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七つの翼を持つもの

Nov.19  13:45  南太平洋
訓練中のニュージーランド空軍機が偶然発見する

Nov.19  13:52
当該機を見失う  同時にレーダーから消失

Nov.26  08:12  クイーンズランド沖
豪空軍哨戒機が目視にて再発見

Nov.26  16:44
当該機を見失う  同時にレーダーから消失

Dec.2  12:36  マーシャル諸島
米空軍機が再々発見 追尾中


 扉をノックする。緊張感とは裏腹にマホガニー材は軽妙な音を立てた。
「やぁ中尉。すまなかったね。休暇中に」
「いえ。娘は思春期でして。父親が不在のバースデーパーティのほうが好みのようです」
「私にも心当たりがある。娘さんはともかく、奥方は?」
「理解ある妻ですので。ただ次の結婚記念日には高級ディナーを予約する必要ができました」
 微笑んだあと、彼の上官は壁面のモニターに一枚の静止画を映し出した。
「これは777-300ERですね。ハンサ航空の……」
 そこまで口にして、トム・バクスター中尉の顔色は急転した。
「現在、第36航空団が追尾中だ」
「……飛行していると?」
「私も報告を疑ったがね。間違いなく飛行中だ。以前と変わらぬ姿で」
 上官は画像を拡大した。主翼の付け根のあたり。同じ形の窓が規則正しく並んでいる。そこには、ガラスに手のひらを張り付け、平行飛行している軍用機に目を輝かせる子どもの顔があった。
「それで、なぜ私をここに?」
「察しているとおりさ。君とおなじ姓を持つ名が、この便の搭乗リストにあるからだ。7年前に航空機ごと行方不明になった、君の両親のな」

Dec.31  12:00 グアム沖
強行偵察作戦開始

「とんだ年末だな!」
 壁のような風圧が鳴らす爆音。それでもイヤホンから声が帰ってきた。
「中尉。機内で新年を迎えましょう! 乾杯はドンペリで!」
 マッハ0.84。高度32,000ft。そこに彼らはいる。
 胴体上部に取り付けた特殊吸着盤。それを足がかりにしたワイヤーロープだけが、文字通りの命綱だ。


つづく

電子書籍の表紙制作費などに充てさせていただきます(・∀・)