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天上の葦 上 ・下(角川文庫) | 太田 愛

※物語のテーマについて若干書かれています。ネタバレではないですがご注意ください。

 現在は主に小説家として活躍している太田愛。もともとは、1996年にテレビ放映していた『ウルトラマンティガ』の脚本家でデビューした脚本家だ。その後、ウルトラマンシリーズを何本か手がけ、『相棒』などテレビドラマにも進出。2012年に『犯罪者 : クリミナル』で小説家デビューした。個人的には、テレビでの脚本作品のユニークな視点が目を引いたため、記憶に残っていた人だった。

 その太田愛が、2017年に上梓したのが『天上の葦 上・下』の長編ミステリだ。実は、この作品までに発表された『犯罪者』(2012)『幻夏』(2013)はどれも、修司という青年、刑事の相馬、興信所の鑓水のトリオが主人公のシリーズ物の体で書かれている。

 本作は、渋谷のスクランブル交差点のど真ん中で空を指差して亡くなった老人の秘密を突き止めてほしいという謎の依頼を受けた鑓水が、修司とともに、その謎を突き止めるため、過去の事件にまで遡り、調査を続けていくというストーリー。

 しかし、事件を探るうちに明らかになる、失踪した公安警察の存在。故あって停職中にも関わらず、調査に加わることにある相馬も加わり、部隊を瀬戸内海の島に移して、謎がひとつずつ解き明かされていく。

 本作のテーマは、巨大な権力と、それを監視する手段の戦いである。まったく謎に包まれた老人の行動から、国をも巻き込んだ巨大な犯罪が明らかになる。それに抗する鑓水たちの戦いが巧みに描かれているところが魅力だ。到底一個人が立ち向かえないであろう、警察権力をも巻き込んだ強大な敵に対してどうやって対抗していくのか、その展開のダイナミクスを楽しんでほしい。

 一人で興信所を営む鑓水と、そこへ転がり込んできた修司。ある意味、社会の奔流から少し外れた場所にいる2人が、社会の巨悪に立ち向かう姿は、ドラマ『相棒』にも似た視点の話作りで、太田愛の脚本を知らなくとも、そういう作品が好みなら楽しめる一作に違いない。上下巻という長編で、読み応えもたっぷり、密度の高い物語になっているので、この連休に読んでみるのもいいかもしれない。


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