日々を抽象化してセンスを磨きスタイルを育てよう~戦略読書日記

この記事は「戦略読書日記」楠木建 を読んだアウトプット記事です。

競争戦略とイノベーションについて研究している読書家の大学教授が、日記形式っぽく良本を紹介しながら「本質を抉りだす思考のセンス」「経営と戦略の本質」みたいなものを浮かび上がらせていくというような本でした。

いま、経営戦略について研究している自分にはぴったりの本で、著者の代表作「ストーリーとしての競争戦略」を含め、紹介されている大部分の本を買ってしまいました。

さて、本書はビジネス書の体裁をとっていないので、要約するのに不向きですが、本来数冊に分けるくらいの内容をあえて1冊に詰め込んでくれたのだと解釈します。なるべくどんな仕事においても応用できるような階層づけをいしきしてざっくりまとめてみました。

なお、抽象化の重要性を繰り返し説いている点は、「メモの魔力」に通じる点があります。

戦略を抉りだす思考のセンスについて

何かを考える時、それが「何でないか」を併せて考えると本質が見えてくる。

知識は知識のままでは血肉にならない。
自分にとっての面白さをパターン化して何処に自分のツボがあるかを考えてみる。知識が論理化・抽象化されること、つまり「面白がる才能」があれば知識が血肉になる。

例えば、著者のパターンは

①ガツンとくる~「要するに何なのか」の本質に迫っていく面白さ。コクがある。
②ハッとする~すでに知られていることに対して、掘り下げたりうまく説明するような新しい論理の発見、または逆説の提示を行う面白さ。キレがある。
③ズバッとくる~エレガントな論理が構成されていることによって、極めて少数の構成概念であらゆる現象を斬っていく面白さ。
④じわじわくる~ある仕組みや事象が「実際のところどうなっているのか」を細部の細部まで入り込んで解き明かしていく面白さ。

具体と抽象の間を往復できる幅とスピードが高ければ高いほど、作業ではなく「頭を使った仕事」の能力が上がる。
 →つまり知識を得る、スキルを伸ばすのではなく知性を得る、センスを伸ばすためには抽象化が必要

スキルとセンスの違いについて

スキルというのは努力すれば誰でも伸ばせる能力で、数値化して比較検討することが容易。
対してセンスというのは人それぞれ。スキルが授業で伸ばすものならセンスは課外授業。「異性にモテる」センスがいい人は、何故モテるのかが一人一人異なる。

センスにおいては一義的な「優れた」はない。「持ち味」が違う。

センスがあるというのは、自分を相対化している、自分の中に論理、原理原則を持つということ。場数を踏むか、読書などによって疑似的に場数を踏むことによって育つ。センスというのは因果律の引き出しが豊かであること。失敗の要因を抽象化、論理化した積み重ね。感がいいとは、文脈を越えて応用が利く論理の束。直感と論理は別のものではなく、コインの裏表。

自分のセンスをつかみ、芸風を意識的に育て、それにフィットするように仕事をすることは決定的に重要。スキルにはそれに対応した労働市場ができている。今後どんどんスキルは代替されるようになっていく。しかしスタイルは代替できない。

経営者の本質について

スキルで仕事をするのは「担当者」。例えばグローバル戦略を手掛けることは「担当者」にはできない。

自分の原理原則に忠実に行動していれば、相場や市場が勝手にブレて「逆張り」になる。戦略の本質は違いをつくることにあるが、奇を衒うということではない。

組織のあらゆる機能は、今や市場に開放されている(アウトソーシングやAIなどで代替可能である)。何故自社は組織として存在し続けるべきかについて、誰もが納得する考えを持っておかねばならない。

全ての良い経営者の最も重要かつ本質的な要素は情緒的態度である。

「何のために」が抜けて「どのように」ばかりが先行する事業は必ず破綻する。人の気持ちや判断が入ってはじめて動くのが戦略。戦略不在の目標先行は失敗する。

リーダー=ストーリーを語る人。

良い戦略とそうでない戦略の違いについて


競争戦略には大きく分けて二つの方向性がある。
①ポジショニングによって優位性を得る~アウトサイドインの考え方。トレードオフ論理を重視することによる、事前能力による差別化であり、経営者の意思決定によるところが大きい。戦略の焦点は、因果関係の時間展開を「順列」でストーリーにしていくことにある。

優れた戦略ストーリーは、様々な要素が「直列」でつながっていなくてはならない。各要素が「並列」になっていて、一要素だけ切り出して短く説明できるというものではない。つまり静止画ではなく動画になっていなければならない。

皆が正しいことをしようとすると、他社との差異は生まれない。客観的な正しさにとらわれて、自分の中の切実なものを衰弱させてはいけない。

「イノベーションのジレンマ」~正しい経営がイノベーションの芽を摘み取ってしまうことがある。

②能力によって優位性を得る~インサイドアウトの考え方。能力を強化し、模倣困難性を得ることで差別化を図る。事後的に合理性を得ることによる差別化であり、戦略の焦点は、能力を構築していくプロセスの方にある。

既存の要素の強化、新しい要素の追加というのは、ストーリーとしての戦略にはなりえない。

スポーツ選手などの個人でなく組織が差別化を果たすためには、偶然を必然に変える個別企業の能力が必要となる。つまり、試行錯誤の結果生まれた意図せざる解を、意図的に競争力としてシステム化していく創発のプロセス。様々なテクニックがあるが、一言で言うと「日頃の心構え」。

まとめ

①物事を抽象化、相対化する能力を育て、自分なりの論理を手に入れること
②スキルとセンスの違いを理解し、自分なりの論理を軸にしてセンスを育てること
③センスで仕事をするということは、自分独自の論理でブレずに仕事をするということであり、組織において必要なのはストーリーのある戦略を語って人を動かすこと
④戦略とは競争優位性を得るということであり、本来の意味での戦略はポジショニングをとること。そのためには静止画ではなく動画でビジョンを描くことが必要。一方、能力によって競争優位性を得るには、試行錯誤の結果生まれた意図せざる解を、意図的に競争力としてシステム化していく創発のプロセス「日頃の心構え」が重要になる。


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