相談しながらもう一切れ取るか、思案している。隣にあったひとまわり大きな一切れを選ぶべきだったかもしれない。



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