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トパスとワッドとシロクマ船長 【9】【10】

「ねるまえのはなし」という電子書籍に収録予定の短編を、連載形式で掲載することにしました。こどもを寝かしつけるときの、読み聞かせに使ってもらえるような本を、目指しています。

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【9】

 南へ向かって進む船のうえで、みんなは、魚釣りをしてたくさんの魚を釣り上げました。ワッドとヒロくんがそれをおいしい料理に変えて、みんなで食べました。

「やぁ、見てごらん。とおくの方にクジラが来ているよ」

 シロクマ船長が指さすほうを見ると、水平線にクジラの背中が出たり消えたりしているのが見えました。ときどき、シャワーみたいに、ぶしゅっと潮をふいたりしています。

「わぁ、すごいなぁ。僕クジラを見たのは初めてだよ」
「うん。わたしも」

 海と空のあいだをゆっくりと泳ぐクジラを、アイちゃんとヒロくんはいつまでも見つめていました。

 しばらくすると、だんだん、風が強くなってきて、船のスピードが速くなりました。海の上をすべるようにして、船が進んでいきます。

「やぁ、これはきっと嵐になりそうだね」

 シロクマ船長が言いました。

「ワッド、帆をたたんでおりておいで」
「あいあいさー」

 ワッドが手早く帆をたたむと、見張り台からするするとおりてきました。みんなが、操舵室にあつまりました。ぶあつい雲のせいで、あたりはすっかりくらくなりました。

「どうしよう、シロクマ船長。わたし、嵐なんてこわい」
「大丈夫だよ。この船にはトパスがいるからね」
「そうよ。あたしが八本のうででハンドルをにぎっているかぎり、この船は大丈夫よ」

 トパスはガッツポーズをしました。
 風はどんどん強くなり、灰色の雲がすごいスピードで流れていくのが見えます。アイちゃんはこわくなって、外を見るのをやめました。

「あれ?」

 操舵室のはじっこには、ワッドが入っていた、あのアホウドリの巣がおきっぱなしになっています。それを見たアイちゃんが、ちょっとおかしなことに気づきました。アホウドリの巣が動いているのです。ゆさゆさと、ゆれています。

 アイちゃんがのぞきこんでみると。

「あっ!」

 そうなんです。茶色いふさふさの毛をした、ヒナがいるんです。

「そっか。ワッドでかくれて見えなかったけど、卵があったんだ!」

 ヒロくんもおどろきました。

「卵がつぶれないでよかった! ぶじにヒナが産まれたんだね!」

 みんなはかわるがわるヒナをだっこしてかわいがりました。

「アイちゃん。キミが名前をつけてあげてよ」

 シロクマ船長は言いました。

「え? わたしが?」
「うん。いずれアホウドリの島に送りとどけてあげたいけど、それまでは、僕たちの仲間だからね」
「じゃあ、ヒナちゃん」
「ヒナちゃん?」
「うん。ヒナだから」

 みんなが笑うと、ヒナちゃんもかわいい声で笑いました。

 ひときわ大きな波がやってきて、船に体当たりしました。波はしぶきになって、操舵室のなかに入ってきました。

「アイちゃんとヒロくんとヒナちゃんは、船長室に行くといいよ。ここは危ないからね。それに、ヒナちゃんはおなかが空いているんじゃないかな」
「うん、そうするね。ありがとうシロクマ船長」

 アイちゃんとヒロくんは、ヒナちゃんを連れて船長室へ行きました。お昼に釣った魚がのこっていたので、ヒナちゃんにわけてあげました。ヒナちゃんはたくさん食べました。

 船はずいぶんゆれていましたが、ヒナちゃんがとってもかわいいので、嵐のことはあまり気になりませんでした。


【10】

 しばらくすると、船はあまりゆれなくなってきました。嵐はすぎ去ったようです。空も少し明るくなってきたようです。
 甲板に行ってみると、キレイな虹が出ていました。陸で見るのとは全然ちがう、丸くて、色がはっきりしていて、それはステキな虹でした。

 ワッドがスルスルとマストを登って、帆を広げます。

「もう大丈夫さ。嵐はずっとうしろに去っていったさ」

 ワッドの言うとおり、たちまちいい天気になりました。太陽の光が海をてらして、キラキラ光っています。

「アイちゃん、ヒロくん。嵐はこわかったかい?」
「ううん。ヒナちゃんがいたから、全然こわくなかったよ」
「ヒナちゃんはもうすっかり僕らの仲間だね」

 シロクマ船長が笑うと、ヒナちゃんも笑いました。
 そのときです、見張り台のワッドがさけびました。

「大変だ! またシャチのむれが来たさ!」

 嵐の去った方向から、たくさんのシャチの背びれが近づいてくるのが見えました。なんだか見おぼえのある背びれです。

「またオルカだな」

 オルカは海にもぐってすがたが見えなくなりました。そのほかのシャチは、船のまわりをぐるぐる回っています。しばらくすると、船がどかんとゆれました。

「わあ!」
「きゃあ!」

 アイちゃんとヒロくんはびっくりして、ひっくり返りました。

「わっはっはっは! オルカさまの体当たりはどうだ。おどろいたろう。お前らの船がしずむまで何回でもやってやるぞ!」

 オルカはまた海にもぐりました。

「まいったな。あんな体当たりを何回もやられたら、船に穴が開いてしまう」

 シロクマ船長はマストにつかまりながら言いました。

「そうだ! ぼく良いことを思いついた! アイちゃん、ちょっと来て」

 ヒロくんは、アイちゃんを連れて走りました。

「どうするの? ヒロくん」
「船長室にあるアカエイの干物を使うんだよ。弓矢を作ろう」
「どうしてアカエイなの?」
「アカエイのしっぽには毒があるんだ」

 ヒロくんは包丁で、カベにぶらさがっているアカエイの干物からしっぽを切りはなしました。そして、アイちゃんはそれをガリガリとけずって弓矢を作りました。

「できた!」

 弓矢ができたとき、また船がどかんとゆれました。オルカの体当たりです。

「船に穴が開いちゃう!」
「いそごう!」

 アイちゃんとヒロくんは、走って甲板に戻りました。
 そのときちょうど、オルカが海のうえに顔を出しました。

「オルカ様の体当たりはどうだ! 今日こそあの大きいイカとタコを食ってやるからな! わっはっはっは!」
「シロクマ船長、これを使って!」

 アイちゃんは、アカエイのしっぽの弓矢をシロクマ船長にわたしました。

「ありがとう。かっこいい弓矢だね」

 シロクマ船長はそれを受け取ると、弓をぐぐっと引きました。竹がしなってぎゅっと音がします。
 シロクマ船長はオルカの口をねらいました。びゅん。アカエイのしっぽの弓矢はオルカの口に飛び込んで、ノドのおくのほうにささりました。

「いたっ。あれ、なんかいたい。なんかしびれる。あれ、いたい。いたいいたい! いたああああい!」

 オルカはその場でぐるぐる回りますが、弓矢はとれません。

「いたいいたい! うぎゃああああ!」

 オルカは泣きながら、遠くのほうへ行ってしまいました。シャチのむれはオルカを追いかけて、みんないなくなりました。

「やったぁ!」
「オルカをやっつけた!」

 トパスとワッドも大よろこびです。

「アイちゃん、ヒロくんありがとう!」

 トパスとワッドは、アイちゃんとヒロくんのまわりを飛びはねました。ヒナちゃんもマネして飛びはねています。

「うん。本当にありがとう。もうこれで安心だね」

 シロクマ船長は言いました。

「さぁ、南十字星へ向かってまっすぐ進もう」
「あいあいさー」


【11】へ続く

全12話 6日間連続公開予定です。スキ、シェアいただけたら励みになります。
寝かしつけに読んでみました、なんてお話をいただけたら望外の喜びです。
Special Thanks : イラスト ひらのかほるさん

電子書籍の表紙制作費などに充てさせていただきます(・∀・)