ヘッドホン片手に走る少年

 先日ヘッドホンを片手に走る少年を見た。年の頃は9歳か10歳。小学生だろう。

 それにしても、ヘッドホンを頭にかけず、手に持って走るとは奇妙である。小学生ぐらいでは音楽を聞きながら往来を歩くということもあまりしないのかもしれない。ではなぜ、ヘッドホンを手に道を急ぐのか。

 おそらくあれは、背中のリュックに任天堂スイッチを入れ、友人の家へ急ぐところであったのだろう。ヘッドホンは、友人と一緒に『フォートナイト』を遊ぶときに装着するために持っていたに違いない。

 今や、小学生が友人宅に集い、ヘッドホンをつけながらFPSに興じる時代なのかもしれない。ご存知の通り、FPSを遊ぶなら(他の3Dゲームも大抵そうだが)周囲の状況が音からも把握できるヘッドホンは、必須のアイテムと言える。特に、画面に映っていない背後の敵の動きが、音で把握できるヘッドホンは、ゲームの勝敗を分ける重要なガジェットだ。

 自分一人、部屋でゲームをしていてすら、ヘッドホンが必須と感じるのだから、友人と一堂に会してFPSを遊ぶとなれば、ヘッドホンなしではどちらから敵が来ているのか、まったくわからないだろう。周囲に雑音があればあるほど、ゲームでの状況把握は不利になる。友人とわいわいゲームを遊ぶとなれば、その音を聞き分けることは難しいだろう。なるほど、小学生がヘッドホンを片手に走るわけだ。

 もちろん、ヘッドホンを片手に走る少年の真相は謎のままだ。しかし、今は任天堂スイッチのような携帯(もできる)ゲーム機があり、しかも今までならPC上で動作していたような、3D表現のFPSを、そのゲーム機で自在に遊ぶことができる。もちろんヘッドホンがあれば、我々は立体空間の音像を、その場にいるかのように体験することも可能だ。

 要するに、少年がヘッドホンを持っているだけで、そこまで想像できるようなゲーム環境が我々の身近にはあるということだ。そう思うと、我々のゲーム環境は、何という未知の領域にまで達することができたのだろう。これは、ゲーマーとしては素晴らしいことだと感じずにはいられない。

 オンラインでゲームを遊ぶとき、僕はいつもそんな進化したゲーム環境に思いを致しながらゲームをする。今、僕をヘッドショットで倒した敵は、ことによればあのときヘッドホンを手にして走っていた少年なのかもしれない。

 僕らは何という未来に生きているのか。


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