見出し画像

【映画】ザ・ウォッチャーズ

M・ナイト・シャマランといえば『シックス・センス』しか観てないんですごめんなさい。
あれは大層面白かったんですが、オチが強烈すぎて、そういうどんでん返しがすべての作家という印象を持ってしまいどことなく鑑賞の優先度があがらないままでした。
Apple TV+でプロデュースしたドラマ『サーヴァント ターナー家の子守』は最後まで観たんですけど、それぐらい。
今回の作品はその娘であるイシャナ・ナイト・シャマランの初監督作ということで、シャマランブランドでの売り込みに、やっぱりなんとなく期待感は低かったです。

が、観てみたら期待を大幅に上回るすごく面白い映画でした。
ホラーとしては薄味と感じる人も多そうですが、そこは上品さだとも思いました。
色々なイメージ、コンセプトの読み方ができるように思えて、ジャンルムービー的ではない作りなのですが、私としては好みの作風です。
ヒロインを演じるダコタ・ファニングは私としては『宇宙戦争』以来で、あのお嬢ちゃんがこんなガタイのいいお姉さんに育ってたのかと思いましたが、作品を引っ張るのに十分な力量がありましたね。
ということで、ホラー的なものにある程度耐性がある方にはおすすめできる映画です。

以下は、観ようかどうか迷っている人向けのネタバレ感想。



なんとなく、監禁ものサイコサスペンスのような設定から始まりますが、その要素は意外と少ないです。
正直、石井隆の『花と蛇』とかそういう感じかというとそんなはずはなく(あたりまえですが)、監禁されて精神がおかしくなる、っていう部分はそこまで深く描かれていなかったと思います。
「ウォッチャーズ」の正体も意外と早くわかります。
でもそこからの物語がとても面白かったです。
その存在に直面した人間は、ウォッチャーズに何を思い、期待し、託そうとするのか。
ウォッチャーズという文学的装置をしっかり映画にしてたなと思い、そこがすごく面白かったんですよね。

上にも述べたように、ホラーとしては薄味だと思います。
クラシンスキーの『クワイエット・プレイス』と同じぐらいかも。
でもテーマの掘り下げはとっても良くて、ホラーというジャンルをうまく活かしたと思います。
そのへん、期待の方向によってハズレと思ってしまわないようお伝えの上で、おすすめできる次第です。
私にとっては期待以上と感じたわけですが、良い意味での期待はずれだったのかもしれませんね。




さらに以下、観るつもりがない人ともう観た人向けのネタバレ感想。



ウォッチャーズの正体そのものは『デビルマン』のデーモンぽいですよね。
ヨーロッパの神話・伝承に詳しい人なら、その方向で興味が持てると思います。
ただ私が思ったのは、ウォッチャーズについて教授が語る説明に、最近の生成AIを思い出しました。
「形が歪んだり指の数が違ったり」だったか、生成AIのイラストみたいな話だなと。
ちょうどMacintosh IIか何かが映って、おっと思ってたらその話が出てきたので、これはハイテクの現代生活への侵食がテーマなのではと思いました。
ズバリそうだといえる展開にはならず、基本的に「妖精」という路線で話は進むものの、クライマックスはちょっと『ブレードランナー』を思わせるし、AIとかレプリカントの話ですよといっても通用しそうな描写も多いかなと。

そのクライマックスは、ブレードランナーほどの濃度や深度はなく、言葉での説明でカタをつけてしまった感もありました。
続く結末も、ホラーっぽさもあるけど、ヒロインの姉(妹でしたっけ)が出てくることで、人は鏡をどんなふうに見るのか、鏡を見ることは鏡像から見られることでもあるのか…… といった文学的テーマを映画的手法で表現していて、とても刺激的でした。
でもホラーっぽさは低いんですよね。
このあたり、監督の上品さが感じられて私はとても気に入りました。

もちろん、あの教授が行ったことは、デカルトが、娘の死を悲しんで人形にその名をつけて愛したことなど、さまざまな史実やフィクションに描かれた死者への執着を想起させます。
『スター・ウォーズ』のエピソード3にもそういうテーマが出てくるし、ピクサーの『2分の1の魔法』も、そういう話です。
そんなふうに、オカルト系、SF系、多くの物語に出てきますよね。
だから神話・伝承の話でありながらも、現代のAIが喚起するイメージにも重なっていて、大いに普遍性が出ていました。
ヒロインのミナも、死んだ母を甦らせるアイディアに惹きつけられたのでしょうが、一応それなりに克服していて、そういうところの上品さは私には好ましいものだと思われました。

そして、そのような存在は、神話・伝承の中だけでなく、今人間が作り出しているAIやロボットも同じではないか…… というテーマが隠れているようにも思いました。
具体的にそうだといえる材料はないんですが、やっぱりあの教授の「指の数が違う」とかの言い方は、生成AIっぽいとしか思えないんですよねー。

ミナを導くかのような存在(後半では実際導いてる)であるオウムのダーウィン、鏡の映像、割れる鏡と割れるガラス(ガラスに挟まれるミナの手)、TVに映っているリアリティショーなど、共通点が感じられるモチーフの多用にはなんとも興味を惹かれますよね。
今思ったのですが、ミナやその甥は紙に絵を描いておりそれが作中でやや特権的な位置にあるようにも感じられたので、ただコピーする、写しとるのではなく、人を通じてアウトプットされた絵というものには価値がある、という話でもあるのかもしれません。
アイルランドの美しい風景の空撮も良かったですが、それらのシーンで水が印象的なのは、それが鏡にもなるからかなあ……とも思ったり。

と、いろいろ刺激の多い作品で、それでいて見やすくて楽しめる、なかなか上等な娯楽作なんじゃないかと思いました。

この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?