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50歳で100mile走る - 信越五岳トレイルランニングレース 2023 〜パタゴニアCUP~ 準備編 -

信越五岳トレイルランニングレースは、新潟県と長野県にまたがる信越高原地域の山々、信越五岳と言われる斑尾山、妙高山、黒姫山、戸隠山、飯縄山を巡る全長163kmを、33時間以内に走破するレースです。
2022年4月に、初めての100mileレースULTRA-TRAIL Mt.FUJIを約41時間かけて完走し、続いて同じ年の2022年9月、2度目の100mileレース臨みましたが、101km地点で時間切れリタイヤとなりました。
このお話は、翌年のリベンジを誓い、完走を目指した1年間の記録です。


経験不足

初めての100mileレースULTRA-TRAIL Mt.FUJI 2022は、完走はしたものの、前日の大雨でコースは158kmに短縮されていました。次は本当の100mileを完走すべく、5ヶ月後の信越五岳に向けて準備を進めました。課題は二つ、登りと胃腸トラブルでした。

スクワットやランジで、登りに必要な筋力の増強が必要なのは分かっていましたが、どうしても苦手でサボりがちです。なるべくラクして登れるテクニックを求めて、ミズグチメソッドランニングキャンプに参加。そこで学んだドリルを日々繰り返し、直前にはFLAT RUNNING CLUBの対策練習会で仕上がりを確認しました。
胃腸対策は、とにかく体への負担を減らすこと。ULTRA-TRAIL Mt.FUJIでは、得意の下りで飛ばした直後に動けなくなったので、本番では「頑張らない」、「調子に乗らない」、「抑えて走る」を心掛けました。それでも吐き気に襲われた時はどうするか。再現しようにも、そう何度も100km近いトレイルで実験する訳には行きません。敢えて二日酔いで気持ち悪い状態で走ってみたりして、試行錯誤を重ね、自分にはラムネ(ブドウ糖)と甘酒が有効と分かりました。

そして万全の準備で臨んだ2022年信越五岳100mile。序盤は早速ミズグチメソッドの成果が出ました。いつもは抜かれる一方の登りでどんどん追い抜けます。気温は9月中旬としては異例の暑さでしたが気にせずに、つい調子に乗って飛ばしてしまいました。40kmを過ぎたころ、突然脚が止まり、めまいと吐き気に襲われます。慌ててラムネを口に放り込みましたが、歩くのがやっとの状態。52km地点のエイドに着いたのは朝の4時。関門30分前まで粘って回復図り、とぼとぼ歩きながら復活を待ち、林道の下りで復調して走り出したものの10kmも持たず。次の69キロ関門への登り返しは必死に腕を振って脚を持ち上げ、関門ギリギリの7時20分通過。そこから101km地点の黒姫関門までは、赤倉ゲレンデ頂上まで600m登った先の32km。台風に吹き込む南東風で気温は30℃まで上昇。吐き気でジェルを受け付けない胃にラムネを放り込み続け、88km地点のエイドで既に12時半、関門の14時まであと13km。エイドのスタッフに励まされ、頭から水を何度も被ってリスタート。すでに完走は絶望的でしたが、とにかく区切りの100kmまではと歩き続け、15時半に黒姫に辿り着きました。

失敗の原因は、序盤のオーバーペースと熱中症、そして何よりも、それを予見出来なかった経験不足でした。

黒姫の関門

走力の底上げ

トレイルのレースでリタイヤしたのは、これが初めてでした。完走出来なかった選手は、翌朝、預けた荷物を表彰式の会場まで引き取りに行かなければなりません。この年の信越五岳の完走率は40%。自分を含め、多くの選手が暑さに苦しめられたと聞きましたが、そんな悪条件の中でも見事に100mileを走り切り、その証であるバックルを嬉しそうに受け取る選手達の姿を、会場の隅からぼんやりと眺めていました。

信越五岳は関門がキツイと、前もって聞いてはいましたが、改めて、今の自分の走力では全く太刀打ち出来ないことが分かりました。序盤の52kmまでは、出力50%位に抑えても余裕で関門2時間前に間に合うぐらいのスピードが求められます。ミズグチメソッドのドリルを繰り返し、肘を打ち下ろし、体を落下させ、床反力を受け取りながら走る練習を地道に続けました。ポイント練習は週2回、水曜夜のトラックと、土曜朝の駒沢公園で5分/km前後での20kmペース走。そして日曜はロングジョグかトレイルへ。2022年10月から翌年8月までの走行距離は月平均300km。山でもロードでも、りきまずリラックスしながらもスピードは落とさず一定に保つことを意識して、いかに「楽に速く」走れるかを追求しました。

登り対策

これもミズグチメソッドのドリルですが、平地同様に腕の振り下ろして床反発を受け取る「登りこそ落下」を意識した走りを繰り返しました。走りると言っても登りですのでトップ選手のようには行きませんが、体に過負荷とならない範囲を探りながら、細かく刻んで走るフォームとリズムを崩さないことを心掛けました。
足への加重は爪先ではなく、踵を接地させて、出来るだけ足裏全体を使って足の縦アーチを活かせるように。着地の際に、岩、石、木の根、落ちてる小枝など、突起物を探して踵で踏むようにして、少しでも足が前に転がりやすいようにしました。少し分かりにくい話ですが、試しに坂道で小石を踵で踏みつけて登ってみると、ちょっとだけラクなのが分かります。100mileでは、こんな些細なことの積み重ねが、後々効いてきます。

その効果はあったと思います。2年続けて参加した奥信濃100を走った際のデータを比較してみました。
・奥信濃100 距離100km 累積標高4,800m
 2022年タイム19:35:16 平均心拍120bpm ピッチ102spm ストライド1.07m
 2023年タイム17:32:49 平均心拍126bpm ピッチ112spm ストライド0.85m

スマートウオッチ(Garmin Instinct Dual Power)単体での計測の為、正確とは言い難く、コースへの慣れや気象条件の違いもあったのでしょうが、筋力を使って大股で「ガシガシ」登るのではなく、平地と同様に「落下と床反力」を意識して 「タタン、タタン」と細かく刻んで登ることで、ピッチは増え、ストライドは小さいにも関わらず、心拍数はそれほど増やさずにレース全体でのスピードは上がり、2時間の短縮が出来ました。

奥信濃100にて

熱中症対策

レース本番では、とにかく体を冷やすしかありません。長距離を走れば胃も疲れるので、水も飲めない状態になる可能性があります。レース前に出来ることは、暑熱順化トレーニングです。信越五岳は9月のレースなので、7~8月で体を慣らせば十分な人もいると思いますが、自分はダメだった人なので、とにかく人一倍に暑さに体を慣らすことを目指しました。自宅でテレワーク中は、昼も夜も冷房は使わず、貧乏性なので使いまわしのペットボトルに東京都水道局の美味しい水を詰めて、熱中症予防の小まめに水分補給を続けた結果、ひと夏を乗り切る頃には、暑さでジワーっと汗が出ると、「おっ、いま汗腺が鍛えられている」とほくそ笑む、変態の境地に至りました。
もともと銭湯好きなので、銭湯&サウナには毎日でも通いたかったのですが、そこはお仕事の都合で叶わず週1回程度に。その代わりにビアラン仲間を巻き込んで、ゴールを銭湯&ビール屋に設定して真夏の街ラン。トレイルならゴールは沢にドボンの後でやはりビール屋。夏場にモチベーションを切らさずに済んだのは、やはり仲間達のお陰でした。

胃腸トラブル対策

吐き気に襲われた時には、コンビニで売ってる大粒ラムネと、フリーズドライの甘酒を水で戻して飲むことで凌ぎましたが、あの気持ち悪さはトラウマになります。自然と、少しでも吐き気の予兆を感じたらペースを落としてやり過ごすようになりました。しかし、それでは関門に間に合いません。100mileの時間の大半は、気持ち悪さと急ぎたい気持ちとのせめぎ合いです。ある瞬間、霧が晴れたように気持ち悪さが解消し、元気よく走り出せたかと思うえば、30分後には振り返したり。それを何度も繰り返します。少しでも吐き気を抑えられる薬は無いものか。ネットで調べるとウルトラランナーの間では我神散を推す人が多いようですが、ビアラン仲間の看護士さんに相談し、弱った胃の蠕動ぜんどう運動 (前進を伴う収縮運動)を促す効果が期待できる、六君子湯を試すことに。ここでも頼もしい仲間に助けられました。本番で効いてくれることを祈ります。

イメージトレーニング

自宅でテレワークしている机の前には、昨年配られたA2版の信越五岳のコースマップが張ってあります。キーボードを叩く手を休め、視線を上げてすぐ目に止まるのは、101km地点の黒姫エイド。そしてその先の笹ヶ峰、西登山道、大橋林道、戸隠、飯綱林道、そしてゴールの飯綱リゾートへと、ルートを目で追います。笹ヶ峰に至る長い林道登りは歩くか、戸隠まではキロ何分ペースか、瑪瑙山までは体力温存か。収束することの無いイメージトレーニングが続き、キリが無いので諦めて仕事に戻ります。
延々と続く林道登りを、いかに体力を温存しながらも速く駆け抜けるか。奥多摩の石尾根や、高尾の小下沢林道を使って、シミュレーションを重ねます。「足のロッカー機構を活かす」、「登りこそ落下」、「慣性を纏った物体は、上下動だけで前へと進む」、等のミズグチメソッドを思い出し、「ダウン、ダウン」と唱えながら肘を振り下ろし続けて坂を登って行く様は、まるで修験者です。

石尾根のだらだら登り

地道な筋トレ

筋トレは苦手です。
ボディービルが目的なら筋肉の見た目の成長がモチベーションになるのでしょうけど、どうしてもひとりでは続きません。なので、これも地元ビアラン仲間の有志で曜日を決めて、夜9時からZoom筋トレを週2、3回。各回とも、主に体幹と下半身をに30~40分。同じメニューだと部位が偏るので、適宜内容を変えることも必要。ランナー向けの筋トレ動画はYouTubeに沢山あり、選ぶのが一苦労ですが、ネタ探しはビアラン仲間にお任せで助けられました。
トレイルランナーの為のクロスカントリースキー」も筋トレの一環として取り組みました。クロスカントリースキーは、世界のトップ選手はもちろん、日本トップの上田瑠偉選手も冬場のクロストレーニングとして取り入れています。講習に参加し、全身の屈伸運動と重心の移動のコツを教えて貰うと、驚くほど楽に前に進みます。内腿と体幹バランス強化の筋トレになるだけでなく、何よりも単純に楽しいく、講習会で全国のトレラン仲間と知り合えるのも励みになりました。

確かに登りはキツイけど…

レースもトレーニング

9月の本番を前に、仕上げトレーニングを兼ね、筑波連山天空ロード&トレイルランミドルコース48kmにエントリーしました。その名の通り、ロードとトレイルが半々のコースで、残暑厳しい8月末で都心からも近い、信越五岳の予行演習にはうってつけです。しかも参加賞は常陸野ネストビールが2本、ビアラン仲間3人でノコノコ出掛けて行きました。
行ってみたら周りはかなりのガチランナーさん揃い。前半のロードであっという間に置いていかれ、つい、追い付こうとオーバーペース。去年の教訓が全く生かされていません。当然、半分過ぎには脚は止まり、30度超えの暑さで意識朦朧。Garmin は最高の平均心拍数を記録し、這這ほうほうの体で、参加賞のビールを受け取って温泉へ退散。レース結果は散々でしたが、本番前に改めてレースマネジメントの大切さを肝に銘じることが出来たのが収穫でした。

本番まで、あと3週間。奮闘編に続きます。

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