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開幕戦に見るレアル・マドリーの問題点...得点力不足とウーデゴールの現在地

バイエルン・ミュンヘンのCL制覇により19-20シーズンが幕を閉じてからわずか半月、各国リーグが開幕。レアル・マドリーはマンチェスター・シティに敗れたものの、決勝ラウンドに参加していたため第1節は延期となっています。今回、スコアレスドローに終わったリーガ・エスパニョーラ第2節アウェイでのレアル・ソシエダ戦を分析しながら、主にレアル・マドリーのロナウド退団以降の課題であり続けている得点力不足の原因、いきなり先発に抜擢されたウーデゴールのプレーなどを考察していきたいと思います。


今季のスカッド

20-21シーズン最初の試合ということで、軽く移籍情報をおさらいしようと思います。

【In】
GKアンドリー・ルニン←オビエド(レンタル復帰)
DFアルバロ・オドリオソラ←バイエルン(レンタル復帰)
MFマルティン・ウーデゴール←レアル・ソシエダ(レンタル復帰)
FWボルハ・マジョラル←レバンテ(レンタル復帰)
【Out】
GKアルフォンス・アレオラ→PSG(レンタル終了)
DFヘスス・バジェホ→グラナダ(レンタル)
DFアクラフ・ハキミ→インテル
DFセルヒオ・レギロン→トッテナム
MFダニ・セバージョス→アーセナル(レンタル)
MFハメス・ロドリゲス→エバートン
MFオスカル・ロドリゲス→セビージャ
MF久保建英→ビジャレアル(レンタル)
FWガレス・ベイル→トッテナム(レンタル)

人員整理の夏でした。ベイルやハメスだけでなく、成長著しいハキミやレギロンも放出。寂しいですが資金捻出や彼らの出場機会のことを考えれば致し方ないでしょう。様々言われていますが、今までの貢献に感謝です。そして手際よく売却を進めていくフロントの優秀さを感じさせます。今後マリアーノやヨビッチ、バスケスなどの売却もあるかもしれません。

補強はないものの、一番の期待はウーデゴールのレンタルバックです。昨季はフル稼働が難しいモドリッチと急成長を遂げたバルベルデ、そしてクロースの3人というギリギリの枚数でIH(インサイドハーフ)を回していました。ここに彼を上手く組み込めれば、カゼミーロの代役問題も含め上積みが期待できます。


相手の4-4-2ブロック

レアル・ソシエダも大幅な戦力入れ替えはなく、ウーデゴールの抜けた穴に名手ダビド・シルバを獲得。昨季の基本フォーメーションは4-1-4-1や4-2-3-1で、ハイラインを敷いて前からのプレス、サリーダ・ラボルピアーナ(3バック化)し後方からの丁寧なビルドアップ、ウーデゴールやオヤルサバルの個を生かした崩しなど、攻撃的かつ魅力的なフットボールでスペインに旋風を巻き起こしました。レアル・マドリーもラ・リーガでは2勝したもののコパで敗退に追いやられています。

前回対戦時には高いラインを保ってプレスをかけて来たため、裏のスペースでヴィニシウスが躍動する試合となりましたが、それを踏まえてかこの試合でレアル・ソシエダは4-4-2ブロックを形成し後方に構えることを選択。結局最後まで得点を奪うことはできませんでした。確かに相手の守備は堅かったですが、同時に以前から続くレアル・マドリーの得点力の無さが浮き彫りに。昨季もラ・リーガの多くのチームが中央コンパクトな4-4-2ブロックを組んでレアル・マドリーを迎え撃っており、ここを改善できなければ今後も取りこぼす試合が多くなってしまうことは明らかです。そういった意味で、4-4-2ブロックの攻略をメインに書いていきます。


ビルドアップ・前進

まず、両チームのスタメン(初期配置)はこちら。レアル・マドリーは不動の存在カゼミーロを外しウーデゴールをトップ下に置く4-2-3-1を採用しました。果たしてカゼミーロ不在時のオプションあるいは得点力不足の解決策になり得るのか。

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レアル・ソシエダは前述の通りハイプレスをかけることはほとんどなく、ミドルゾーンに入ってから前の2枚がAc(アンカー)を気にしつつDFラインにプレスをかけに来ます。このプレスのファーストラインを超えるため、レアル・マドリーは3枚で数的優位を形成。押し出すようにしてSBに高い位置をとらせます。普段はクロースがラモスの脇に落ちてくることがほとんどですが、カゼミーロがいないこともありカルバハルがバランスをとることも。従って、以下のいずれかの配置をとることが多かったです。ヴィニシウスが幅を取った場合はメンディがHS(ハーフスペース)に進入する、というようにレーン被りしない意識は見て取れました。

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この試合レアル・マドリーはカゼミーロがいない分モドリッチとクロースがいつもより低めの位置でビルドアップに加わるため、この段階で不用意にボールを失うシーンはほとんどありませんでした。特にハイプレスをかけてくる相手に対して、このダブルVo(ボランチ)は彼らのプレス回避能力を発揮できるので利点と言えるでしょう。問題は被カウンター時の守備力ですが、今回のテーマからは逸れるので割愛します。

さて後ろ3枚の数的優位のもう一つの意図として、相手のSHを釣り出すことが挙げられます。これができれば、サイドレーン高い位置で幅を取るメンディやカルバハル、ロドリゴを相手SBに対応させる、という状況を作ることができます。コンパクトなブロックで中央を閉じてくる相手に対して、レアル・マドリーはAcポジションに入るモドリッチやクロースを経由しながら、サイドチェンジで揺さぶりサイドの崩しを狙います。あるいは、後ろの3枚やAcに対して相手Voが出てくれば、ウーデゴールやベンゼマへのパスコースが空くことになります。


崩し〜深み(裏抜け)と連動性の不足

4-2-3-1というシステムに限らず、守備ブロックを崩す上で重要になるのは奥を取る意識、つまり裏抜けの動きを繰り返すことによりそこにボールを送り込んだり、そうして深みを作ることで空いたバイタルに積極的に侵入していく意識です。率直に言えば、今のレアル・マドリーはこの点に大きな問題を抱えています

サイド高い位置でボールを持った時、WGとSBなどのコンビネーションでサイドを崩してのクロスや、ライン間にボールを差し込んでレイオフを用いて前向きの選手を作ると言ったパターンが考えられますが、ロナウドがいた頃のレアル・マドリーは、相手ブロックがセットされている状態、サイドを崩し切っていない状態からでも容易く得点することができました。ロナウドは言わずもがなその跳躍力を生かしたヘディングと、ゴール前のわずかなスペースを瞬時に認知しマーカーを外してシュートを打つという能力がずば抜けており、ベンゼマはロナウドの動きに合わせて交差したり相手DFをブロックしたり。ベイルもトッテナム時代と比べ空中戦は格段に強くなりました。それに加えてディ・マリアやマルセロという世界最高クラスのクロッサーの存在。堅いブロックを形成する相手に対し、ベンゼマ&ロナウドの阿吽の呼吸と(浮き球)ピンポイントクロスに大きく依存していました

今のレアル・マドリーにそれらはもうありません。従って、サイドの高い位置でボールを持った後さらにサイドの深い位置orチャンネル(CBとSBの間のスペース)に侵入すること、そしてそうしたプレーを続けることでライン間のスペースを広げること、これらが必要になってきます。

先程確認した配置を元に考えましょう。例えばメンディが高い位置でボールを受け、相手の右SBが対応に出た時、その裏やチャンネルにスペースが生まれます。シンプルにワンツーを使ってサイドレーンを利用する場面も何度かありましたが、相手SHの帰陣が速く止められたりクロスを弾かれたりされてしまいます。そこで、このスペースにヴィニシウスなどHSに位置する選手が斜めに裏抜けすることでより深い位置に進入する方法があります。この裏抜けの真の意図はそこでボールを受けることではなく、マーカーであるCBやVoを外に釣り出すことです。これにより、メンディが中に侵入していくスペースができたり、あるいはウーデゴールや他の選手が空いたスペースに走り込んだりベンゼマへの斜めのパスコースが空いたりと様々な選択肢が生まれます。例えばウーデゴールが片方のCBが釣り出されて出来たスペースに2列目から斜めに飛び出していくと、もう一人のCBはベンゼマを見ているため、相手のVoがついて行くしかありません。そうすれば、裏でボールを受けられなくてもさらにバイタルにモドリッチやクロースが侵入するスペースが生まれます。スライドしてベンゼマを見ていたCBがカバーに入るなら、それだけ片方のサイドに相手を寄せることができ、今度はサイドチェンジが威力を発揮します

レアル・マドリーの今の攻撃陣には、明らかにこうした攻撃パターンがデザインされておらず、自由度が高いために個々がバラバラの動きをしています。ヴィニシウスを筆頭に足元でボールを受ける意識が強く、裏抜けを狙うことがあっても「自分が受けるため」の動きである印象を受けました。ウーデゴールもチャンネルに侵入して欲しい場面で足元にボールを要求していることが多かったです。効果的な囮となるオフ・ザ・ボールの動きをし、それにより空いたスペースを周囲の味方が使おうという意思統一がなされていないせいで、連動性を欠いた攻撃に終始してしまっているのです。連続的にレーンを跨ぐ裏抜けとそれにより生まれるスペースへの侵入を行うことで、相手に多くの選択肢を突きつけ、マークの受け渡しのエラーを発生させることができます。これは4-2-3-1や4-3-3といったフォーメーションの問題ではありません。崩しに繋がるシーンはありましたが(フィニッシュの項で説明します)、各々の動きが偶然うまくいったからにしか見えず、再現性が低かったです。前線のフィニッシュ精度を考慮すれば、再現性を高めさらに多くのチャンスを作らなければ点を奪えないのは明らかです。

この試合に出場した攻撃陣で普段から意図的にこのフリーランができる選手はモドリッチ(とベンゼマ)くらいです。例えば4分20秒〜のシーン。モドリッチのフリーランにより空いたスペースでウーデゴールがボールを受け、モドリッチについて行って目線を切らされた相手左CBが体の向きを変えてウーデゴールに寄せようとしたところ、フリーとなったモドリッチにパス。

しかしこの布陣ではモドリッチは2Voの一角であり、長い距離を走ってこれをやらせるのは明らかにタスク過多です。つまり、2列目の3人がそうしたタスクを引き受ける、またお互いがその意図を汲み取る必要があります。確かにウーデゴールはこの試合で、何度かライン間でボールを受けてサイドに展開したり、ベンゼマへのスルーパスなどというプレーを見せました。彼の出し手としての能力の高さは誰もが知っていますが、もっと深い位置に侵入して受け手としても機能することが求められます。ペアを組むベンゼマという選手は自ら落ちてボールを引き取り、前を向いて出し手となることも好むため、その特徴上状況に応じて彼と連携しつつこれができなければ、役割が被って消えてしまうのです。


フィニッシュ〜緩急と精度の不足

この記事で書きたかったメインは崩しの部分ですが、フィニッシュの場面でも似たようなことが言えます。ビルドアップ・前進の成功シーンは無数にありましたが、実際に崩しの項で書いた一連の流れがハマって良い形からチャンスを得たシーンはごくわずか。24分30秒〜25分40秒のシーンを振り返ります。ぜひ見返してみて下さい。

大きく開いたCB(相手の2トップが見る)の間にクロースが降りてきて数的優位を作ろうとしたところ、相手Voの1枚が食いつきます。Acポジションに入ったモドリッチがボールを受け、3枚となり間が空いた中盤ラインの間を通す縦パス。ウーデゴールが前を向いて6対4という数的優位の状況。右へのスルーパスを受けたロドリゴはこのクロスを一番手前のDFに当ててしまいます。

その数秒後、モドリッチがヴァラン脇に落ち後ろの3枚の一角として振る舞い、ここに相手左SHが食いついたことで幅を取るカルバハルに対して左SBが出てきます。ヴィニシウスがサイド裏に流れて左CBを釣り出し、空いたスペースでロドリゴがボールを受けます。4分のシーンと同様に相手左CBは目線が切れ慌てて中央を向くとすかさずフリーとなった右のヴィニシウスにスルーパス。4対3という状況でしたが、ここでもヴィニシウスのクロスは手前のDFに当たりゴールとはなりませんでした。

まず一つは、繰り返し述べているようにこうしたスペースの連続的な利用の意思統一を計り再現性を高めることが大事です。ですが、このようなビッグチャンスを簡単にフイにしてしまうところもレアル・マドリーの得点力不足の一因であることは言うまでもありません。

これらのシーンを見てみると、ゴール前に入る選手達は皆同じスピードで、なおかつ直線的にゴールに向かっています。ロナウドがしていたような緩急をつけてマーカーを外す動きや交差する動きがないためこれでは守備側のクロス対応としては簡単です。

それに加えてヴィニシウスやロドリゴのクロス精度と判断もまだまだと言わざるを得ません。また、中の動きが少ないためクロスを上げる側の選択肢も限られてしまうのです。中の動き方の整備も必要ということです。


まとめ

レアル・マドリーにとっての開幕戦で、期待のウーデゴールを起用する4-2-3-1というシステムを採用しました。しかし実際のところ、ビルドアップの陣形などからして攻撃の観点から見ればカゼミーロのいる4-3-3とそこまで大きな違いはなく、ビルドアップでのミス、ミドルゾーンでボールを失うことが減るという一定の効果はあったものの、やはり点を取るという面では主に2列目の若きトリオの意識的・技術的な部分、そして連携面で改善の余地が大いにあります。それは前述の通り、裏抜けの少なさ、裏抜けに伴う周囲の連動の意識の低さ(意思統一ができていない)だったり、フィニッシュの精度の低さや緩急のなさ、単調さです。フィニッシュの精度の低さに関しては個の能力に依るところが大きいものの、原因をそれだけで終わらせてしまえば今後のチームの成長は補強するくらいしかありません。

①チームとして崩しからフィニッシュまでの意思統一を計る(形をデザインして落とし込む)
②ヴィニシウスやロドリゴ、アセンシオのフィニッシュ精度を向上させる
③ワールドクラスのWGあるいはストライカーを補強する(アザールを完全復活させる)

レアル・マドリーというチームは従来、①を無視(選手のアイデアに依存)し、③をし続けることにより世界のトップを走ってきたクラブです。ジダンもスターをまとめあげるモチベーターとしての手腕が真骨頂であり、咋季は全員に高い守備意識を植え付けることで堅いチームを作りあげました。しかし、今のチームにロナウドはおろか、エンバペやサラー、マネのようなスピードと高いシュート技術を併せ持つ選手や、ネイマールやマフレズのように一人で2、3枚を引き付けてくれる選手や、ニャブリやスターリングのようにオフ・ザ・ボールの動きに優れた選手はいません。現時点でクラブとしてもワールドクラス獲得の目処は立っていないため、①②、特に①に全力を注ぐしかないということです。①の一例として今回レアル・マドリーの配置に則った4-4-2攻略を紹介してみましたこうした形をチームに落とし込むことができなければ再現性の高い攻撃は見込めず、ラ・リーガで安定して勝ち続けることは不可能であり、ヴィニシウスなどの選手はオープンな展開でしか輝けないでしょう。ジダンにこれを任せるのは不安しかないですが、改善して欲しいと切に願います。そしてアザールの復活を。


最後までお読みいただきありがとうございました!


(まだ分析記事を書き始めて日は浅いですが、マンチェスター・シティ戦分析記事など多くの方々に読んで頂きました。僕自身footballistaをはじめとする多くのサッカー記事に目を通し、勉強しています。元々こうした記事を書くきっかけとなった所属する大学サッカー部の活動も無事再開し、リーグ戦の対戦相手のスカウティングやデータ分析の活動、そして何より秋学期の授業が始まることから、毎試合のレビューを書くのは難しくなるため、今回のような形でポイントを絞って引き続き発信していきたいと考えております。今後とも読んでいただけると嬉しいです。)

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