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デンマーク幸福研究所が教える「幸せ」の定義~読書感想文#16

椎名林檎の幸福論がリリースされたのが1998年。

この本が出版されたのが2018年。ヒュッゲだのリュッケだのという言葉が流行りだしたのもその頃だったでしょうか。その頃はヒュッゲもリュッケも、私にとっては、なにかおしゃれな人たちの間ではやっているおしゃれな言葉、という程度の認識でした。

これらが幸福論ブームの先触れだったということに気付いたのは、この本を読んだ後です。

やはり椎名林檎は一歩先を行く素晴らしい感性の持ち主ということですね。

なぜ今、幸福論なのか

先日、デモクラシーフィットネスのことをご紹介しましたが、それでデンマークに興味を持ったのが、この本を読んだきっかけです。

この本によれば

「主観的幸福」が主題の学術論文の発表数は1990年に400程度だったのが、2012年には1万を超えました。(p.68)

なのだそうです。すごい流行りっぷりですね。

3つの課題

幸福を研究するには3つの課題があることをこの本は伝えています。

椎名林檎は幸福論の中で、本当の幸福愛し愛されることの中に求めています。椎名林檎に限らずよくあるテーマなので、それを使って考えてみましょう。

幸福にはさまざまな次元がある(p.84)
……愛する人がそこに居るだけで幸せかどうかは、人によって異なるかもしれません。周りからは幸せそうに見えても実はそうではないケースもあれば、早く別れたほうが幸せなんじゃないかと思えても、本人たちにとっては幸せなケースもありますよね。

②物事をどう体験するかと、どう記憶しているかは異なる(p.91)
……昔の事柄を思い出すときに、時の変化とともに内容が変わっていくことはよくあることです。「世界でたった一人だけの素晴らしい人」だったはずが、「なんてことない人」になったりとか。

因果関係がはっきりしない(p.97)
……愛している人がそばに居ることでいつまでも幸せでいられるケースと、浮気をされたというような明らかな問題があったわけではないのにいつの間にか幸せではなくなってしまうケースでは、何が違うのでしょう。

少なくとも幸福論を考えられる状況にある

まず、3日間飲まず食わずの状態で自分の幸福について考えられる人は、あまりいないでしょう。少なくとも私なら水と食べ物のこと以外考えられないと思います。

次に、なんとかその日は生きられるという状況の場合。
いま、幸福になろうとすることが、為政者にとって都合が悪かったのか、本人にとって苦しいことだったのかはわかりませんが、「天国」や「解脱(生まれ変わらずに済む状態)」という概念は、死後、幸福になることを夢見ることで、いま、幸福になることを諦めるために生まれた概念なのかもしれません。

そして、幸福について論じることができるのは、マズローの欲求5段階説を思い出すまでもなく、飢餓や、生命に危険が及ぶほどの暴力などにさらされていないということなのでしょう。

逆に言えば、いま、幸福になることができる私たちは、それを自分の責任として捉えなければならなくなったということが、昨今の幸福論ブームの原因なのではないかと思うのです。

※もちろん、同一国内においても、飢餓にさらされている人や、生命に危険が及ぶほどの暴力などにさらされている人も、自死を選ぶ人もいます。

自分の幸福は自分の選択の結果

著者のマイク・ヴァイキングはこう書いています。

私が目指すのは、消費選択やライフスタイルの選択において、なにが実際に、私たちの短期的、長期的幸福に影響するのかの知識を提供すること(p.206)

マイク・ヴァイキングは「幸福研究所」というシンクタンクのCEOです。

そして訳者のあとがきによると、この本は、もともとデンマーク人に向けて書かれた本なのだそうです。

つまり、世界一幸せと世界中から言われながら、自分自身を幸せだとは思えない人に向けて書いたということでしょう。

では、この本を読むと幸せになるかというとそういうわけではありません。

この本を読むとどうすれば幸せになれるかが分かるかというと、そういうわけでもありません。

ただ、自分の幸せを自分でデザインしようという意思を持ってほしいという、そういうメッセージなのだと私は受け取りました。

興味のある方は、ご一読を。

それでは、また。

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