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仕事を辞めた理由は、手に乳

僕の仕事は物書きだ。
かれこれ7年くらいフリーでやっている。

仕事の浮き沈みはあるけれど、結構続いているほうだ。

かつての僕は、転職魔だった。

仕事を探す。
働く。
すぐ辞める。
仕事を探す。
働く前に辞退する。
仕事を探す。

みたいな感じだ。

僕が本気で職務経歴書を書いたら、巻物になると思う。
なんの自慢にもならないけれど。

ようするに、僕は社会人としてダメなのである。

とはいえ、1つだけ言い訳をしたい。
20年くらい前は、仕事に就くのが大変だった。

まだLGBTQという言葉は存在せず、柔軟に対応してくれる企業はごく一部。

採用の担当者に事情を話すと、電話口で断られることが多かったから、面接までなかなかたどりつけなかった。

やっと面接してもらえることになっても「社長に確認したら、前例がないのでダメになりました」と言われたこともある。

そんなことを何十回も繰り返していくうちに、いつしか僕は手に職をつけたいと考えるようになった。

そうしたら、仕事が決まらない悩みから解放されると思ったのだ。

実際のところ、手に職をつけても、今度は自分で営業しないとダメだから、悩みから解放されることはないんだけれど。

当時の僕は、そんなこと知る由もない。

話は戻すが、散々悩んだ挙句、手に職をつけるのも大変だとわかり、キャバクラの黒服として働いたことがあった。

手に職とは、ある意味、真逆の職業である(笑)。
生活がかかっていたから、仕事を選んでいる場合ではなかったのだ。

それから3年ほど経ったある日、僕に転機が訪れた。
キャバクラを辞めて、ストリップ劇場で働くことになったのだ。

あ、僕は脱がない。
ちゃんと着てました、服。

照明などの舞台装置を触る仕事だった。
技術が必要だから、3ヵ月くらい修行に出る予定もあった。

仕事は楽しかったし、スタッフもいい人ばかりだった。

なのに5日で辞めた。

なぜか?

僕に激しく絡んでくる踊り子さんが怖かったのだ(笑)。
ここでは全裸彼女と呼ばせていただく。

全裸彼女の絡みは、僕が初出勤したときからはじまった。

とても綺麗な方だったけれど、性にオープンすぎて、僕は全裸彼女から視線を逸らすのに必死だった。

いつなんどき、どこを見せてくるかわからないからである。

そして、僕の出勤5日目。
事件は起きた。

全裸彼女の出番が終わり、文字どおり全裸のままお客さんと握手をしていたときのこと。

なぜか入口に立っていた僕のところに近づき、握手をしてきたのだ。

全裸のまま。
つまり全裸握手である。

ここで終わればよかったのだけれど、彼女は僕の手を離そうとしなかった。

ワイパーのように左右に揺れる乳が、スローモーションに見えた。

「やめなさい、戻りなさい!」
「いやだ、もうちょっと!」

制止するスタッフと、抵抗する全裸彼女。
右手だけ、もっていかれる僕。

そのとき、パチンと弾ける音がした。

一瞬、何が起きたかわからなかった。
自分の右手の甲を見ると、彼女のワイパーに当たっていた。

その日を境に、僕はストリップ劇場を辞めた。

手に職をつける予定が、手に乳をつけたのだ。


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