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発火点 (創元推理文庫) | C・J・ボックス, 野口 百合子

 米国ワイオミング州を舞台とし、猟区管理官ジョー・ピケットを主人公とする大自然の中で起こる犯罪を描いたミステリ。作者のC.J.ボックスの作品は初めて読んだのだが、ジョー・ピケットシリーズは19作を刊行している(うち、日本語翻訳は13作)人気シリーズだ。

 作者自身がワイオミング州出身ということで、広大な自然の中に溶け込んだちっぽけな人間の無力な姿がリアルに描かれている。それでいて、凶悪な犯罪とその裏に潜む陰謀が淡々と解き明かされていくところに、この作品の魅力がある。

 不思議なもので、日本語訳された物語を読んでいようとも、登場人物の立ちふるまい、彼らの暮らしている空間、日常の風景。そういうものを読むにつれ、まるでアメリカのテレビドラマを見ているかのような錯覚に陥る。それだけ文章の表現力が豊かで、かつ登場人物の生活がディテールまで雄弁に語られているということだろう。だからこそ、物語の雰囲気を十分に感じ取れる。同時に、翻訳の素晴らしさも感じる1冊だ。

 ストーリー全体を見ると、凶悪な殺人事件、テンポのよい追跡劇、大自然の驚異、アメリカ社会の闇。多彩な要素が、破綻なく詰め込まれて読み応えがある。もう20年も前から続いているシリーズ作だけあって、以前の作品も読んでみたくなった。


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