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【読書】収容所(ラーゲリ)から来た遺書

https://books.bunshun.jp/ud/book/num/9784167342036

(写真は記事内容と関係ない、冬に岡山に行った時の写真。記事は9/20の呟きから再構成)

映画『ラーゲリより愛を込めて』を劇場で観て非常に気に入っていたのですが、この夏息子が「戦争を題材にした本を読んでレポートする」というテーマでこの本を選んだので(私が何も示唆していないのに、エライ)、息子と一緒にAmazon Primeで映画を再建。
そして私も原作を読んでみました。

原作も見事なもので、山本幡男が催した句会で詠まれた囚人たちによる俳句、彼が書いた詩などが織り込まれて情感が高まる構成になっています。
文字だけながら、どことなくミュージカルやオペラのような感触さえありました。
源氏物語とか日本の物語文学っぽいのかも。

シベリア抑留の悲惨さを描くだけではない、その中で懸命に人間らしさを保ち希望を捨てずに生きようとする人々の素晴らしさが全体を貫いています。
演劇をやったり映画の上映会もあったりと思ったより豊かな文化的活動があったんだなと思いますが、あくまで収容所内で過酷な労働の合間になんとかやれたという程度のこと。
そういうことは尺の限られた映画という媒体では伝わりづらいことなので、あまり「豊かに」は描けなかったのはよくわかります。

そう考えると映画化もよく考えられたものだとわかりました。
登場人物の整理の仕方や、原作にない戦争描写などを交えるなども、原作を読んで感じるものを上手に映画の脚本に落とし込んでいるのだなと思いました。

原作を読むと、事実とは思えない奇跡のようなクライマックスには驚きと感動を強く感じますが、そこを過剰に表現すると嘘っぽくなるところ、むしろ抑制的な映像化でもあるように思いました。
山本幡男にしても、原作のほうが、映画よりもスゴい人に感じられます。
大物感なく等身大のようでいて、芯のしっかりした魅力的な人物を演じた二宮和也の実力ということでしょうか。

本書を読むと、山本幡男って偉人伝に入っても良くない?と思うぐらいでした。
もっとも、基本的に辺見じゅんの取材とその筆による人物像なので、歴史の専門家からの評価なども必要なのだとは思いますし、影響力という点では偉人というのと少し違うのかなとも。
こういう尊敬すべき人物は他にもたくさんいる(いた)のだろうに、いろんな形で戦争の犠牲にもなってきたわけだと実感されます。

とにかく素晴らしい書物だと思ったので、映画ともどもおすすめ作品。

ただ……

ジャニーズ問題吹き荒れる昨今、ジャニーズ俳優主演で、エンドクレジットにも藤島ジュリー氏の名前があるのをみて「ああ……」って思ってしまう事態は、なんとも残念なものです。
少し前までのハリウッド映画を見ると、ワインスタインカンパニーのロゴがよく出て、それもあのワインスタインの恰幅と蝶タイをデザインしたロゴなんですよね。
「ああ……」どころか、『SHE SAID/シー・セッド その名を暴け』を観たあとでは「うへぇー」ってビジュアルですよ。
俳優や作品に罪はないのに、背景に犯罪があることでそんな気持ちにさせられると、それら犯罪の罪は簡単に償われるものではないと思わされます。


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