第十話 自分がすべてを選んでいた
この記事はシリーズものです。
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僕が美紀と付き合ったのは、留置所に収監されていたときだ。
のちにそれを知った一部の友人たちは、僕の選択に疑問を抱いたり、批判的な意見を述べたりすることがあった。
ようするに、逮捕されている分際で女性に交際を申し込むなんて、おかしいというわけだ。
そんなふうに言いたくなる気持ちは、とてもよくわかる。
けれども、僕は反論したい。
違う、違うのだ。
言い訳がましいが、「付き合いたい」と言ったのは彼女のほうだった。
収監中の自分に女性と付き合う資格はないと考えていた僕は、何度か断っていたくらいだ。
その意思を曲げて美紀と付き合うことにしたのは、「僕のことを本当に想ってくれているんだな」と感じたからだった。
約一年にわたり、美紀は「何があっても、あなたを待ち続ける」と言ってくれた。
最初、僕は半信半疑だったけれど、何度も手紙でやりとりをしたり、面会を重ねたりしていくうちに、付き合ってみようと思うようになったのだ。
結局、その幸せは長く続かなかった。
別れを切り出したのは、美紀だった。
寂しくて、別の男性を好きになってしまったらしい。
ようするに僕は浮気されたわけだ。
彼女が去っていったとき、僕は仕方がないと思った。彼女をそうさせたのは、自分だと感じていたからだ。
話し合いの場を設けることもできたはずだけど、僕はそれを選択しなかった。
つまりある意味、自分の本音を蔑ろにして、大好きな人の意思を尊重したといえるだろう。
以降、長いあいだ、僕は美紀との別れを引きずり、本気で人を好きになることをやめた。
この話には続きがある。
美紀以上に好きになる女性は、絶対に現れない。
そんなふうに思っていた僕だったけれど、それは嘘だった。
あるとき、ひょっこり現れたのだ。
めちゃくちゃタイプの女性が。
彼女は今、僕のパートナーとなり、有難いことに日々幸せに暮らしている。
こうして幸せな状態にあるからこそ、見えてきたことがあった。
すべての関係性は、自分が選んでいたということだ。
美紀との出来事からもわかるが、昔の僕は物事を決めるとき、相手の言動を最優先にしていた。
特に恋愛に関しては、自分がどうしたいのかを後回しにしていたように思う。
だからなのか、うまくいかないことが起きたとき、相手のせいにしがちなところがあった。
それは、大きな間違いだった。
誰と、どんな関係を、どのくらいの距離感で築いていきたいのか。
いつだって、決めるのは相手じゃない。
自分だ。
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