【著作権】逮捕・報道に関する声明【翻案権】
宮城県登米(とめ)警察署は、映画『ゴジラ-1.0』、同『劇場版ハイキュー!! ゴミ捨て場の決戦』などの著作権を侵害したとして、10月29日、東京都内の会社役員ら計3名を逮捕しました。
当職らは、逮捕された会社役員1名および社員1名の弁護人です。
誤解をおそれず言えば、本件は、「映画の著作物のストーリー、セリフ、キャラクター等を文章で紹介・解説したこと」が翻案権侵害と疑われている事案です。
一部報道によれば、映画やアニメーションの内容を文章で紹介・解説した行為が、著作権法違反として摘発された事例は、初めてとのことです。
一方、著作権、翻案権と刑事罰との関係について、中山信弘・東大名誉教授は、次のように指摘しておられます。
「海賊版のような悪質な事例においては刑事罰も必要であるが、侵害か否かの判断が難しい翻案の事例にまで刑事罰を科すことは行き過ぎのように思える。特にこうした侵害判断が微妙な事例まで刑事罰を科すことは、他人の著作物を利用した新たな著作物の創作にとっては萎縮効果が極めて大きく、表現の自由という観点からも大きな問題となる」
(中山信弘「著作権法」第4版836頁)
詳細は控えますが、逮捕時の被疑事実には、明らかな誤りがあります。
また、警察の言い分そのままに、本件ウェブサイトが、もっぱら「ネタバレ」を目的としたものであるかのような報道もあります。
本件は、各作品の権利者による事前の警告もなく強制捜査に至ったものであり、警察のサイバーパトロールが捜査の端緒であった旨の報道もありました。
表現の自由への配慮が強く要請される著作権法事件において、捜査機関が積極的に立件に動き、関係者を一斉逮捕したことは、極めて乱暴と言わざるを得ません。
取調べでは、捜査官から「とにかく権利者がダメと言ったらダメなんだ。同人誌とかもみんな違法だから。」という発言もあったようです。
なお、本件では、半年以上前から在宅捜査が進行し、被疑者の方々は、宮城県内での取調べ、さらに都内での複数回の取調べにも応じておりました。
取調べでは資料が提示されず、言い分が正確に記録される保障もないため、弁護人の提案により、被疑者の方々は、一部黙秘をしました。他方、本人の身上経歴や基本的な事実関係に関しては供述を行い、供述調書も作成しておりました。
捜査協力している中で突如なされた一斉逮捕は、黙秘への報復とも疑われます。捜査機関の不当かつ強権的な対応に、言葉を失います。
中山名誉教授が指摘されるとおり、著作権法事件とくに翻案事例における刑事処罰は、きわめて慎重になされるべきです。
本件では、「通常の事件」以上に強硬、暴力的な対応がなされており、まことに遺憾です。これを許せば、表現の自由が深刻に萎縮します。また、国際社会から問題視される日本の刑事司法について、健全化は遠のくことでしょう。
当職らは、本件の弁護人として、強い危惧を表明し、同様の懸念を有する方々のご協力を、お願い申し上げる次第です。
令和6(2024)年11月6日
弁護士 服部 啓一郎 弁護士 深澤 諭史