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おなめにならないでいただきたい~諸刃の敬語#1

新シリーズ「諸刃の敬語」。
命名はのぼる大師です。

敬語は対象への敬意の表出として使う。だから相手の価値を引き下げるような言葉は敬語にならないし、もしそれを敬語にすれば嫌味か冗談になってしまう。

私は、常々そのように説明していますが、本来の使い方からはずれた”嫌味か冗談としての使い方”を知っておくのも反面教師として役に立つかもしれないと思い、本シリーズを始めます。

初めての今回取り上げるキーワードは「なめる」です。
あまり意識したことはありませんでしたが、英語やロシア語を使いこなすPlot 47様の記事によると、日本語独特の表現だそうです。

この記事を書いているときに友人のnoterさんが同じ言葉を取り上げるとは、なんだかシンクロニシティを感じてしまいますね。

クリスチャンの「おなめにならないでいただきたい」

twitterより

「キリスト新聞」編集長の松谷信司さんのTwitterです。

なめるとは、馬鹿にすることです。

もちろん良い言葉とはいえず、通常は敬語にならないし、しようとも思わないでしょう。それを十分に分かったうえで、あえて使っています。

つまり、敬語を使わずに言えば「なめんな」ということですが、それでは足りないのであえて敬語を使うことで嫌味を込め、怒りを強調しているのです。

ただし、この場合はクリスチャンという自己認識を持った人が使っているので、「ここまでバカにされ、どれだけ腹が立ったとしても暴力に訴えたり違法行為に走ってはいけない」という自制も伝わります。ぎゅっと握ったこぶしに自分の爪が突き刺さるような思いです。

怖いお兄さんの「おなめにならないでいただきたい」

一方で、同じ言葉を怖いお兄さんが言ってみたとしましょう。

例えば👆こういう見た目の人たちがにこやかに以下のセリフを言っているところを想像してみてください。

本来ならこちらは金を貸して差し上げたほうですから、そちらから返しに来ていただくのが筋というものかと思うのですが、いくらお願いしても返していただけないものですから本日お伺いしました。
ここまで礼を尽くしているにもかかわらず返せないと平気な顔でおっしゃる。大の大人にここまで来させておいて手ぶらで帰れとは、いくらなんでもひどすぎはしませんか。
これ以上うちの組織をおなめにならないでいただきたいものですね。

にこやかな優しい声であればあるほど、背筋に寒いものが走ります。
それは先の例とは逆で、普通の人ならできないことが冷静なままできるということが分かるからです。

※念のために申し添えますが、youtubeはあくまでも見た目の参考です。
ついでに申し添えますと、ご紹介したyoutubeは純悪という悪役俳優ユニットですが、面白いのでよかったらご覧ください。

もちろん、今回ご紹介した「おなめにならないでいただきたい」は、ビジネスにおいてはどれほど怒り心頭であっても使わないほうがよいのは言うまでもありません。

使ってよいのは、以下のような言い方です。
「お子様が電柱をおなめにならないよう、ご注意ください。」

それでは、また。


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国語がすき

世界や自分自身をどのような言葉で認識するかで生き方が変わるなら、敬意を込めた敬語をお互いに使えば働きやすい職場ぐらい簡単にできるんじゃないか。そんな夢を追いかけています。