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法定生物多様性クレジットの価格(案)に関するガイダンスについて

英国の生物多様性ネットゲイン(※1)政策では開発事業にともなう生物多様性の10%純増が現場やオフサイト(自分で創出、あるいは民間のオフセットバンクで購入)で実現できない場合は、最後の手段として法定生物多様性クレジットを政府から購入することによって純増を実現することができます。排出権取引におけるカーボンクレジットの生物多様性版です。今回その法定生物多様性クレジット(※2)価格案が公表されましたので、速報的に解説してみたいと思います(公表2023年7月27日、最終更新2023年8月11日)。

ちなみに、生物多様性ネットゲインについては、下記のnoteや原稿「イングランドにおける生物多様性ネットゲイン(BNG)政策とその影響について」を参考にしてください。


では、ポイントを箇条書きにしていきます。

  • 法定の生物多様性クレジット(SBC: statutory biodiversity credit)の購入はオンサイト(開発現場)あるいはオフサイト(開発外の場所)で生物多様性ネットゲイン(BNG: biodiversity net gain)が実現されない場合の最後の手段である。

  • SBCはBNG(2023年11月)が必須となった後に購入できるものである。

  • 今回示すSBCの価格は最終でなく、事前に開発者などが検討するための参考値であり、最終的な価格はBNGが必須となった後に示される。

  • 価格はVAT(付加価値税:日本で言う消費税のようなもの)を含まない。

  • SBCの売り上げは生息場の創出プロジェクト、およびクレジットの販売費用に活用される。

  • SBCの価格は民間のオフサイトの生息場販売市場の参考値ではない。これらの民間市場と競合しないようにSBCの価格は高く設定されている。

  • SBCを購入する場合は「空間リスク乗数(spatial risk multiplier)」が適用され、必要なクレジットの2倍の量が必要。

  • つまり、1生物多様性ユニットを保証するために2クレジットを購入しなければならない。

  • 価格表は、面的生息場(area)と線的生息場(line: 河川・水路や生け垣(hedgerow)など)によって分けられ(※詳細は上記の論文参照)、生息場の特色(distinctiveness)(※詳細は上記の論文参照)によってさらに分けられている。

  • 表にあるBroadあるいはSpecific なhabitatというのは生物多様性評価ツールで使われる用語で、Broadは湿地などの一般的な生息場を表し、Specificはより個別の、例えば伝統的な果樹園、ヨシ原などの生息場を指す。

  • 表の価格はクレジットあたりの価格であり「空間リスク乗数」は計算されていない。

  • Tier(階層)は異なる生息場間の価格や価値を反映したものである。


具体的に下記のような表が示されており、ヨシ原(reedbed)であれば、42,000ポンドとされている( 面的生息場では生息場に応じて下限(Tier A1)の42,000 ポンドから、上限(Tier A5)の 650,000 ポンドまでの範囲で設定 )。

価格表(https://www.gov.uk/guidance/statutory-biodiversity-credit-prices より)

つまり 42,000ポンド×2(乗数)×184.5(1ポンドのレート)≒1550万円(税抜き) となる。

1ユニットはおよそ1ヘクタールに対して計算される単位なので、つかみの数字としては1ヘクタールあたり1550万円と考えてよいだろう。

これが高いか安いかは、いろいろ議論があると思う。このあたりの価格形成の経緯についても今後勉強したいと思う。
(追記230827)下記の記事では、1ヘクタールあたりのクレジット購入価格は369,000ポンド(6800万)と報告している。


とりあえず速報的に紹介してみました。間違いなどあれば指摘をお願いします。

※1 開発する場合は開発する前よりも生物多様性を10%増加させることを必須とするイギリスの政策
※2 CO2の排出権取引の生物多様性版。上記の10%増加が実現できない場合に購入することによって、実現するための金融手段。
※3生物多様性の価値を決めるための評価単位、この数値によってBNGを判断する(詳細は上記の論文を参照)