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トパスとワッドとシロクマ船長 【3】【4】

「ねるまえのはなし」という電子書籍に収録予定の短編を、連載形式で掲載することにしました。こどもを寝かしつけるときの、読み聞かせに使ってもらえるような本を目指しています。

【1,2】はこちら

【3

 下の階には、ドアが三つありました。ドアにはそれぞれ、イカのマークと、タコのマークと、シロクマのマークが描かれていました。
 シロクマ船長は、シロクマのマークのドアを開けました。

「さぁ、ここが船長室だよ」
「うわぁ、すごい!」

 船の中なのに、船長室は広くて明るくて不思議でした。見たことのないものが、たくさんカベにかかっています。

「これはなぁに?」
「それは、クジラのヒゲのたばだよ。シロナガスさんにもらったんだ」
「これはなぁに?」
「それは、アカエイのひものだよ。ワッドがたくさん釣り上げたのさ」
「これはなぁに?」
「それは、竹で組んだベンチだよ。流されてきたのをひろったのさ」

 ふたりは楽しくなって、部屋中を見て回りました。そのあいだに、シロクマ船長が紅茶をいれてくれました。温かくて甘い香りのする、おいしい紅茶でした。

「ねぇ、シロクマ船長たちはどこへ向かっているの?」

 アイちゃんがたずねました。

「うん。僕たちは、宝物を探しているんだ」
「宝物? じゃあ、シロクマ船長たちは海賊なの?」
「ううん。僕たちは金銀財宝を探しているわけじゃないんだ。僕にとっての、宝物を探しているんだ」

 アイちゃんもヒロくんも、シロクマ船長の話を聞きたくなりました。

「ふたりとも、僕の暮らしている場所のことは知っているかい?」
「うん。たしか、北極だよね」
「そうなんだ。北極は、大きな大きなあつい氷でできていて、僕たちシロクマはそこで暮らしているんだ。だけどその氷が、とけてしまったんだ」
「え? シロクマ船長の住む場所がなくなっちゃったの?」
「うん。冬になると氷ができるんだけど、夏になるととけちゃう。それのくりかえしなんだ。だから仲間たちはどんどんいなくなってしまった。僕も最後までがんばっていたんだけど」

 シロクマ船長は、カベにかけられた一枚の絵を指さしました。

「あの絵に描かれている赤い旗。あれは北極点の旗なんだ」
「北極点ってなに?」
「北極点というのは、北極のまんなかだね。まんなかにはいつも、あの赤い旗が立っているんだ。だけど、氷がとけてしまったから、あの赤い旗もどこかへ流されてしまったんだ」
「そうなんだ」

 アイちゃんとヒロくんは、悲しい気持ちになりました。

「あの赤い旗は、僕のふるさとの旗なんだ。だから、流されてしまった旗を探して、旅に出たというわけなんだよ。トパスとワッドと三人でね」
「そうか。北極点の赤い旗が、シロクマ船長たちが探している宝物なんだね」
「そうなんだ」

 シロクマ船長はにっこりと笑いました。

 そのあとみんなで、お昼ごはんのために、魚釣りをしました。トパスとワッドはいくつものつりざおを同時に使うので、どんどん釣れます。アイちゃんとヒロくんも、アジを一匹づつ釣り上げました。シロクマ船長はいつもかぶっているキャプテンハットくらいの、大きなエビを釣りました。

 お料理もみんなでしました。ヒロくんはお料理が得意なので、アジをさばいておだんごにして、つみれスープを作りました。シロクマ船長は、エビを大きなおなべに入れて、ぐつぐつと茹でました。
 そのあと食堂に行って、みんなで食べました。とれたてのお魚料理はとってもおいしいです。なかでも一番人気だったのは、ヒロくんのつみれスープでした。

「いつもよりにぎやかだから、楽しいご飯になったね」

 シロクマ船長は食後の紅茶を飲みながら言いました。

 そのときです。外の様子に気づいたトパスがさけびました。

「大変! いつのまにか、シャチのむれが来てる!」
「なんだって!」

 ワッドはすばやく立ち上がりました。

「オイラすぐに見張り台に登るよ!」
「あたしも、急いで操舵室へ行かなきゃ!」

 トパスとワッドが部屋を出ていくと、シロクマ船長も立ち上がりました。

「ふたりはここにいるといいよ。外は危険だからね」
「シャチは危ないの?」
「うん。ときどきこうやって船をおそってくるんだ。もともとシャチはムダなあらそいはしないんだけど、この群れはリーダーがちょっと乱暴者でね」
「リーダー?」
「ひときわ大きいヒレを持った、オルカってやつだよ。さぁ、僕は甲板に出てくるね。トパスとワッドがこわがっているだろうから」

 そう言うと、シロクマ船長は食堂を出て行きました。


【4

 アイちゃんとヒロくんは食堂の窓から外を見ることにしました。たしかに、ときどき黒い背びれが、海面をすべるように動いているのが見えました。

「うわぁ、こわいなぁ」
「シロクマ船長たち、どうやって追いはらうんだろう」
「僕たちにも、手伝えることはないかなぁ。助けてもらったのに」
「そうだ!」

 アイちゃんは食堂を出て、船長室へ飛び込みました。ヒロくんもあわてて、追いかけました。

「どうしたの?」
「船長室にあるもので、なにか作れると思う」

 アイちゃんは工作が得意です。まず竹でできたベンチから、竹の棒を一本引きぬきました。それから食卓のナイフで、その竹の棒を、たてにまっぷたつに割りました。そして、クジラのヒゲのたばから、一番丈夫そうな一本を選びました。
 竹の棒をヒロくんにわたして、三日月みたいにぐいっと曲げてもらいました。そしてクジラのヒゲをその両はしに、しばりつけました。

「アイちゃん、これって」
「そう。弓みたいに使えるかなって思って」
「すごい! きっと使えるよ!」

 アイちゃんとヒロくんは甲板に出ました。シロクマ船長が石を投げてシャチのむれを追い払おうとしていますが、シャチたちは笑っています。

「はっはっは! そんなもの当たるかよ!」
「当たったって、いたくもかゆくもないや!」

 そして、ひときわ大きいヒレを持つオルカが、ゆっくりと船に近づいて言いました。

「俺たちは腹がへってるんだ! 今日こそあの大きいイカとタコを食ってやるからな! わっはっはっは!」

 アイちゃんとヒロくんはびっくりしました。

「大きいイカとタコって、トパスとワッドのことだよね」
「なんてひどいこと! ゆるせない!」

 ワッドは見張り台の上で、トパスは操舵室で、ブルブルふるえているのが見えます。

「おいオルカ! 僕たちの友達を食べるなんてやめろ!」
「おお! 人間の子供か。大して美味くもないが、イカとタコを食うなと言うなら、お前らをかわりに食ってやろうか! わっはっはっは!」

 オルカは大きな口をあけて笑っています。

「シロクマ船長、これを使って」

 アイちゃんは弓をシロクマ船長にわたしました。

「アイちゃん、これは?」
「船長室にあるもので作ったんだ。石をなげるより、これのほうが遠くまで飛ぶから」
「なるほど。どうもありがとう」

 シロクマ船長は弓をうけとると、石をクジラのヒゲにあてがい、ぐぐっと引きました。竹がしなってぎゅっと音がします。オルカはまだ大口を開けて笑っています。その口をシロクマ船長はねらいました。
 びゅん。クジラのヒゲが風を切りました。竹がぴんと伸びて、そのいきおいで石が飛び出しました。石はオルカの口に飛び込んで、ノドのおくのほうに命中しました。

「ぐぼ!」

 オルカはへんな声を出すと、目を回してしまいました。

「やったぁ!」

 アイちゃんとヒロくんはシロクマ船長と一緒に飛びはねました。

「すごいすごい!」
「やったやった!」

 トパスとワッドも大よろこびです。
 オルカは目を回したまま、とうとうおなかを上にして、ぷかぁと浮かんでしまいました。シャチのむれはどうしたらいいか分からなくなっって、オルカのまわりをぐるぐる回っています。

「さぁ、いまのうちに逃げよう!」

 シロクマ船長は言いました。トパスはハンドルをまわして、ワッドは帆の向きを変えました。風をめいっぱい受けて、船はぐんぐんスピードを上げます。シャチたちは、たちまち見えなくなりました。

「ありがとう。アイちゃん、ヒロくん。おかげで助かったよ」
「ううん。最初に助けてくれたのは、シロクマ船長たちだもん」
「そうだよ。少しでも恩返しができたかな」
「うん。君たちはすごいね。ヒロくんはお料理が上手だし、アイちゃんは道具を作るのが得意なんだね。よかったら、僕たちの仲間になってよ。僕たちと一緒に冒険のつづきをしようよ」

 アイちゃんとヒロくんは顔を見合わせて、うなずきました。

「うん! 仲間になる!」

 シロクマ船長は、船乗りのあかしの、紺色のマリンキャップを、ふたりにかぶせてくれました。サイズはぴったりでした。

「アイちゃん、似合うね」
「ヒロくんも似合ってるよ」

 いつの間にか、トパスとワッドもあつまってきていて、ふたりをお祝いしてくれました。

「さぁ、冒険のはじまりだ!」
「あいあいさー」

 風でふくらんだまっ白な帆に、シロクマ船長そっくりのにがおえが描いてあります。海はキラキラかがやいていて、どこまでも広がっていました。

 船は波をかきわけて、進んでいきます。


【5】へ続く

全12話 6日間連続公開予定です。スキ、シェアいただけたら励みになります。
寝かしつけに読んでみました、なんてお話をいただけたら泣いて喜びます。
Special Thanks : イラスト ひらのかほるさん

電子書籍の表紙制作費などに充てさせていただきます(・∀・)