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23-24ラ・リーガ第24節 レアル・マドリー対ジローナ レビュー(2024/02/11)

こんにちは。

書けるときに書いておこうということで、ラ・リーガの優勝争いを占う天王山、首位レアル・マドリーと勝ち点2差で2位につけるジローナの一戦をレビューします。本稿は、ここ数年ではnoteではほとんど書いてこなかった純粋なマッチレビュー記事です。というのも、来週末あたりにレアル・マドリーの今季前半戦の総括記事を執筆する予定となっているためです。内容が被らないようあえて文脈に触れず、可能な限りこの試合で起こった現象のみにフォーカスするという逆にテクニカルな内容となっていますが、ご容赦ください(文量もコンパクトです)。

こちらは前回の記事です。トニ・クロースをひたすら掘り下げた記事です。ぜひご一読ください。



スターティングメンバー

スターティングメンバー

ホームのレアル・マドリーは周知の通りCB陣がケガで壊滅。ナチョ・フェルナンデスに続いてアントニオ・リュディガーが出場不可能となり、前節に続いてダニエル・カルバハルが中央へ。出場停止明けのオーレリアン・チュアメニとペアを組んだ。前線も普段とは異なる並びに。

一方のジローナも主力をケガや出場停止で欠く状況。右CBやアンカーの役割をこなすダビド・ロペスの不在は引き続きエリック・ガルシアを右CB、ヤン・コウトを右SBに置いてカバー。左CBダレイ・ブリントの代役にはフアンペが、中盤のヤンヘル・エレーラの代役にはポルトゥが起用される。そもそも監督のミチェルがベンチ入り禁止処分を受けている。


ベリンガム偽9番の意図

まずは普段と違う配置で望んだレアル・マドリーの思惑を見ていく。

前回対戦がまさに転機となり、ボール非保持時にベリンガムが[4-4-2]の左SHを担うシステムにバランスを見出したカルロ・アンチェロッティのチームだったが、この日はベリンガムを頂点に置くシステムとした。同じメンバーでもドブレピボーテにエドゥアルド・カマヴィンガとクロース、両SHにフェデリコ・バルベルデとベリンガム、2トップにロドリゴ・ゴエスとヴィニシウス・ジュニオールというシステムにすることもできたわけで、そうはしなかった理由があると考えるのが自然だろう。

まず一つは、プレスラインの高さの設定にあると考える。アンチェロッティのチームは、ボール保持を生業とするチームを相手に保持をある程度捨てる選択肢“も持っている”ものの、それを第一優先とするゲームプランを選択することはあまりない。何より今季のレアル・マドリーが勝ち点を落とさない理由は崩しの再現性の高さとそれに伴うネガティブトランジションの安定にあり、ラ・リーガ随一のストライカーであるアルテム・ドフビクに相対するのが急造の最終ラインであることを踏まえても、自陣でブロック守備を行う時間を減らしたい意図があったように思う。

ロドリゴとヴィニシウスの2トップは、非保持においてファーストラインを形成する選手としての戦術理解度が低く、カバーシャドウで背中の選択肢を消しながらファーストDFを決め、ハイプレスに転じるといったことが難しい。ベリンガムを頂点に置くことの利点は、最初にファーストDFを決める役割を与えることでチーム全体がラインを押し上げる機会を生み出すことができる点である。

実際、レアル・マドリーは先制ゴールを奪うまでの6分間にバックパスに対してファーストDFを決め、ラインを押し上げようとする様子が何度か見て取れる(機能しているとは言い難かったが)。ヴィニシウスがゴラッソを沈めて“しまった”ために、その後はミドルサードより後ろで構えることとなり、ある意味早い段階で用意していたゲームプランをリードしたとき仕様に変更した可能性が高い。

もう1つの意図はジローナに押し込まれた際のブロック守備の設計にあると考える。こちらはジローナの崩しの狙いやバルベルデに与える役割など複合的に要因が絡み合うため、次項で説明する。


バルベルデが肝となる非保持の設計

ジローナのボール保持(崩しの局面)。

レアル・マドリーのブロック守備vsジローナの崩し

レアル・マドリーの中盤ラインよりも後方の立ち位置を取るのは、基本的にエリックとフアンペの両CBと、ピボーテの片割れでアンカーとして振る舞うアレイクス・ガルシア、そして左SBのミゲル・グティエレスの4人であった。右SHのビクトル・ツィガンコフはハーフスペースに移動し、大外レーンをヤン・コウトが駆け上がる。ガルシアが選択肢になれないときはイヴァン・マルティンが手前に顔を出す。

ミゲルが偽SBとして振る舞う、具体的にはアンカー脇や左のハーフスペース高い位置に移動することで有名なジローナのボール保持だが、この試合では自重気味だった。強度の低いヴィニシウスが(ジローナから見て)右サイドにいることをどこまで想定していたかは定かでないが、ヤン・コウトの攻撃参加を優先し、ミゲルはリスク管理に徹しながら機を見てラインを越えていく役割を担った。

ジローナは右サイドにマルティン、ツィガンコフという2人の左利きを配置しており、彼らや高精度の右足を持つガルシアがフリーで前を向くとチームで最も質的優位に立てる左SHサヴィオへの大きな展開を狙うことができる。通常、自チームから見て左サイドにボールがあるときは逆のSB(右SB)を含む4バック全体がボールサイドへスライドすることが近年のゾーンディフェンスの常識であり、そのためサヴィオは今季、サイドチェンジにより享受したスペースを謳歌してきた(いわゆるアイソレーション)。しかし、アンチェロッティはサヴィオを試合から消すための準備をしっかりと披露している。

レアル・マドリーのブロック守備はいつだってバルベルデを中心に設計される。チームとしては当然ゾーンディフェンスを基調(この日のベースは[4-5-1])とするものの、右IHのバルベルデには右のハーフスペースに入る選手をマンツーマン気味に捕まえるという固有の役割が与えられた。これによりポルトゥを捕まえ、実質的に最終ラインに吸収される形に。右SBのルーカス・バスケスは右CBのチュアメニとの間に生じるスペースを気にし過ぎないことが可能となり、サヴィオにボールが渡ってもスピードに乗らせる前に素早くファーストDFを決めることができた。ドフビクは空中戦で優位に立てるファー側(カルバハル側)でクロスを待つも、そこまでボールが到達することはほとんどなかった。

通常の[4-5-1]ブロック
この試合の[4-5-1]ブロック

左サイドはスペースで浮こうとするツィガンコフをカマヴィンガが背中で消し、緊急時はカルバハルがカバーリング。落ちるマルティンにはクロースがファーストDFを決めに行き、中央の危険なスペースへの侵入も許さず。クロースではなくカマヴィンガが左のインテリオールとして起用されたのは、ロドリゴに比べより前残りしがちなヴィニシウスの背後のスペースをカバーするためと言って良いだろう。

普段の4バックでは守り切れないという、ジローナの攻撃力をリスペクトしたゆえの設計と言える。ではバルベルデが中盤ラインから離脱した際、普段の設計のままではカマヴィンガ、クロース、ベリンガムが残りの中盤ラインを形成することになる。それでも守ることはできるかもしれないが、アンカーの役割を担うガルシアをひたすらフリーにしてしまうのみならず、レアル・マドリーの伝統的な武器にしてジローナの最大の弱点である、カウンター攻撃を効果的に打つことができない。なぜなら、ボール奪取時のベリンガムの初期位置が低くなってしまうからである。

ベリンガムが普段と同じ役割の場合の[4-4-2]ブロック
この試合の[4-5-1]ブロック

そもそもロドリゴとヴィニシウスは、カウンターに転じる際に前線で起点となる役割は得意としておらず、前向きでボールホルダーを追い越し、スペースでボールを呼び込むことで爆発的な推進力を発揮する。かつてカリム・ベンゼマがやっていたようなポストプレーを、ベリンガムは何の問題もなくやってのける。ヴィニシウスとロドリゴにサイドの守備という普段より重い非保持の役割を課すことと引き換えに(天王山はモチベートするには十分な舞台である)、ベリンガムをより高い位置でカウンターや擬似カウンターの起点とし、火力を底上げすることを意図していたと思われる。彼を中央に残しておくことの効果はすでに実証済みで、直近では、非保持時にトップ下に置いたスーペルコパ・デ・エスパーニャの決勝バルセロナ戦が挙げられる。

まとめると、この試合では、バルベルデに固有の役割を与える非保持の設計によりさらにベリンガムの攻撃面での特徴を活かしづらくなる展開が予想された。よって配置を変え、ベリンガムは最前線でガルシアを管理しつつ機を見てファーストDFとなり、ハイプレスに転じる機会を創出するボールを奪えば高い初期位置でポジティブトランジションの起点となる。こういった役割を期待し偽9番として起用した、というのが筆者の見解である。ジローナ側としてはガルシアを消される代わりに放置された両CBが何かを起こすことができず、ブリントの不在を感じさせた。


ヴィニシウスが躍動した理由

35分のベリンガムの追加点で2-0とリードし迎えた後半立ち上がりは、システムの答え合わせをするかのように波状攻撃を受ける。ロドリゴのプレスバックが間に合わず、バルベルデが1列前に釣り出されることによって空いてしまったバスケスとチュアメニの間のスペース(チャンネル)をミゲルに強襲され、ついにレギュラーを確保したアンドリー・ルニンのひと仕事が必要に。バルベルデに管理されたことで良さを発揮できなかったポルトゥに代わり投入されたパブロ・トーレが起点となっていることもポイントである。何度かこのスペースを突かれる嫌な時間帯が続く。裏を返せば、バルベルデが正しい立ち位置に戻ることができている間はやられていないということでもあった。

47分に崩されたシーン

しかしレアル・マドリーらしく飄々とこれを耐え凌ぐと、ヴィニシウスが再び流れを取り戻す。54分、対面のヤン・コウトをドリブルで完全に置き去りにし、3人を引き付けた状態でシュートを放つと、こぼれ球をベリンガムが押し込んだ。普段と異なる役割を与えられたベリンガムはこの日ドブレーテ。とある“ゴールが減っている”という記事に対する回答としては十分だろう。シーズンを経るにつれ、配置や役割は変動していくものである。

レアル・マドリーのボール保持(崩しの局面)。

レアル・マドリーの崩しvsジローナのブロック守備
レアル・マドリーの崩しvsジローナのブロック守備

緻密な非保持の戦術を構築するアンチェロッティだが、反対に保持では選手に自由を与える。しかし、カマヴィンガやフェルラン・メンディ、バルベルデらの立ち位置や挙動を見るに、前提としてきちんと大枠が整備されていることが確認できる。

ベリンガムは普段左のハーフスペースに立つことが多いが、この日は中央での起用となったため右サイドにも頻繁に顔を出した。その分空白となり得る左のハーフスペースをカマヴィンガまたはメンディがすかさず埋めることで配置バランスを維持し、中盤ラインの奥の選択肢を提供し続けた。カマヴィンガは時に幅を取り、時に最前線のスペースに侵入するなど、スペースを見つける眼、その一瞬一瞬で自身の役割を把握する賢さ、求められるプレーを実行するクオリティを持ち合わせる。右サイドはいつも通りSBのバスケスが幅と深みを確保するため、自動的にバルベルデが後方でバランスを取る役割に。CB間でボールをピックアップし局面を進めるパスを出し続けたクロースとの補完性は境地に達している。自由を与えられた選手の列やレーンの行き来に合わせて、局所的・大域的にポジションを変えられる選手たちが揃っているので、ポジションレス、数字に囚われない流動的なボール保持を可能にしている。

その中で何よりも筆者が目を向けたいのは、ヴィニシウスの躍動ぶりである。前節を欠場して疲労が回復しただとか、ジローナがカウンター攻撃に弱いだとか、ヤン・コウトの対人能力に問題があるだとか、当然そのような要因はあるだろうが、重要なのは判断の質の向上が見えたということである。これこそが躍動の理由だ。

ヴィニシウスはいついかなる瞬間も相手に脅威を与えることのできる選手である。しかし、今季の彼はその脅威を活躍に結び付けることができていなかったクローズドに押し込んでの崩しの試行回数を増やすチームの意向と判断の部分でズレが生じ、“行くべきでない”タイミングでドリブルを仕掛け、突破してもゴール前に味方はおらず、試合を意図せずオープンにしてしまう。彼にとってそんな試合がずっと続いていた。その挑戦的なメンタリティこそ、彼が今の地位まで上り詰めた1つの理由でもあるのだろうが、さらに上の次元に到達するには判断の質の改善が必要であることは明らかだった。51分、彼は周りの状況を見てドリブル突破を止め、味方全体の上がりを待っている。行くべき瞬間を見極められるヴィニシウスは、アンチェロッティの言う通り世界最高の選手である。

絶好調のブラヒム・ディアスやホセルらを次々と投入し、ロドリゴが追加点を記録したレアル・マドリーは4-0というスコアでジローナを一蹴。2季ぶりのラ・リーガ制覇に向けて、非常に大きな勝利となった。次戦はついに帰ってくるCLの舞台、ライプツィヒ戦。依然として最終ラインは人が足りず、チームを牽引してきたベリンガムも捻挫による数週間の離脱が確定するなど厳しい状況が続くが、アンチェロッティ、ヴィニシウスらとともにまずは準々決勝進出を目指す。


試合結果

レアル・マドリー4-0ジローナ
ヴィニシウス・ジュニオール(6分)、ジュード・ベリンガム(35分、54分)、ロドリゴ・ゴエス(61分)


出場選手

アンドリー・ルニン:ほとんど仕事はない中で、プレス回避の局面では相手と正対しバスケスへの正確な左足のディストリビューションを見せるなど、落ち着いたプレーを披露した。

ルーカス・バスケス:ここに来てコンディションを大きく上げており、大外レーンで攻撃に厚みを持たせるだけでなくサヴィオを完全にシャットアウト。プレス回避の判断や技術も非常に正確。

オーレリアン・チュアメニ:しばらくはCBでの出場が続くだろうが、クロス対応は完璧の一言であり、安心して任せられる出来。時折見せるアーリークロスの精度が高い。

ダニエル・カルバハル:本職顔負けのラインコントロールやクレバーなカバーリングでドフビクに仕事をさせず。クラブで公式戦400試合出場を達成し、アンチェロッティも大絶賛。

フェルラン・メンディ:対人は無敵、保持でも空白のスペースを埋める献身性があり、再びチームで不可欠な存在に。

フェデリコ・バルベルデ:いつも大一番では難しい役割を担うが、当たり前のように完遂し改めて戦術兵器ぶりを見せつけた。右のハーフレーンを完全に制圧した。

トニ・クロース:この日はよりアンカーらしい役割を求められたが、涼しい顔で中央へサイドへと配球を続けた。常にファーストDFを決めさせない絶妙な立ち位置、相手との距離感。

エドゥアルド・カマヴィンガ:最近は中盤の一角として凄みを増し続ける。非保持ではカルバハルとツィガンコフを上手く管理し、保持ではより攻撃的な役割を担い、トランジションで常に脅威となった。

ロドリゴ・ゴエス:右WGとしてスタート。ヴィニシウスとベリンガムの影に隠れたが、非保持では一定の貢献を示し、ゴールという数字も残した。

ジュード・ベリンガム:カウンターの起点となり、絶えず動き回ってスペースを強襲し、非保持ではアンカーを消し続ける役割を全う。すべてのプレーに無駄がなく、圧巻のクオリティで2ゴールをゲットし、ゴールランキングでも再び単独首位に。

ヴィニシウス・ジュニオール:そのベリンガムを上回る全4ゴールに絡む活躍。上質な判断でチームを落ち着かせ、来たるべきタイミングでドリブルを仕掛け、ヤン・コウトをきりきり舞いにした。

ブラヒム・ディアス:保持でのクオリティはさることながら、非保持でも監督からの信頼が垣間見えた。シュート精度の低さを改善できれば、より不可欠な存在となる。チームがベリンガム不在を乗り越えられるかどうかは、彼にかかっている。

ルカ・モドリッチ:クローザーの1人という役割に留まっているが、それはチームが上手くいっている証拠でもある。チームが苦境に立たされたとき、彼にしかできないことがきっと残っている。

ホセル・マト:PKを外しマニータを逃すという残念な結果に終わったが、最近の好調は続く。ベリンガムの離脱をカバーするもう1人の重要選手。

フラン・ガルシア:意気消沈した相手に溌剌としたプレーを見せ、得意とするクロスでブラヒムのチャンスを演出した。メンディにもカマヴィンガにもできないプレーができる選手。

アルダ・ギュレル:サンティアゴ・ベルナベウでのデビュー戦は、自らペナルティエリアに侵入してPK獲得という上々の出来。非保持での信頼を得ることが出場機会を増やす鍵。


最後までお読みいただきありがとうございました!

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