トパスとワッドとシロクマ船長 【7】【8】
「ねるまえのはなし」という電子書籍に収録予定の短編を、連載形式で掲載することにしました。こどもを寝かしつけるときの、読み聞かせに使ってもらえるような本を目指しています。
【7】
「シロクマ船長。アホウドリが向かったのは、たぶんこの島ね」
トパスは言いました。
島はガケにかこまれていて、船を止められる海岸がありません。
「アイちゃん、ヒロくん。あの島は海岸がないみたいだから、上陸するのに大きななわばしごがいるかもしれない。船の後ろのほうに、ロープがたくさんあまっているから、作ってくれるかい?」
「え? わたしたちが作っていいの?」
「うん。たのめるかい?」
シロクマ船長から仕事をもらったふたりはうれしくなり、トパスとワッドがやったみたいに敬礼をしました。
「あいあいさー」
アイちゃんとヒロくんは急いでロープを探しにいきました。
しばらくしてトパスは、ガケに船を近づけました。ガケの高さは、船の甲板よりずっと高いので、やはりそのままでは上陸できそうにありません。
「それじゃあ、アイちゃんとヒロくんが作ってくれたなわばしごを、あたしがあずかります。今回はあたしも一緒に行きますよ」
トパスはアイちゃんからなわばしごをうけとると、ガケをスルスルと登って行きました。すがたが見えなくなってしばらくすると、なわばしごがカラカラとおりてきました。
「さぁ、しっかりと木にしばりつけたから、登ってきてね」
トパスが言いました。
最初にヒロくんが、次にアイちゃんが登りました。シロクマ船長が登るときは、さすがになわばしごがギシギシと音を立てたので、ふたりはどきどきしました。なんとかシロクマ船長も、ガケを登ることができました。
「それじゃあ、ワッドを探しに行こう」
シロクマ船長が言い、みんながうなずきました。そのときヒロくんは、黒い影が、すごいスピードでみんなの足元をよこぎったのに気づきました。でも、あまりに早くてよくわかりませんでした。
「上のほうの野原まで行ってみよう」
シロクマ船長とトパスとアイちゃんとヒロくんは、坂道を登って行きました。坂道を登り切ったところしげみがありました。しげみの向こうを見てみると、たくさんのアホウドリの巣がありました。
「ここは、アホウドリのコロニーだね」
「コロニー?」
「うん。みんなで暮らしている、アホウドリの町だよ」
「うわぁ。こんなに巣があったら、どこにワッドがいるかわからないよ」
そのとき、しげみの中を、黒い影がすごいスピードで通りすぎて行きました。
「あれ? アガチ?」
ヒロくんは思わず呼びました。すると、黒い影はぴたっと止まりました。
「ひょっとして、そこにいるのはアガチなの?」
黒い影がガサッと飛び出して、葉っぱの上に立ちました。みんなビックリしてひっくり返りました。それはアガチとおなじ色ともようをした鳥でした。
「オレはアガチじゃないね。アガチョだね。アガチはオレの弟だね」
アガチそっくりのアガチョは、アガチそっくりの早口で言いました。
「ええ? アガチのお兄さんなの?」
「うん。そうだね。オレはアガチのお兄さんだね。君たちは弟のことを知っているんだね」
「うん。アガチの住んでいる島に行ったんだ」
「オレはその島で一緒にくらしていたんだね。だけど、台風の夜に流されてしまったんだね。それでこの島にたどり着いたんだね」
アガチョはみんなの周りを走り回って、きっかり三周しました。
「オレたちヤンバルクイナは飛べないんだね。だから帰ることができなかったんだね」
「そうだったんだ」
シロクマ船長はワッドのことを知らないかたずねました。
「大きなイカのことだね。それなら知っているね。どの巣にいるかわかるから、オレは案内できるね」
「それじゃあアガチョ、僕たちを連れて行ってくれるかい?」
「いいけどね。ついてきてね」
そう言うとアガチョはしげみを飛び出し、ものすごいスピードで走って行きました。アイちゃんとヒロくんはあわてて追いかけました。その次にトパス、最後にシロクマ船長がつづきます。
とつぜん人間のすがたをみたアホウドリたちは、おどろいてみんなばっさばっさと飛び立ちました。たくさんの巣はみんな留守になりました。アホウドリたちは島の上をぐるぐる飛び回っています。
「ここだね」
アガチョが立ち止まった巣をのぞき込むと、いました。ワッドです。
「ワッド!」
「うーん」
ワッドは、目を回して気をうしなっているようです。
トパスはワッドをだきしめました。
「よかった。食べられていたらどうしようかと思った」
やっとシロクマ船長が追いついて、空を見上げて言いました。
「ワッドがぶじでよかった。けど、アホウドリたちがさわいでいるね。そろそろ戻ってくるかもしれない」
「あんなにたくさんのアホウドリがいっせいに戻ってきたらどうしよう」
アイちゃんは不安になりました。
そのときです。一羽の大きなアホウドリが、シロクマ船長たちに向かってまっすぐにおりてきました。
「あんたたち! ワタクシのおうちにいたずらするなんてゆるさないから!」
ワッドを連れさったあのアホウドリでした。それだけではありません。他のアホウドリたちもみんな、つづいておりてきます。
みんなは、おおあわてでワッドを助けようとしました。
【8】
トパスはあわててワッドを助けようとしました。あんまりあわてたので、アホウドリの巣ごと持ち上げてしまいました。そして、そのまま三本のうででかつぎあげました。
「みんな、逃げよう!」
シロクマ船長の声で、みんないっせいに逃げました。アガチョも一緒です。
しげみを走って、坂道を走って、なわばしごをおりて、なんとか船に戻りました。アイちゃんとヒロくんが帆を広げて、船は進みだしました。
アホウドリたちはしばらく船の上を回っていましたが、船が島からはなれると、やがて追いかけるのをあきらめて、戻っていきました。
「うーん。あれ? ここはどこ?」
気をうしなっていたワッドが気づいたようです。でもまだ少し、目が回っているみたいですね。
「ワッド。もう大丈夫。きみは船に戻ってきたんだよ」
シロクマ船長がやさしく言いました。
「オイラ、空を飛ぶゆめをみたのかな。なんだか空飛ぶイカになった気分」
ワッドがうでをくねくねさせながら言うので、みんな楽しくなって笑ってしまいました。ワッドはもう大丈夫みたいです。
「アガチョ、ありがとう。君のおかげでワッドを助けられたよ」
シロクマ船長がお礼を言うと、アガチョはシロクマ船長の肩に登りました。
「お礼なんていらないね。でも、ついでに弟のいる島まで連れていってほしいね」
「もちろん、連れていってあげるよ」
アガチョはシロクマ船長の肩でぴょんぴょんとびはねました。
「あれ、アガチョの足についてるのって」
ヒロくんが気づきました。アガチョの左足についているのは、なんと、紫色のアンクレットだったのです。
「これは、オレのアンクレットだね。弟の右足にも、同じものがついているはずだね」
アガチョは言いました。
「それじゃあ、アガチが探している宝物っていうのは、つまりお兄さんのことだったんだ」
「そうか、きっとそうだね。じゃあ、アガチョと一緒に帰れば、アガチのおねがいも、かなえてあげることができるんだね」
「アガチョ、僕たちと一緒に、アガチのところへ行こう」
シロクマ船長がそう言うと、アガチョはうれしそうにみんなの周りをきっかり三周しました。
しばらくして、船はアガチの島に戻ってきました。
シロクマ船長とアイちゃんとヒロくんは、アガチョを連れて、洞窟のおくのアガチの部屋まで行きました。するとアガチは、びっくりしてとっても高くジャンプしました。そのあと、アガチとアガチョはバタバタと走りまわって、部屋のなかをきっかり十五周しました。よっぽどうれしかったんですね。
「シロクマ船長、オレの宝物を見つけてくれてうれしいんだね。これでまた一緒にくらすことができるんだね」
「うん。本当によかった」
「だから、シロクマ船長は南に向かうといいんだね」
「南に?」
「そうだね。まえに、この島にやってきたやつから話を聞いたんだね。そいつはオレと同じように飛べない鳥なんだね。そいつが、赤い旗のことを知っていたんだね」
「そうなんだ。それで、その飛べない鳥は、南から来たんだね」
「そうだね。そいつの島に行くには、ここから、南十字星に向かってまっすぐに進めばいいんだね」
「うん。わかったよ。ありがとう、アガチ」
シロクマ船長とアイちゃんとヒロくんは、アガチとアガチョにお別れをいって船に戻りました。
甲板に戻ると、トパスとワッドがうでをくねくねさせながら、シロクマ船長にたずねました。
「シロクマ船長。次はどこへ向かうの?」
「南へいくよ。南十字星に向かって、まっすぐね」
トパスとワッドは顔を見合わせてから、ふたりともおなじように敬礼をしました。
「あいあいさー」
ワッドはマストをするすると登って、帆を広げました。トパスは操舵室に戻ってハンドルを回しました。
「さぁ、出発だ!」
シロクマ船長のかけ声で、船はゆっくりと進み始めました。白い帆は風をめいっぱい受けてふくらんでいます。海面では、たくさんのトビウオがジャンプしているのが見えました。
全12話 6日間連続公開予定です。スキ、シェアいただけたら励みになります。
寝かしつけに読んでみました、なんてお話をいただけたら望外の喜びです。
Special Thanks : イラスト ひらのかほるさん
電子書籍の表紙制作費などに充てさせていただきます(・∀・)