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トパスとワッドとシロクマ船長 【5】【6】

「ねるまえのはなし」という電子書籍に収録予定の短編を、連載形式で掲載することにしました。こどもを寝かしつけるときの、読み聞かせに使ってもらえるような本を目指しています。

【1,2】【3,4】はこちら

【5】

 シロクマ船長のノースポール号は、よく晴れた青空の下を、すべるようにして進んでいきます。かきわけた波が、船のうしろのほうであわになって、まるで空に飛行機雲がのこるみたいに、海に線を引いてゆきます。

 シロクマ船長は、ニッケルハルパというめずらしい楽器をえんそうしてくれました。バイオリンのようなオルガンのような、すてきで不思議なねいろです。曲をひきおえると、シロクマ船長はおじぎをしました。

「すごい!」
「かっこいい!」

 アイちゃんとヒロくんに拍手されて、シロクマ船長はてれました。

「いやぁ。そんなに喜んでもらえると嬉しいなぁ」

 シロクマ船長がそう言ったときです。マストの上のほうから、カンカンカンと音がしました。それは、見張り台のワッドがならす、かねの音です。

「船長! もうすぐ島につくさ!」

 シロクマ船長はさっそく島の近くに船をとめました。トパスに留守番にのこってもらって、アイちゃんとヒロくんとワッドを連れてその島に上陸しました。

「シロクマ船長の宝物が見つかるといいね」

 みんなは北極点の赤い旗をさがして、島中を歩きましたが、しげみの中には虫やヘビがいるくらいで、なにも見つかりませんでした。
 その島はまんなかに小さな岩山がありました。ごつごつした岩に、少しだけ草木が生えているのが見えます。近づいてみると、小さな洞窟を見つけました。

「このなかに入ってみようか」
「ちょっとだけ怖いね」
「大丈夫。なにかが見つかるかもしれないよ」

 一番に洞窟に入ろうとしたシロクマ船長の背中に、なにか黒い影が見えました。

「シロクマ船長! 背中になにかいる!」

 アイちゃんがさけびました。シロクマ船長がふり返ると、その影はもうありませんでした。

「ちょっと、びっくりしたよ。アイちゃん、いたずらはやめてよね」
「あれ? ごめんなさい。なにかかんちがいしたみたい」
「はっはっは。アイちゃんはこわがりさ」

 ワッドがうでをくねくねさせながら笑っていると、今度はワッドの頭のうえに黒い影がありました。

「わっ! ワッドの頭に、なにかいる!」

 今度はヒロくんがさけびました。ワッドが自分のあたまをさわってみると、その影はもうありませんでした。

「ちょっと、びっくりしたよ。ヒロくんも、いたずらかい?」
「あれ? 本当に見えたんだけどなぁ」

 アイちゃんとヒロくんは少しだけ不安になったけど、みんなと一緒に洞窟に入ってみることにしました。
 洞窟は最初はくらかったのですが、不思議なことに、奥のほうは明るくなっていました。一番奥は、天井がなくて空が見えます。洞窟だと思ったけど、トンネルになっているだけだったのですね。そこは岩にかこまれて、小さなお部屋のようになっていました。草でできたベッドがふたつ、枝でできたテーブルがひとつ、おいてありました。

「ここ、誰かが住んでいるみたい」

 アイちゃんが言いました。

 すると、ワッドがさけびました。

「アイちゃんの肩に、なにかがいる!」

 アイちゃんはおどろいてふり返りましたが、なにもいません。

「ちょっと、びっくりしたよ。ワッド、いたずらはやめてよ」

 すると今度はシロクマ船長がさけびました。

「ヒロくんの肩に、なにかがいるよ!」

 ヒロくんはおどろいてふり返りましたが、なにもいません。

「ちょっと、シロクマ船長までいたずらなんて、やめてよ」
「いたずらじゃあないよ。本当にいたんだよ」

 みんなは怖くなってまわりをキョロキョロしました。そうすると。

「かってにね。ひとのおうちに入ってくるなんてね。ひどいじゃないか」

 どこからか、声が聞こえてきました。


【6】

「ひとのおうちに入るならね。まずはね。あいさつをしてほしいね」

 その声は、ずいぶん早口です。

 足元をよく見ると、四人のちょうどまんなかに、ちいさな鳥がうごき回っていました。背中はこげ茶色で、おなかのほうは黒と白のしましまです。足とクチバシはきれいな赤色でした。

「ああ、びっくりした。さっきの黒い影はキミだったのかあ」
「オレはね。アガチっていうんだ。ヤンバルクイナっていう鳥ね」

 アガチは部屋のなかを走り回りながらしゃべりました。

「かってに入ってしまってごめんね。アガチ」

 シロクマ船長はキャプテンハットをとってあいさつをしました。アイちゃんとヒロくんとワッドも、おなじように自己紹介しました。そして宝物を探していることを話しました。

「ふぅん。それでね。北極点の赤い旗をさがしにきたってことね」
「うん。アガチ、なにか知らない?」
「知らないわけではないけどね」
「知ってるのかい?」
「この島にはないけどね。話は聞いたことあるね」
「じゃあ、アガチは、赤い旗のことを知っている人のことを、知っているんだね」
「そういうことになるね」
「アガチ、よかったらその人のことをおしえてくれるかなぁ。会いに行きたいんだ」

 アガチは部屋のなかを走り回って、きっかり三周しました。

「オレの宝物を見つけてくれたら、おしえてあげるけどね」
「宝物ってなんだい?」

 アガチはジャンプして、シロクマ船長の肩にのりました。よく見ると、アガチの右足には、紫色のアンクレットがついています。

「この紫色のアンクレットがね。もうひとつあるんだね。それを見つけて欲しいんだね」
「ずいぶん小さいから、見つかるかなぁ」

 アイちゃんはつぶやきました。

「見つけてくれなかったらね。おしえてあげないからね」

 アガチは飛びおりて、また部屋のなかをかけまわりました。

「わかったよ。アガチ。僕たちは冒険をつづけるから、いつかきっと見つかるよ。もし見つかったら、ここにもどってくるからね」

 シロクマ船長はアガチと約束しました。

 船に戻ると、さっそく帆を張って、出発しました。とてもいい風が吹いています。風をいっぱいに受けた帆がふくらんで。船はゆっくりと進み始めました。

 そのときです。大きなアホウドリがつばさを広げて近づいてきました。そして、見張り台にいるワッドをがっしりと両足でつかみました。

「わわわ! はなして!」
「ほほほ! おいしそうなイカだこと。ワタクシの晩ご飯にピッタリね!」

 アホウドリはワッドをつかんだまま、羽ばたきました。ワッドの体が空に浮かびました。

「助けて! シロクマ船長!」
「ほほほ! 空を飛べるのはワタクシだけのようね。残念ながら誰も助けに来てくれないわ。それじゃ、みなさん、さようなら。ほほほほ!」

 アホウドリはつばさをばっさばっさとならして、飛びさってしまいました。

「シロクマ船長! ワッドが連れて行かれちゃった!」
「あのアホウドリ、ワッドを食べちゃうつもりだ!」

 アイちゃんとヒロくんは大あわてです。シロクマ船長は双眼鏡でずっとアホウドリの飛んで行ったほうを見ています。

「追いかけるよ。トパス」
「あいあいさー」

 船は舵を切って、アホウドリのあとを追いかけます。

「アイちゃん、ヒロくん。もっとスピードをあげるために、帆の向きを変えないといけない。手伝ってくれるかな」
「もちろん」

 アイちゃんとヒロくんは、ワッドのいなくなった甲板を走り回って、シロクマ船長を手伝いました。


【7】へ続く

全12話 6日間連続公開予定です。スキ、シェアいただけたら励みになります。
寝かしつけに読んでみました、なんてお話をいただけたら望外の喜びです。
Special Thanks : イラスト ひらのかほるさん

電子書籍の表紙制作費などに充てさせていただきます(・∀・)