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自分初と好奇心の赴くままに 〜防爆IoTカメラ発売の裏側で〜

「この問題分かる?」と聞かれると、つい「ヒント言わないで!」と言って、自力で解こうとしたこと、ありませんか?僕は子供の頃からそうでした。もしそれでいつも答えが見つかるならかっこいい話なんですが、現実はそううまくはいかず、答えが出ないまま没頭し続けることが多かったです(笑)。気が付けば時間だけが過ぎ、時にはご飯も忘れて一日中取り組んでいたことも。ルービックキューブも、マニュアルを読めば6面全部完成できるのに、まず自力で解こうとして結局3面で止まってしまう(笑)。朝顔の開花の瞬間を見たいと思い、玄関にある朝顔の前で夜中待機していたら眠ってしまい、起きたら咲いていたことも3回ありました。難しいテーマに好奇心を持ち、自分初の取り組みとして没頭している時間が、僕に取っては特別なんだと思います。


幼少期の私

さて、この度2024年9月18日に設備保全の点検向けで、「完全無線型 防爆対応IoTカメラLC-EX10」を販売開始することになりました。開発開始からリリースまで約3年。スピードが勝負のスタートアップにとって3年間というのは、永遠にも感じられる時間でしたが、支えてきたのは「好奇心」と「自分初の取り組み」だったと思います。この期間、どのように過ごしていたのかを気づきも含めて振り返りたいと思います。

業界初、点検専用の防爆対応IoTカメラ

「防爆対応はありますか?」がはじまり

2019年12月、初めてリルズ単独で展示会に出展。リモート点検用のIoT・AIソリューション「LiLz Gauge(リルズゲージ)」を出展しました。この時、来場者の皆様から「防爆対応はありますか?」という質問を受けたのを今でもはっきり覚えています。
展示会最終日、創業者4名で新橋のお好み焼き屋で打ち上げをした時に「防爆って何だろう?」「やたら聞かれるよね」という話になり、自分だけでなく全員がとにかく防爆というキーワードを聞いたのが始まりです。

初めての単独出展(当時4名)

当時のレポートを振り返ると、「防爆対応はありますか?」と化学やガス業界などエネルギー関係のお客様から最初に質問いただくケースが多く、当時の私たちには謎の質問でした。「すみません、防爆って何ですか?」とお恥ずかしながら来場者のお客様に聞き返したのを思い出します。

防爆エリアとは

防爆エリアとは、火災や爆発のリスクがある危険な環境を指し、石油化学プラント、化学工場、ガス施設、製油所、製薬工場などで見られる場所です。このようなエリアでは、可燃性ガス、蒸気、粉塵などが存在し、これらが空気と混合して着火源が加わると爆発や火災が発生する可能性があります。そのため、防爆エリアでは特別な設計や管理が必要とされることから、防爆認証を取得したソリューションでないと導入ができないという課題があることをその際に知ります。

特別な設計が必要な防爆機器群

難易度の高い構造で、小型化に挑む

私にとって、何度も全く同じフレーズで聞かれる「防爆対応はありますか?」という質問は、「君、この問題解ける?」と聞かれているように感じました。聞かれる度に好奇心が増大し、「防爆対応のIoTカメラを開発しよう」、と構想するのに時間はかかりませんでした。構想は30分だったと思います。
この構想のタイミングでは2020年6月にLiLz Gaugeを正式サービスインが控えており、初号機となるIoTカメラの量産対応やクラウドサービスのリリースなどに没頭していたので、正式に開発着手したのは、Series Aの資金調達を完了した2021年になります。

ここで機器を防爆対応するための実現方法について簡単に共有したいと思います。防爆に対応するための構造には主に以下の5種類があります。

5種類の防爆構造

防爆対応のカメラは、耐圧防爆が主流でした。耐圧防爆構造は、内部のカメラは非防爆の通常品を採用し、外側のケースで防爆を実現するというもので、比較的簡単に防爆が実現できます。しかし、耐圧防爆構造は重くなる点がデメリットです。
リルズのIoTカメラ初号機は、重さ約390gであり、市販のカメラアクセサリで簡単に現場に設置ができる取り回しの良さが最大の強みの1つです。市販のカメラアクセサリは、一般的に対荷重1.5kg程度のものが多く、耐圧防爆構造では設置は難しくなるため採用したくありませんでした。
非防爆エリアと防爆エリアで、ユーザー体験は変えたくないというのが構想のスタート地点にあり、構造上最も難しいとされる「本質安全防爆構造」で最初から取り組むことにしました。

本質安全防爆構造で小型・軽量化にチャレンジ

本質安全防爆構造は、PCB基板や筐体など設計側で火花が点火しないことを保証する構造です。ユーザー体験を変えないために「自分初」の取り組みとして立てた方針は以下3つです。

  • カメラのサイズを極力変えず、小型を維持する

  • 重さは500g程度を目標にする

  • 1日3回撮影で3年連続動作の性能を維持

この方針は、本質安全防爆構造を実現するためにはなかなか無謀なチャレンジだったと思います。小型を維持することと、PCB基板で火花点火しないという点の両立は相反するし、軽さの追求は、ボディの素材を金属ではなくプラスチックを選択することになるため、防爆構造に求められる過酷な環境要求下での期待強度と相反する。そもそも点火のエネルギー源となってしまうリチウムイオン電池を内蔵すること自体も、難易度の上がる高い取り組みとなりました。

試験不合格から合格に至るまで

設計が進み、2023年10月ごろようやく初号機が完成します。さまざまなチェックを経て、この完成品を認証機関に送り、最後の試験に挑むこととなりました。そして、2024年4月、いよいよ試験結果が出る!と期待に胸が膨らむ中、最終試験で不合格になったと連絡を受けました。関係各所には発売間近とお伝えしている中で、最後の最後の試験で不合格するということになり、パートナーやお客様には大変ご心配をおかけしてしまいました。

サンプル初号機(当時12名)

ここから合格となる2024年8月までの4ヶ月間は、精神的にもかなりキツイ期間だったと思います。実は不合格の連絡を受けた時、新橋でCFOの高木と丁度中期計画のプランニングをしていた時でした。「え、不合格だって」と連絡を受けてから、中期経営計画のプランニング会議が、即コスト圧縮会議に様変わりし、残キャッシュと照らし合わせながら今後の計画を見直さざるをえないことになりました。この危機に対してすぐ対策検討することができ、目の前に高木さんがいて本当に良かったなと改めて思います。

困った時に現れた救世主

実はこの不合格連絡を受ける3-4ヶ月前に2名のハードウェア専門家がリルズに参画してくれていました。ハードウェアPM 兼 メカエンジニアの直原さんと、製品QA&コンプラの小川さん。プロジェクト途中の参画にもかかわらず見事にキャッチアップし、この後の認証合格までの立役者となります。救世主ってこういう時のためにある言葉なんだなと。

不合格の内容を解析し、設計上の対策を施し、認証機関に再度申請、何度も何度もやりとりをする日々が続きました。出張ついでに伊勢神宮で合格祈願したことも。手元にはLC-EX10のPCB基板。

合格祈願(当時15名)

認証大詰めになると、小川さんがSlackでLC-EX10に檄を飛ばすことも。

製品に檄を飛ばす(当時17名)

さて、話は変わりますが、ショックアブソーバーという言葉をご存知ですか?私はこの言葉を、ちばてつやさんのゴルフ漫画「あした天気になあれ」で知りました。プレーオフで青木プロがライバルの大事なパットを「はずせ!」ではなく「入れろ!」「敵は絶対に入れてくる!」と自分に思い込ませ、入った時のショックをやわらげることで自身のプレーに影響がないようにするという方法です。

不合格が出て再申請中の期間、精神的な不安をやわらげるためにショックアブソーバーを使おう、ということで、「防爆カメラが認証合格するまで都内でホテルに泊まれません!」というゲームを勝手に自分に課すことに。創業1年目と同じようなカプセルサウナを転々とする環境に身をおくことで、防爆認証不合格の苦しさを少しやわらげようというものです。結構効果ありました(笑)。※ちなみに社員の方はちゃんとホテル泊まってます。

発売開始とアナウンスする予定だった展示会も、発売予定となり、新橋での打ち上げでは、CFOが心労で立てなくなることも。

心労が祟ってうずくまるCFO(当時17名)

このような状況下で、2024年8月初旬、ようやく最後の試験通過の連絡が届きました。

念願の合格連絡(当時17名)

なぜ防爆IoTカメラが発売できたのか

認証試験が通過したという連絡を受けた時、飛び上がって喜ぶかなと思ったんですが、腰が抜けてしばらく動けなかったのは初めての経験でした。
開発に3年かかりましたが、このような期間を経て、無事LC-EX10を発売することができました。おそらく、私が防爆に詳しくて最初から開発に3年かかる、と分かっていたら取り組まなかったかもしれません。自分にとって未知、つまり「自分初」の問題を解きたいという「好奇心」が最初の一歩を踏み出した原動力ではないかと思います。

そして、子供の頃「自分初」の取り組みで一人で頑張るだけでは3面までしか解けなかったルービックキューブも、素晴らしい仲間と一緒に取り組むと6面まで解ける、という喜びをこの年になって初めて実感できたのかな、と思います。

また、最後にこの商品のリリースにあたり、多大なるご協力をいただきました認証機関、防爆コンサル、量産工場、全ての設計者・開発者・QAメンバー、発売までじっと我慢してくださったパートナー各社、お客様、株主の皆様、チームメンバー、支えてくれた家族に感謝したいと思います。

これからも、自分初の好奇心と、支えてくれるメンバーの好奇心を大切にしていきたいと思います。

LC-EX10 商品ページ
https://lilz.jp/products/lc-ex

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