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全局面を司るベリンガムの衝撃。いよいよ“モダンフットボール化”へと舵を切ったレアル・マドリーの戦術分析

こんにちは。

国内外の最先端のサッカーを扱う専門誌『footballista』に、ジュード・ベリンガムら新戦力が加わった新生レアル・マドリーの戦術分析記事を寄稿しました。


14シーズン在籍し、黄金期のレアル・マドリーの戦術上のキーマンであり、クリスティアーノ・ロナウド退団後は絶対的なエースストライカーとしてバロンドーラーとなったカリム・ベンゼマを含む多くの選手が退団した今夏。ベリンガムの他ケパ・アリサバラガ、フラン・ガルシア、アルダ・ギュレル、ブラヒム・ディアス、ホセルを新たに迎え入れました。

周知の通り、現在のレアル・マドリーはベリンガムを中心とした新システムにチャレンジしています。その経緯、戦略的背景をカルロ・アンチェロッティ監督が再就任してからの2シーズンの文脈をふまえて考察しました。また、実際のピッチ上における主要局面の戦術分析を網羅し、ルカ・モドリッチおよびトニ・クロースの今後の役割について展望を述べました。


マドリッドダービー簡易レビュー

アトレティコ・マドリーとのダービーマッチを振り返ると、まず予想外だったのはモドリッチとクロースを同時に起用したことでしょう。まさに紹介記事でも指摘しているのですが、今季はこの2人が試合開始から同時にピッチに立つ機会は減っていくだろうと考えていました。新システム最大の鍵はハイプレスおよびカウンタープレスの強度であり、ベリンガム、フェデリコ・バルベルデ、オレリアン・チュアメニ、エドゥアルド・カマヴィンガの若手4人を軸にこれを機能させてきました。モドリッチとクロースを同時起用しまったく別のフットボールになっていた昨季までと異なり、一貫したゲームモデルとしてプレーの再現性を担保するために、今季は開始から起用するにしてもどちらか片方のみ、という条件付きでアンチェロッティはチームマネジメントを行ってきました。

そのためアンチェロッティが批判にさらされることは避けられないでしょう。フロントの意向もあり、重鎮2人への依存から脱却すべくチーム構築を進めてきたにも関わらず、ビッグマッチでは振り切れずに保守的かつアドリブ感の強い采配を行い、敗戦を喫したので仕方がないことだと思います。割を食う形となったチュアメニとホセルが不憫でなりません。


こちらはスターティングメンバー発表時点での筆者の試合展望です。

焦点はボール非保持の振る舞い、特にクロースとカマヴィンガの役割およびモドリッチとベリンガムの役割でした。

これまでの試合におけるボール非保持はベリンガムの上下動により成立していました。ハイプレス時は相手のアンカーを捕まえる役割、そしてブロック守備時には献身的にプレスバックし[4-4-2]の中盤ラインを形成する役割を遂行する戦術理解度と強度を合わせ持つ唯一の存在です。よってベリンガムはトップ下のまま、モドリッチがボール非保持の際はロドリゴ・ゴエスと共に2トップを形成し、相手CBへの圧をかける役割を担うと考えていました。加えて構造上SBの周辺に生まれやすい広大なスペースをカバーしなければならない左インサイドハーフ(ボール非保持は左SH)にはカマヴィンガを置き、アンカーにクロースを置くだろうと予想しました。

実際には、ベリンガムが2トップの一角、モドリッチがトップ下、さらにはクロースが左インサイドハーフ、カマヴィンガがアンカーというそれぞれ逆の役割でスタート。結果論ではありますが、チュアメニとホセルを外したことに加えこの与える役割が不明瞭であったことが敗戦の主要因だと考えています。

レアル・マドリーは今季の戦術の肝であるハイプレスのスイッチがまったく入りませんでした。2トップとモドリッチを含む中盤ラインよりも後ろが乖離し、相手のアンカーのコケや3バックの左を務めるマリオ・エルモソへのファーストDFが決まらず、クリーンに大外レーンへの展開を許します。左WBサムエル・リーノを起点としたクロスから簡単にゴールを許し、前半の半ばまでに2点ビハインドという苦しい試合展開になりました。

そして非常に脆かったのがネガティブトランジションにおけるフランとクロースの左サイド。アトレティコ・マドリーのストロングポイントの1つであるマルコス・ジョレンテとナウエル・モリーナの後手に周り、チャンスを量産されます。アンチェロッティは前半途中にカマヴィンガとクロースの立ち位置を入れ替える修正を行い、やや安定感を取り戻しました。


記事執筆のため試合を繰り返し見ていたことが功を奏し(?)、もう1つの修正ポイントも同じだったようです。前半のハーフタイムでアンチェロッティはベリンガムを普段の役割に戻し、モドリッチを下げてホセルを投入。モドリッチ自身のプレーが特段悪かったというわけではなく、不可解な戦術の犠牲になった感が強かったです。クロースがアンカーかつモドリッチがトップ下だと、ブロック形成時には彼ら2人がダブルボランチとなり強度が不足します。スタートのカマヴィンガのアンカー起用はボール保持の役割に加えてそのような理由もあったと思いますが、いずれにせよ中盤ライン4枚の構成要員にモドリッチとクロースの両方が含まれる設計であったことは変わらず。クロースのゴラッソで1点を返したものの、今季のゲームモデルを前提とするならばその設計は困難であるという実情を再確認する前半となりました。

後半開始早々、またも同じクロスからの失点を許します。クロースが軽率に人に食いつきスペースを空け、アントニオ・リュディガーが釣り出され、ダビド・アラバがスライドするもファーでフリーになったアルバロ・モラタをカマヴィンガ、フランの2人が捕まえきれず。これは構造上の弱点と選手の判断ミスが重なった上に、1、2失点目同様スペースを埋めるクロス対応に長けたチュアメニ不在の影響を感じさせる失点だったように思います。

交代カードの切り方にも疑問が残りました。フランに代えて怪我から復帰したフェルラン・メンディ、ルーカス・バスケスに代えてナチョ・フェルナンデス、カマヴィンガに代えてチュアメニを投入。その後クロースを下げてブラヒムをピッチに立たせましたが、ホセルがゴール前に待ち構えているにも関わらずSBはお世辞にもクロスが得意とは言えない2人。そして何よりも相手が撤退する中で味方にスペースを供給可能な選手がピッチに残っておらず、ブラヒムの強引なドリブル突破を除けばそもそもクロスを上げるところまでボールを前進させられませんでした。


最後まで戦術的にはチグハグな試合でした。とはいえ戦術で片付けられないのがレアル・マドリーというクラブ。ロッカールームの秩序やフロントとの関係性を維持するために、アンチェロッティは我々が想像できないチームマネジメントの難しさとプレッシャーに直面していると考えられます。あくまでピッチ上のことだけに目を向け、そして今季の新たなゲームモデルを継続していくのであれば、4人の若手選手を中盤のダイヤモンドに起用して強度で圧倒し、相手が疲弊した後半にモドリッチとクロースを投入するという頼り方が、仮にビッグゲームであったとしてもベターだと筆者は考えています。ベストであるのかどうかはもう少し見ていきたいところです。ダメージの大きかったこの敗戦が今後のアンチェロッティの意思決定にどのような意味をもたらすのか。ヴィニシウス・ジュニオールも万全の状態で臨めるであろう次のビッグゲーム、CLナポリ戦での采配に注目しましょう。

本稿は簡易レビューとしました。アトレティコ・マドリー目線でのより詳細なレビューはガーすけさん(@galabbit)が公開していますので、チェックすることをオススメします。


最後までお読みいただきありがとうございました!


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