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スティーヴン・ウィルソンを聞こう

 先日紹介したポーキュパイン・ツリーの中心人物であるスティーヴン・ウィルソンのアルバムを聞いている。

 スティーヴン・ウィルソンのソロアルバムは、バンドであるポーキュパイン・ツリーよりさらにメタル色は薄い。薄いと言うより、彼のソロアルバム単独ではメタルと関連付けて語ること自体無意味だ。

 そもそもポーキュパイン・ツリーのサウンドが、どちらかと言えばサイケデリック、テクノ、アンビエントといった文脈で語られる。そうした楽曲からさらにスティーヴン・ウィルソンの多様な音作りを抽出・純粋培養したようなアルバムばかりで、それはもうメタルとかプログレとか単純なくくりはできないのである。

 それでも一様に美しく物憂げに、あらゆる楽器を駆使して曲を紡いでいくサウンドメイキングは、常に挑戦的で、そういう意味では文字通りプログレの文脈を含んでいるサウンドだ。これは、プログレの歴史を紐解いていくと、クラフトワークのようなテクノサウンドが登場するのにも似ている。

 そのスティーヴン・ウィルソンだが、ここ数年は、イエス、キング・クリムゾン、ジェスロ・タルと言った、プログレの大御所たちのアルバムをリミックスするというビッグな仕事を任されている。これがまた繊細かつ研ぎ澄まされたサウンドでかつての名盤が蘇っているようだ。(とは言えプログレファンはうるさいので様々な意見あり)

 ともあれ、そうしたエンジニア的な視点を持ちつつ、様々な楽器のマルチプレイヤーでもあるスティーヴン・ウィルソンが、その持ち味を生かして作り上げるソロアルバムは、実に多様なテクニックで音空間が埋められており、それを聞いているだけでも楽しくなってくる。しかし、核心であるメロディセンスには一分の揺るぎもないのが美しい。ある意味潔くて、スッキリした楽曲に聞こえながら、随所にテクニックがふんだんに盛り込まれているのが贅沢なのだ。

 そんなスティーヴン・ウィルソンであるが、2017年には『Last Day of June』というゲームに楽曲を提供している。過去に遡って失われた愛する人の命を救うという重いテーマのゲームなのだが、美しいヴィジュアルとスティーヴン・ウィルソンのサウンドが相まってアーティスティックな作品に仕上がっている。こういう作品も合わせて楽しんでみたいところだ。


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