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出勤!中間管理職戦隊ジェントルマン 第2話 承認と顕示 【3,4】

<1,800文字・読むのにかかる時間:4分>

1話を10のシークエンスに区切っており、5日間で完話します。第1話はこちら。

1,2】はこちら

【 3 】

「おはよう! 我が阿佐ヶ谷研究所の、紳士淑女のみなさん!」
 阿佐ヶ谷博士はクローゼットに直行して、白衣に袖を通した。

「お。皆さん、緑茶パーティ中ですか。ベストチョイスですね」
「ベストチョイス?」
「そう。なんとここに、大浦堂のきんつばがあるのです。じゃーん!」
 博士は、老舗和菓子屋大浦堂の紙袋をかかげた。
「私の前の職場じゃないですか」
 トリカワポンズが言う。
「そうです。前回のトリカワポンズの闘いぶりを見ていて、ああ、大浦堂のきんつばが食いたくなってきたなぁって思ってたんですよ」
「あの戦闘中にそんなことを?」
「ええ。考えていました」
「考えてたんですか」
「なにか問題でも?」
「いや、別に」

 アゲダシドウフが緑茶を淹れなおし、全員でテーブルを囲んできんつばを味わった。
「ああ、美味い。大浦堂は名物が多いですが、きんつばが一番です。そして緑茶とのマリアージュ。寿命が百年は延びました」
「延びすぎでしょ」
「確かに美味しいですね。幸せな気分です」
「あれ、ひょっとしてみんな、つぶあん派ですか?」
「その話題は却下です」
 博士の冷たい声が響く。
「え? どうしてですか?」
「どうしてもです」
「ど定番トークじゃないですか」
「ダメです。きんつばの味に集中してください」
「はあ」
 この話題の最中、千堂は無言を貫いている。

「博士。質問いいでしょうか?」
「なんでしょうか。ナンコツ」
「さきほど千堂さんからアクアリウムについてのレクチャーを受けたのですが、わからない点があります。高濃度のエスエナジーがアルケウスを産むなら、そのエスエナジーの集中はなぜ起きるのでしょう」

 博士の白すぎる犬歯が剥き出しになった。小豆がはさまっている。
「それでは可能性をひとつづつ潰していきましょう」
「あ、はい」
「まずそれは、マングースの仕業ではありません」
「は?」
「下水道局の仕業でもありません」
「ええ?」
「カマキリの産卵とも関係ありません」
「可能性の潰しかたが下手すぎません?」
 ナンコツはメガネのブリッジを触ろうとしたが、指がベタついているのでやめた。

「大気中に漂っているだけのエスエナジーが、自然現象によって集中するわけないですよね。意図的にそれをやっている者がいるってことですよ」
「……それはいったい」
 博士の口角がふたたび上がった。まだ小豆はとれていない。

【 4 】

「……それはいったい」
「人間の欲望を利用して、おそるべき悪事を働こうとしている組織です」
「おそるべき悪事……」
「ええ。背筋が凍ります。私たちは必ずそれを阻止しなければなりません」

 ふと、トリカワポンズが腰を浮かせた。
「あれ。いま水槽の色が変わったような」
 全員の視線がアクアリウムに集中する。
「変わってますか? 透明なままに見えますが」
「気のせいじゃないですか」
「いや、ほんの一瞬、うっすらと」
 千堂がアクアリウムのアーチを足早にくぐり、コントロールエリアのモニターを確認する。
「高輪近辺でほんの微量のエスエナジー増加を認めていますが、しかしこれ、よく気づきましたね」
「念のため、出動しましょう」
 阿佐ヶ谷博士は立ち上がり、白衣の袖で口元をぬぐった。

「きんつばも、食べ終わったことですし」

 転送された三人は、高輪台駅にほど近い、桜田通りの中央分離帯で呆然としていた。
「来たはいいけど、どうしたらいいんでしょうか」
『前回と同じです。なにか異常を感じませんか』
「ええ。感じるといえば、感じますが」
『どのような?』
「植え込みの小枝が私たちの足に突き刺さっています」
『なるほど。他には?』
「道ゆく車からの視線が痛いです。メン・イン・ブラックのコスプレしたおじさん三人が、中央分離帯から生えてるんですよ?」
『では次は渋谷ですね』
「話聞いてます?」
『聞いたうえで言ってます』
「そうですか」
『渋谷でも同程度の微量なエナジー上昇が見られましたので、転送します』

 その後、渋谷と目黒に転送されたジェントルマンは、なんの収穫を得ることなく阿佐ヶ谷研究所に帰還した。

「空振りでしたね」
 千堂が、白衣の後ろ姿に声をかけた。
「まぁ、あまりに微量すぎて場所の特定が難しかったからなぁ」
「自然現象ってことはないですか?」
「ないことはないが。ただ、なんとなく」
 博士は顎に手を当てて、二秒ほど考えた。
「なにかを企んでいる気がする。あいつが」

 つづく

電子書籍の表紙制作費などに充てさせていただきます(・∀・)