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小野不由美のホラー3選

 十二国記の新刊が話題の小野不由美。個人的には何冊か刊行されているホラー小説がとても好きなので(誠に季節外れながら)紹介してみようと思う。

営繕かるかや怪異譚

 古めかしい町に建つ古めかしい家で起きる怪異ばかりを描いた6篇の短編集。静かに、しかし曰く付きの古民家に漂う怪異が、実に恐ろしげに描かれているのだ。どのエピソードも、身の回りにあるちょっとした違和感から始まる。そして、それが気づかぬうちに日常を侵食しているところに怖さを感じる。そんな怪異を、ちょっとした家の改修で(あるいは改修ですらない小さな工夫で)解決していく営繕屋(大工)の尾端。登場場面も少なく、とても地味な印象なんだけど、おおいなる存在感のあるキャラクター。そこがこの作品の魅力でもある。
 最近『その弐』が発刊された。いずれそちらも読んでみたい。

鬼談百景

 小野不由美が、読者からの手紙に書かれた体験談をもとに構成したという短編怪談集。そう言われると確かに、先日紹介した『ゲームマシンはデイジーデイジーの歌をうたうか』に、「読者からの手紙に書かれている怪談を集めている」ということが書かれている。実に20年以上、怪談を蒐集していたということか。
 どこかで聞いたような話もあれば、まったく初めて聞く奇妙なできごともある。ちょっとした怪異に対する不安を掻き立ててくれるような、身近な話題が、この小品群にリアルさを添えている。
 なお、『百景』と銘打ってあるが、実際には99篇しか収録されていない。残りの1篇は、次に紹介する『残穢』に続くのだ。そんな小技もファンとしては嬉しいところ。

残穢

 『鬼談百景』に続く、100篇目の怪異。土地と家にまつわる奇妙なできごとをメインとした話。非常に大掛かりかつ複雑な仕掛けで、過去の因縁に由来する呪いが語られる。その構成力が素晴らしい。
 主人公は、小野不由美自身をモデルにしたであろう作家。彼女が、怪異について調査をすすめていくドキュメンタリー仕立てで物語は展開する。徐々に謎が解き明かされていく過程が非常におもしろく読める。そういう意味では、ホラーと言うよりは、ミステリのようなテイストもあって、ついつい引き込まれて読んでしまう。主人公以外にも、実在の作家をモデルにした人物が登場したりして、上手に現実と空想を混ぜてくれる。それが、リアルな恐怖感につながっていて楽しいのだ。

 というわけで、3冊紹介してみた。おもしろいことに、小野不由美自身は彼女の著書の中で「超常現象はまったく信じていない」ということを明言している。怪談話は信じないけれども、その雰囲気を楽しむのは好きだというスタンスで、こういう話を創作しているというのだ。
 でも、人間の想像力の素晴らしいところは、信じていなくても、その雰囲気や登場人物の恐怖を感じ取れることだ。僕自身も全然オカルト的なことを信じていないのだけれども、ホラー映画やホラー小説が(そしてホラーゲームも!)大好物である。若いときからずっと、それらの作品を通して「恐怖」の感情を想像し、楽しんできた。どうやら、この愉しみはいくつになってもやめられないようだ。

 なお、『鬼談百景』『残穢』については、映画化されている。小説の雰囲気を上手に映像化している良作だが、その話はまた別の機会に。


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